4月に年1回の寮部屋替え。


一回任務に行けば3か月は帰って来ない忍。
年がら年中、部屋に居ては騒ぐ忍。

前者が隣になればいいが、後者が隣にくれば、一年は最悪な一年になるだろう。


「よし、じゃあくじを引け」

忍寮のアパートの前に、ぞろぞろと忍が集まった。
忍たちの前に、机。そしてその上には箱。
その机の前に、暗部の面をつけた忍。

暗部がずい、と箱を前にすると、我先にと忍が箱めがけて手を差し伸べた。

「うおおおおおおおお!!!」
「端の部屋とったああああああああ!!!」
「・・・」
「げ・・・」

全員がくじを引き終えた。
すると暗部が

「土遁!土流壁!!」

りっぱな壁が現れ、そこに一枚の大きな紙を張った。
その紙には、アパートの見取り図。
部屋番号の下に、くじの番号が書いてある。

「よし、じゃあ部屋番号を言っていく。その部屋のものは名前を言え。まず101号室!」


どんどん名前が書かれていく。
残された部屋はあと2つ。

3階の建ての最上階、一番端の部屋。
しかしその部屋は、隔離されていると言ってもいいだろう。

その二部屋は隣り合っているが、その部屋の近隣の部屋はない。
もちろん上は屋根となっている。
下の部屋はアパートの大家の物置。


ちなみに斜め下の部屋になった忍は、1回任務についたら3か月は帰って来ない忍だった。


「じゃあ319号室」
「はいはーい。やったー!!」
「320号室」
「はたけカカシ・・・」

物憂げに返事を返した男。

「うわーの隣、カカシかよ!かわいそー!」
「はぁー」

恨めしそうにという女を見るカカシ。

「カカシさん、よろしくね!隔離部屋の二人!」

にっこりと手を差し伸べ、握手を求める

「はいはい」

適当にそれをあしらったカカシ。
そして握手をすることなく、ふい、と体の向きを変えて、どこかへ行ってしまった。

空をつかんだ手をパクパクさせては手を降ろした。

ー」
「あ、ちゃん!」

そんなに声をかけてきたくノ一、

「あんたあのカカシさんと部屋隣なんでしょ?しかも隔離部屋!」
「そ、そうだけど」
「やりたい放題じゃなーい!」
「は、はあ?!」

かあ、と顔を赤くしたは、の部屋はどこか聞いた。

「えーっとね・・。あ、201号室。まるっきり反対ね」
「残念。遊びに行くからね」
「いやいや。むしろ私が遊びに行くわよ」
「?」

ふふ、とが笑ったので、とりあえずも笑った。
なんで笑っているのか分からないまま・・・。



「よし。じゃあ今から引っ越しを始める。30分後には各々任務に就けるよう用意しておけ!」
「了解」

そして忍の全員はアパートへと帰って行った。


暗部や忍の引っ越しなんて簡単だ。
いつ死ぬか分からない身、部屋に物など多くは置いていない。

段ボール箱1つや2つあれば足りるほどだ。




20分後、は新しい部屋でゆったりとシャワーを浴びていた。


「はーすっきり。さ、早く待機所に行かなきゃなー。服はどこだっけなー」

バスタオル一枚の格好で部屋を闊歩する。
いまだ玄関に段ボール箱がひとつ。
その中に服はしまったはずだ。
よいしょ、と段ボールに手を伸ばすと、突然ドアが開いた。

「ちょっといいー?」


「え・・・?!」


声がする方に顔を向ければ、そこには玄関のドアを開けた姿で硬直しているカカシがいた。


「いやああああああああああ!!!」


パシーンッ!!



