その日の夜。
というより明け方近く。

はある気配で目が覚めた。


「・・・ん?」


寝ぼけながらベッドから体を起こす。


未熟ながらの必死な殺気。
廊下からのしのし歩いてくる。

の家を通り、カカシの家の前で止まる。
そしてドアをたたく音。

最初は控えめだったが、何度も叩いているうちに、いらついてきたのか大きな音をたててドアを叩く。

「なんだなんだぁ〜?」

眠気なんてすっかり覚め、わくわくしながらベッドを抜け出す。
おやつ代わりのバナナの房と共に、コートをかけてある穴の前にあぐらをかいた。

「カカシ!あなた起きてるんでしょ?開けなさいよ!!」

ドアを叩いてた主は女性らしい。
しかも相当怒っている。

「ほうほう女性関係、と」

もぐもぐとバナナを食べる。
コートの向こうでカカシがドアに向かうのがわかった。

カカシはドアも開けず、冷たい一言


「帰れ」


その声に、はにやにやした。

『女性関係ですねカカシさん!そんな女性を冷たくあしらうといつか刺されますよ〜!』

案の定、女性はキンキンした声で叫びまくる。

「いい加減にしてよ!私、どんだけあなたを想ってるかわかってる?」

泣いてるのだろうか、声が震えている。
の食したバナナは3本を超えた。
バナナの皮が足元に広がる。

「・・・今、何時だかわかってる?」
「それがなによ!今夜お前の家に飯食いに行くって言っといてずーっと来ないじゃない!」


『うわぁ・・・ヒステリーだなあ・・・』

ガチャっと隣のドアが開く音がした。

「カカシ!」

女が嬉しそうな声をあげる。


「もう二度と来るな。今度来たら、殺すよ?」

の食べかけのバナナが床に落ちた。

なんてするどい殺気。
忍のですら震える。


「ひ・・・」

女が床に倒れる音がした。

そして無情にもドアが閉まる音。

カカシが部屋の奥へ帰ってくる。
そしてなにもなかったかのようにベッドへ寝た。

『なんてやつ・・・』

は床に落ちたバナナを食べ、玄関へ行きドアを開ける。
そこには床に尻もちをついた、少し派手目な女性。

「あのー」

が声をかけると、びくっと体を震わせてを見た。
ぼろぼろと涙がこぼれている。

「大丈夫ですか?立てますか?」

女性の元へ歩み寄り、しゃがみこむ。
女性はひどく震えている。

「・・・バナナ、食べます?」

バナナを与えたが、女性は手を出そうとしない。

はため息をつき、女性を抱きかかえた。
女性のバックにバナナを突っ込んで、背中に背負い、瞬身で病院へ向かった。

がたがたと震えている女性を病院に預け、はとぼとぼと歩きながら家へと帰った。

4月だといっても明け方は冷える。
つい薄着で家を出てきてしまった。

「寒い・・・」

朝焼けの空を眺めて、カカシのことを思い返した。


本当のカカシはどっちなんだろうか
冷たい人間?
実は優しい人間?
鬱陶しいと嫌われる。
まぁ、これは誰でも一緒か。
にしてもさっきのはひどい。

「ていうかこわー。殺気はんぱなーい」

思い返すだけで震えが来る。


「おーこわいこわい」
「誰がこわいって?」


聞き覚えのある声が。

「あっ」

屋根の上にカカシが立っていた。

「なーにやってんの」
「別になんでもないですよー。カカシさんには関係のないことですー」
「関係ないって・・あの女、わざわざ送って行ったんだろ?」
「病院に、ですよ」

カカシが屋根から降りてきた。
すとん、との前に立つ。

寒さで体を丸めていたは、カカシを見上げた。
ラフな格好にマフラーなんぞして口元を隠している。

「なんで瞬身で帰らないの?」
「チャクラ、使いたくないで」
「ふーん」
「わっ!!な、なにやって・・・!!」

ぐわし、と急に抱きかかえられ、担ぎこまれた。
そしてカカシの瞬身で自宅へと戻っていた。
というか、隣室のカカシの家の中。

「はー寒い寒い」

ソファに座りこみ、手を擦り合わせたカカシ。
どさ、とその隣に座らされた

「はい、マフラー」

カカシのマフラーを無理やりさせられた。

「なにしてんすか」
「寒くない?」
「寒い」
「でしょ?」

自分も寒いくせにマフラーを渡すカカシ。

「ふふ。カカシさんって変ですね」
「お前には負けるよ」
「えーそうですかねー」

くすくすとは笑った。

「・・・じゃなくって!なんなんですかさっきの!」
「なに」
「あの女の人!」

急にカカシの雰囲気が怖くなったのを感じ取った。

『う・・・地雷?』

「こんな時間に来るのが悪い」
「でもカカシさんも約束破ったんですよね?」
「あんな約束した覚えはない」
「は?」
「ていうかあいつは誰だったんだ」
「はああ??」

しらっとカカシは言った。
だがその言葉はには衝撃的だった。

「まあいい。そういえば今日任務だった。夕飯、よろしくね」

カカシはソファから立ち上がり、洗面所へ行ってしまった。

「いやいやーよくないでしょ。やばいでしょ。夕飯よろしくねって・・・まあいいですけど・・・今のは衝撃的ですって」

ソファから立ち、ぶつぶつと呟きながらは隣の自分の家へと帰った。


「はー。ただいま」

今日は任務はない。
久々の休暇がはいったのだ。

「あれ、バナナ全部食べちゃったのかぁ。買い物行かなきゃ」

といってもまだ早朝。


「ねえ」

どこからか声がする。
あの穴からだ。

「朝飯、食べる?」

まさかのカカシからの朝ごはんの提供。

「いいんですか?」

穴に近寄りコートをあげると、そこにはバナナ。

「・・・そんなばなな・・・」

カカシはすでに家を出たらしい。
気配がなかった。

バナナを手に取り、コートを下ろす。

「ん?」

バナナの皮に、カカシの字であろう達筆な字で

『ありがとう』


それを見たとたん、はつい微笑んでしまった。

「もー・・・しょうがないなぁ」

くす、と笑ってバナナの皮をむき、一口。


「んーおいしい」


そしてようやくいつもの朝が始まった。





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