その日は久しぶりにカカシの家に泊まった。 「・・・・・」 先に目が覚めたのは。 隣でこちらに背中を向けて静かに眠るカカシを置いて、そっとベッドから抜け出し、そのまま起こさないように身支度を整えた。 きっと起きているであろうカカシの背中を見つめたのち、カカシの家を後にした。 自分の家に帰り、シャワーを浴びてベッドに倒れこんだ。 静寂な空間に、自分の呼吸音だけが聞こえる。 なぜかそれが心地よくて、身動きも取らずにぼーっと部屋の片隅を見つめていた。 だんだんと日差しがあたたかくなっていき、そしてだんだんと冷たくなっていく。 部屋の中もそれに合わせ明るくなり、暗くなっていった。 なにもせず、ただひたすらに虚空を見つめ、頭の中をからっぽにしていた。 それから次の日、その次の日もろくに食事もとらずに部屋の中に籠ったまま。 なにかを考えようとすると、考えたくないものまで浮かんでしまう。 それが恐ろしくては何も考えなかった。 家の中にいれば何も考えなくて済む。 何も考えないのが、思考に押しつぶされなくて一番楽だった。 「このまま死ぬのかな」 それはそれでいいか、と再び目を閉じると、突然玄関の戸が叩かれた。 「・・・・・」 ここ数日間、何度か扉は叩かれていたがいずれも無視を決め込んでいた。 死んだのではないかと噂されているのだろうか。 例に倣って今回も静かに息をひそめていたが、今回の相手はなかなかしつこい。 「うるさいな・・・」 もう放っといてほしいのに。 自分を抱きしめるように足を抱え込み、小さく丸くなってやりすごそうとした。 「!いるんだろ?!」 「!」 の名前を叫ぶ悲痛な声が鼓膜を震わせ、強くつぶっていた目が驚きで大きく開かれた 思わず手で耳をふさぐ。 それでも漏れ聞こえてくる彼の声に、せっかく空にした頭の中にとめどなく記憶が溢れかえってきた。 「、出てきてくれよ・・・」 「やめて・・・」 「!僕だよ、急にごめん、聞こえてるんだろ?!」 「いや・・・もう、やめて、やめてよ・・・!」 無我夢中でベッドから立ち上がり、ドタドタと玄関へ向かいドアを勢いよく開けた。 「もう、やめて!」 「あっ・・・!」 勢いでドアを開けたはいいものの、それでも彼の顔はどうしても見られなかった。 「もう帰って、お願いだから」 「よかった!無事だったんだね!」 の突き放すような言葉に反して彼はギュッと抱きしめた。 「ちょ、ちょっと!」 「心配したよ・・・随分やつれたね、大丈夫?」 ふわりとかおる彼のにおいと優しい言葉に、途端に心がほだされる。 拒もうとする手に力が入らなくなり、ブランと力なく下がってしまった。 「なにがあったの?僕になにかできることある?」 「・・・・・」 子供をあやすような彼の柔らかな言葉は、の膿んだような傷をえぐるようだった。 「の力になりたいんだ」 「ごめんなさい・・・ごめんなさい」 「?」 ようやく彼の暖かな腕から抜け出して、再び孤独の部屋に戻ろうと後ずさりした。 「ごめんなさい」 「ま、まって!一体、なにがあったんだよ」 グイッと腕を引っ張られ、彼の腕の中に再び抱きとめられた。 「僕は、のことが好きなんだ。だから僕のこと、頼ってくれよ」 彼は優しく微笑みながらの頭を撫でた後、頬に手を添えて上を向かせた。 彼の顔が近寄って、は思わず彼の胸を力強く押して遠ざけた。 「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」 「いや・・・僕も、なんか・・・ごめん」 気まずそうに頭をかく彼に、ズキンと胸が痛む。 「・・・・ッ」 自分の震える手を見て、ハッとした。 ついに拒んでしまった。 彼の愛を求めていたはずなのに、それすらも撥ねつけてしまった。 「ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・」 瞳いっぱいに涙が溢れてきて目の前が歪んでくる。 その涙がこぼれる前に、バタバタと部屋の中に逃げ込んでバタンとドアを閉めた。 