やってしまった。 絶対に、なにか勘違いしている。 少し足取りがおぼつかない後ろ姿を見つめながら、今すぐにでも「あなたが好きです」と叫びたかった。 何度も口を開けて呼び止めようとするのに、声を出す勇気が出ない。 パクパクとバカみたいに口だけが動く。 あぁもう、自分のふがいなさにどこまでも腹が立つ。 いや、でも本人を目の前にして突然告白・・・の練習をするなんて思いもしなかったじゃないか。 心の準備だなんて言ってる場合でもなしに、見切り発車で話始めた自分が悪い。 好きな人がいるんです、と言った時のあの顔は、果たしてどういう意味だったのだろう。 親身になって告白文のアドバイスをしてくれたのは、どうしてなのだろう。 やっぱり脈なし・・・? 「あ〜もう・・・」 これからどうするかが、肝心だ。 * * * * それからというもの、モヤモヤとしたままあっという間に数日経ってしまった。 この前のように偶然を装って会うこともできたはずなのに、のことを思うとズクリと変に心臓が跳ねる。 モヤモヤした気分を晴らそうと、ふらふらと外へと出てきた。 気配を配りながら歩いていると、ピクリとの気配が感じられた。 いつもだったらこちらから近寄っていくところだが、今はまだ、会えそうな気持ちの余裕はない。 やばい、と辺りを見渡すも、どこかに隠れられそうな場所もない。 それならばと印を組み、瞬身でその場から消えようとしたが、思ったより早くが現れた。 「あっ、カカシくん?!」 「・・・さん」 お互い引きつった笑顔が顔面に張り付いている。 違う、こんな風になりたくて恋愛相談をしたわけじゃない。 そりゃ酒のせいでぽろっと言ってしまった感は否めないが、気まずくなるために言ったわけではない。 ぐっと拳を握って意を決する。 「さん、今晩、どうですか」 「えっ?あ、うん、いいよ。いつものところね」 「あ・・・いや、さんの家に迎えに行きます」 いつもと違うカカシの申し出に、は目をぱちぱちさせた。 「あ、うん・・・いいよ。じゃあ、また夜に、ね」 どう見ても戸惑っているにカカシも曖昧な笑みを浮かべ、大した会話もせずに別れてしまった。 「・・・・」 少し、期待していた自分がいる。 このあと買い物にでも付き合わない?なんて言われるかと思っていた。 きっと無事に彼女ができて、その報告を兼ねて飲みに誘われた、そう思ってるに違いない。 ガシガシと頭をかいて、さっさと日が暮れるのを待つと共に夜に向けて心の準備を進めた。 * * * * 「わあ、こんな素敵なバーに来るならもう少しおしゃれしてくればよかったかなあ」 結局あのあと、逃げ出したくなる気持ちを抑えてを迎えに行き、もでなんともいえない表情でカカシについて行った。 二人の間に微妙な空気が流れる中、たどり着いたのはジャズが静かに流れるシックなバー。 「俺も忍服のままだし、大丈夫ですよ」 「あ、そこは今のままでも十分きれいですよって言うところでしょ」 クスクスと笑うに、すこしほっとしたカカシもようやく微笑みがこぼれる。 カウンター席に座り、各々好みのお酒を頼んだ。 「それじゃあ・・・・、乾杯」 なにに乾杯なのか、少し目を俯かせたは言わなかった。 カチン、と小洒落た音をたててグラスを軽く打ち付けた。 「・・・・」 「・・・・」 お互い自分のグラスを傾けるばかりで沈黙が続く。 カラン、と氷がグラスに当たる音がよく響く。 「それで・・・、どう?うまくいったの?」 沈黙を破ったのは、グラスに目線を落としているだった。 決してカカシの方を向かないに、カカシも一度はの方へ顔を向けるも、同じようにグラスに視線を落とした。 「いえ、それがまだなんです」 「ええ?まだなの?も〜、小心者なんだから!」 ようやく顔を上げて、ペチンとカカシの肩を叩いた。 面目ない、とカカシもに苦笑した。 「それで、もう一度練習に付き合ってくれません?」 「・・・また〜?」 カカシの申し出に、は一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑顔を見せた。 「ま、ちょうど素敵なバーにいるんだし、せっかくだから聞いてあげよう」 そうは言うものの、再びグラスに視線を落とした。 カカシはぐいっとお酒を飲み、一方的にを見つめた。 「・・・・・」 小さく息を吸って、また小さくはいて。 心の準備だなんて、とっくにできているじゃないか。 「さん、俺はあなたのことが好きです」 2<<< Novel TOP >>>4 |