数分後には、申し訳なさそうにカカシにお茶を出すがいた。

「あー・・っと。本当・・・すみませんでした」
「いや、こちらこそ・・・」

小さな机にお茶を置き、カカシが赤くなった頬を撫で、その目の前にが冷汗をかきながら正座をしていた。

カカシは額当てをとっていたようで、口布から覗く白い肌が、三本指の形に紅くなっていた。

カカシに裸体・・ではないが、それに近い格好を見られ、思い切り平手打ちをしてしまったのだ。


「あのー痛みます?」
「いや、大丈夫。これを渡しに来たんだ」

カカシはポケットから鍵を出した。

「え・・・?」
「はい。どーぞ」
「え、え、え?!そんな!まだ私たち会って間もないですよ?急に合か・・」
「落ちてた」
「・・・は?」

カカシはくすくすと嫌味ったらしく笑った。

「部屋の前に落ちてた。君のでしょ?」
「え」

よく鍵を見てみれば、目印のためにつけておいたハートのシールが貼ってあった。

「俺の部屋の合鍵じゃなくてざーんねん」

カカシはすくっと立って、部屋から出ていった。
ばたん、としまったドアがすぐにまた開き、

「あとお茶、ごちそーさん。美味かった」

それだけ言い残してカカシは行ってしまった。


は固まったまま。

つまり・・・。
さっき鍵を出してきたのは、カカシさんの鍵じゃなくって自分の家の鍵。
なんでさっき照れたんだっけ?
あ、カカシさんの鍵だと思って。
でもカカシさんの鍵じゃなくって自分の家の鍵。
なんでさっき照れたんだっけ?







で、そういう訳なんだから・・・。


「まさか私・・・すごい恥ずかしいことした?!」

要するに、渡された鍵をカカシの家の合鍵だと思って勝手に一人思いあがっていたことにようやく気が付いた。

「いやあああああ〜〜〜!!!」

恥ずかしさにクッションを壁に向かって思い切り投げつけた。


そしてに言おうと、待機所へすぐさま向った。




「っていう訳でぇ〜・・・」

床に座り、ソファに上半身を寝かせ、は半泣きでに全てを話した。

「あっははは!なにそれ〜!ていうかバスタオル姿見られて何にもされなかったの?」
「何にもって・・・何?」
「襲われたりはしなかったの?」
「ば・・!ば、ば、ばっかじゃないの?!」

はくすくすと笑いながらごめんごめんと謝った。

「もう帰りたくない〜」
「じゃあ私と部屋交換する?って言いたいところだけど・・・」

の提案に目を輝かせただったが、どうもだめらしい。

「だめなの?ちゃん」
「んー・・・。明後日から長期任務はいっちゃってさ。まあ長期っていうか中期?」
「どれくらい?」
「1ヶ月とちょい」
「会えなくなるねぇー・・・」