「う・・・うう・・・」 ズルズルとドアに寄りかかったまま座り込み、膝を抱え込んで涙を流した。 暫くしてドア越しに彼が帰る足音が聞こえてきた。 「・・・・・」 もう、ダメなのだ。 心の空白を埋めるものは、もう彼ではないのだ。 空っぽの心をさらにガリっと削られて、本当の自分がなにを求めているのか、この涙の理由がハッキリとわかった。 「カカシ・・・・」 一度離れてしまうと、もう一度もう一度と求めてしまう。 ただ名前を呼んだだけで得も言えぬ感情が込み上げてくる。 「会いたい、カカシ・・・」 体も心もすべてを奪われてしまった。 あぁ、なんて非道い男なんだろう。 愛の言葉なんてない、優しく抱きしめるあたたかさもない。 そんなこと分かっているのに、カカシに会いたくて仕方がない。 気づけば身支度を整えていて、あんなにも逃げていた場所に身綺麗にして自ら行くなんて。 あぁ、果たしてこれでいいのだろうか。 久しぶりに外に出て、どこか足早に通いなれたカカシの家へと歩いていく。 カカシがいるかいないかなんて考えもせず、ただひたすらにカカシを求めて足を動かす。 「はあ・・・はあ・・・」 息を切らしてたどり着いた目的の家の前に立ち、一気にあの時のことが脳内によみがえる。 戸を叩こうと腕を上げるも、その腕は震えていた。 答えなんて誰も分からないのに、本当にこの扉をたたいていいのか今更不安が込み上げる。 「・・・?」 「!」 聞きなれた声が鼓膜を震わせた。 その声がするほうへ振り向くと、偶然カカシが任務から帰ってきたようだった。 「なに、どうしたの?」 ドアの前にたたずむの前へ割り込み、まるで何事もないかのように玄関のカギをポーチの中から取り出した。 カカシの質問に答えることもできず、ただその後姿を見つめるばかり。 鍵が回る音がしてドアが開かれた。 カカシはを振り返ることなく一人で家の中に入り、開かれたドアは再び閉じようとした。 「入んないの?」 閉じる、と思った瞬間に再びカカシがドアを開け、うつむいたままのに声をかけた。 カカシの言葉にフラフラと引き付けられるように家の中に一歩入ると、バタンと後ろでドアがようやく閉まった。 が中に入ったからと言ってカカシは何かするわけでもなく、そのまま奥へ行って装備をおろし始めた。 「・・・・」 自分でもどうすればいいのかわからず、ただうつむいて立っているだけ。 そうこうしてるうちにカカシは忍服から私服に着替え終え、ベッドの端に座りこちらを覗き込んだ。 「いつまでもそこにいられると怖いんだけど」 「あ・・・ご、ごめん・・・」 慌てて靴を脱ぎ、カカシが座る近くへおずおずと歩み寄った。 「座れば?」 そう言われてきちんとカカシと少し間を開けてそっと座る。 それでも自らなにか言葉を発する勇気はなく、気まずい空気が静かに流れる。 「はあ・・・」 この空気に辟易したのか、カカシは一つ溜息ついて鬱陶しそうに頭をガシガシとかいた。 「それで、なんで俺の家に来たの?何日も来なかったってことは、この関係を終わらせたんじゃないの?」 ようやくカカシが話しだしたと思えば、グサッと刺さる遠慮のない言葉。 思わず何も言えなくて、代わりにぐわっと涙が込み上げてくる。 「わたしは、もう・・・、ダメ、だから」 震える声でそう告げると、部屋の隅を眺めていたカカシが怪訝そうな顔をして振り返った。 「ダメ?」 「もう、カカシのことがなにもかも欲しくなっちゃったから・・・だから・・・」 つう、と一度涙が頬を伝えば、あれよあれよとそれを伝って涙がはらはら流れていった。 どうか嫌わないで。 愛してくれとは言わないから、嫌いにだけはならないで。 「別に、ダメじゃないでしょ」 「ダメだよ。だって・・・」 一人は遊びの関係として楽しんでいるのに、一人は恋愛感情を持っているなんて、そんな面倒くさい関係は終えなければならない。 こんなことカカシに伝えてなにを望んでいるんだろう。 それでもいいよ、なんて言葉を期待しているのだろうか。 「わたしはカカシのことを、好きになっちゃったから」 ついにこの関係を終わらせる言葉を告げて、流れる涙をそのままにベッドから立ち上がった。 そしてきっと呆然としているカカシのことを振り返ることなく、家から出ようと玄関のほうへ足を踏み出した。 「っ」 名前を呼ばれたかと思えば、背中にドンと衝撃があったあとあたたかさに包まれた。 「カ、カカシ?!」 何が起きたがわからなかったが、体の前に回されたカカシの腕にようやく後ろから抱きしめられていることに気が付いた。 カカシの顔が見えない分、余計に意図が分からない。 ドキドキとうるさいくらいに騒ぐ心臓の音が背中越しにカカシに伝わってしまいそう。 「この関係を、終わらせよう」 カカシが放った言葉はズシリと重くのしかかった。 あぁ、やっぱり。 もう終わりなんだ。 そう思った瞬間に、気が抜けて張っていた心が一気にしぼんでいくのを感じた。 脚に力が入らなくなって、ため息とともにその場にしゃがみこんでしまいそうだった。 「だから、」 カカシの低い声が背中に響く。 「これからは新しい関係になろう」 「え?新しい・・・関係・・・?」 今の状況に気が動転して、カカシの言葉の訳が分からない。 「だからつまり・・・」 カカシは抱きしめていたを一度離しこちらに振り向かせた。 されるがままでぽかんとしているに、カカシはそっと口づけた。 「!」 「こういうこと」 それはほんの一瞬だったのに、触れ合った唇はあたたかく、優しかった。 カカシとは何度も口づけてきたけれど、こんなにも心奪われる口づけは一度もなかった。 今までとはまったく違う口づけ。 その違いが何なのか気づいた瞬間、の目からとめどなく涙があふれ出してきた。 「カカシ・・・」 「悪いけど、俺は最初からのことが好きだったよ」 カカシは今まで見せたことのないような照れた笑いを見せ、泣きじゃくるの頭をやさしくなでた。 「う・・・うそだ・・・そんな都合のいい話・・・」 「んー、心外だなあ」 あまりにも信じられなくて、つい思ったことを口にするとカカシは困ったように頬をかいた。 「だって、そしたらあんなこと・・・!」 「じゃないとがとられそうだったから」 「え?わたしが?」 まさか自分が原因なんて思ってもいなく、さらにカカシに聞くも気まずそうに目をそらされてしまった。 「まあこれで信頼を得られるなら全部白状するけど・・・」 それでも言葉を濁らせるカカシをじっと見つめれば、ようやく観念したように口を開いた。 「簡単に説明すると、術を使ってあいつを眠らせてを連れ出したし、約束があるのを知って無理やり任務としてあいつを呼び出したり、写輪眼使ってに幻術をかけた・・・かな」 「え?え??」 言われてみれば思い当たる点がいくつもあり、そのすべてに彼がかかわっているのに気が付いた。 「何としてでも、なんて言ったらどう思う?」 「そんな・・・」 聞けば聞くほど、ドキドキと鼓動が激しくなる。 「だったら、本当にカカシは・・・」 「のことが好きなんだよ」 カカシの低く響く声がビリリと鼓膜を震わせて全身を包み込んだ。 そっとカカシが顔を寄せ、いまだ呆然としているに優しく口づけた。 「ごめん・・・もっとちゃんと伝えてあげればよかった」 「ううん、いいの。いいから、もっと・・・」 カカシの首に腕を回し、もう一度とカカシに口づけを求めた。 「喜んで」 の望み通りカカシは何度も口づけ、そのすべてが愛に満ち溢れていた。 その愛に触れるたびにの心が震えて涙が止まらなくなる。 キスがこんなにも心地いいなんて。 「・・・」 お互い熱に浮かれたように見つめ合い何度も口づけを交わしていると、そっとカカシがをベッドに押し倒した。 「いい・・・?」 「な、んで聞くの」 今までそんなこと聞かれなかったのに、カカシの真剣なまなざしと言葉にかあっと頬が熱くなる。 の言葉を肯定に捉えたカカシは優しく微笑み、再び口づけながらゆっくりの体に触れていった。 「ほんとは、がここに来なくなって不安だった」 突然ぼそっと呟いたカカシの言葉。 「体で繋ぎとめようとした俺がバカだったんだって、後悔してた」 「カカシ・・」 「だから実はいま・・・めちゃくちゃ嬉しい」 そうはにかむカカシの表情が全てを物語っていて、そんな顔を見せつけられたらの感情も抑えきれるわけもなく。 「ずるいよ、本当にカカシはずるい・・・」 「うん、ごめん」 カカシはクスクス笑いながらの頭を撫で、そっと優しく口づけた。 本当にずるい。 そんな風に笑うなんて、そんな風に口づけるなんて。 カカシが触れたところがすべて熱を持ったようにあつく、あれほど身体を交えたのにこんな感覚は初めてだった。 お互いの服を脱がし合い、体中を愛撫し合う。 はあ、と互いの熱く乱れた吐息が耳を刺激し、素肌が触れ合うたびに溶けてしまいそう。 「なんか今日、おれヤバいかも」 「・・・わたしも」 自分だけが切羽詰まってるのかと思いきや、どうやらカカシも同じ気持ちだったようで安心する。 それでもカカシはを愛撫する手をやめず、スルスルと下半身へと手が伸びる。 「あっ・・・!」 「すご・・・」 突然、カカシの長い指がぬるりと中へ入ってきた。 「やっ、んんっ・・・!」 心も体も待ち望んでいた分、過剰に反応してしまう。 そこはもう自分でもわかるくらいによだれを垂らしていて、はやくほしいと言わんばかりに腰が揺れた。 それに気づいたカカシはニヤリと見慣れた笑みを浮かべ、ずるりと指を抜いた。 「おれも早くが欲しい」 「カカシ・・・」 真剣なまなざしでを見つめながらカカシの自身があてがわた。 ぬるりとその場所をなぞられるだけで、ドキドキと胸が高鳴り頭がおかしくなりそう。 「挿れるね」 「んっ・・・!あっ、ああっ!」 ついに待ち焦がれた快楽がを貫き、悦びの声があふれ出した。 「やっぱ、最高だよ」 ニヤリと笑ったカカシの笑みが艶やかで、思わずは言葉が詰まる。 暫く互いの存在を感じ合うように動かないままだったが、ついにカカシがゆっくりとを揺さぶった。 「もっとを感じていたいんだけど」 はあ、と吐息を漏らしながら前髪をかき上げるカカシに目が釘付けになる。 なんて官能的なんだろうか。 「カカシ・・・ッ」 快楽の海に溺れてしまいそうで、すがりつくようにカカシに腕を伸ばして抱き着いた。 カカシもそっとを抱きしめるように腕を回し、首元や胸元に口づけを落とした。 「・・・はあ・・・ッ」 耳元でカカシの吐息やかすれた声がささやかれ、ただでさえもう限界が近いというのにますます高みに追いやられる。 「・・・愛してる」 「!」 カカシの言葉を聞いた途端、電撃が走ったかのようにドクンと心臓が跳ね上がった。 「好きだよ、愛してる」 「ダメ、頭おかしくなりそう・・・」 「いいじゃん。俺に狂ってよ」 そう言いながらカカシは心底愛おしそうに口づけ、それはあまりにもは幸せすぎて、こらえきれずに涙があふれてくる。 「カ、カシ・・・好き、カカシ・・・愛してる・・・」 「俺もだよ、。愛してる」 うわ言のように言葉を漏らしながらカカシからの愛を全身で受け止めた。 愛をささやいて抱いてくれること。 それをどんなに望んでいたことか。 「・・・く、はあ・・・」 「あ、イく、カカシ・・・あっ、んんっ!!」 達する寸前にカカシに口づけられ、呼吸もままならないまま絶頂を迎えた。 それは今までの中で一番気持ちよく、一番幸せだった。 「嬉しい、幸せ・・・カカシ」 はそう呟いてそのまま意識を失うように眠ってしまった。 次にが目を覚ますと、あたたかなベッドの中、先に起きていたカカシがこちらを見て優しく微笑んでいた。 「・・・いつから起きてたの?」 「少し前。の寝顔見てた」 いたずらっぽく笑うカカシに、もつられてクスッと笑った。 「おはよう、」 朝の陽ざしを浴びてキラキラ輝く愛しい人。 幸せはこんなにも色とりどりで、美しい。 4<<< Under TOP >>>6 |