の顔を見て涙目。
子犬のようなに、思わずは微笑んで頭を撫でた。

「その準備を今日明日でしたいのよねぇ」
「じゃあ無理だねぇ」
「う〜ん・・・。ま、いいじゃない!」

にっこりとは笑って、の肩を叩いた。

「じゃ、私もう行くわ」
「えーちゃーん」
「泣くな泣くな。あんたが思ってるほど相手は気にしてないかもよ?」
「うー」
「じゃね」

はひら、と手を振って待機所から出ていった。

はそのままぱたっと上半身をソファに寝かせた。

「帰ろうかな」


その格好のまま瞬身の術で、家へと帰った。



それからは、カカシに会うこともなく、まるで何もなかったかのように何日か過ごした

ある日の夕飯時に、ぐう、とお腹がなった。

「ご飯でも作るか」

そういえば挽き肉が冷蔵庫に・・・。

「じゃあハンバーグかな」

ひき肉をこね、叩きつけ、焼く。
チーズを上に乗せ、ケチャップで装飾をして完成。

「わあー天才的!」

せっかくだし、とケチャップで木の葉マーク。
ちゃんにもあーげよ」

ハンバーグをタッパーに入れ、部屋を出た。


「えっと・・・一階下の一番端・・・あ、ここだ」

ピンポーン・・・


が出てくる様子はない。

「あ!」

そう、は長期任務に出てしまっているのだ。


「そういえば昨日わざわざ言いに来てくれてたんだった・・・」


の家の前から去り、自宅へと戻った。


「んーどうしよ。せっかく上手にできたし美味しそうなのに」

自分の分は十分ちゃんとある。
冷蔵保存はあまりしたくない。
「あ、そうだ!」

ピンポーン・・・

自分の家の隣のチャイムを押した。

「・・・はい」

出てきたのはカカシ。
眠そうな顔をして出てきた。
ていうか寝ていたのだろう。
額当ても口布もしていないラフな格好をしていた。

「あのーこれ、本当はちゃんにあげようと思ったんですけど、あ、ちゃんって私の友達で長期任務に行ってて、あ、長期任務って言っても1か月くらいなんですけど」
「あの」
「で、そのちゃんが長期任務で、この寮にいなくて、あ、ちゃんは201号室なんですけど、で、ちゃんが長期任務でハンバーグあげようと思って、あ、ハンバーグうちで作って余ったんですけど」
「・・・」
「捨てるのも勿体ないんですよね。すごいうまく出来たんですよー。で、よかったら食べませんか?」

ようやく言いたいことを言い終えて、カカシの顔を見ると、ドアによりかかって寝ていた。

「あのーカカシさーん!聞いてます?」
「ん?ああ、終わった?で、なに?」

カカシは片目だけをあけ、を見た。

「あぁ、余ったのを俺にくれるんだっけ?ありがと。じゃ」

ぽかんとしているからタッパーを受けとり、いまだ茫然と突っ立ってるを放って目の前で扉を閉めた。


「あ」

気がついたら持っていたタッパーはなくなってる。
ということはカカシが持って行った。

「よかった受け取ってもらえた!。さて私もご飯たーべよ!」

るんるんと自宅へ戻り、夕飯を取った。



「おーいしー」

愛情がたっぷり入ってるから、少し冷めてもおいしい。

だなんて思いながら頬張る。


「カカシさんにあげたハンバーグも美味しいと思うけど。どうかなー」
薄い壁を隔てて、向こうにいるカカシを想った。

「まさか捨ててないよな」

少し不安になり、お茶碗と箸を持って、壁のそばへ行った。
そしてもぐもぐとご飯を食べながら耳を近づける。

カチャカチャ、と食器の音が微かに聞こえる。
きっと夕飯の準備だろう。

タッパーを開ける音がした。

「ふーん」

カカシの何とも言えない声が聞こえた。


『ふーん?ふーんってどういう意味だ?』

箸を咥えながら尚も耳を澄ませる。

ようやくカカシが食べ始めた様子。
と、思ったらカカシが一言。


「さっきからなに聞いてんの?」


『ん?もしや独り言?!』

咥えた箸を無意識に噛みながら一層聞き耳を立てる。

「なに・・・やってんのっ!」


次の瞬間、は条件反射で壁から立ち退いていた。


「な!な!な・・・!」


さっきまで自分がいたところの壁に、穴。

穴の先には、やはりお茶碗を持って咥え箸をしているカカシがいた。
片足で立っていて、もう一方の足は壁に。
がいたところの壁を蹴って来たのだ。

「げ」

カカシもカカシで青ざめていた。
カカシとの箸が、口から落ちた。
は未だパラパラと崩れている壁を見つめ、その先にいるカカシを見た。


「あーあ・・・どうしよっか」


カカシは困ったように笑いながら言った。

何が起こったかというと、カカシの部屋との部屋が貫通したのだ。
カカシの蹴りによって壁に直径約20センチの穴があいたのだ。


「ど、どうしよっかじゃないですよ!と、とりあえず・・なにしてんですかああ!」

は大声をあげた。

「ちょ、うーるさいって。もし大家が聞きつけたら・・・」


そうカカシが言うや否や

ドンドンッ

「おーい?うるさいんだけど」

大家が訪ねてきた。

「入るぞー」

「ええ!?ちょ!ちょっと待ってください大家さん!!」


は急いで立ち上がった。


「カカシさんこればれたらまずいですよ!」
「まずいねぇ」
「怒られますよ!」
「怒られるねぇ」
「だ、誰が・・・」
が」
「えええ?!」

穴を通して交わされる会話。
明らかにカカシは楽しんでいる。


「おーいーいるんだろー?」

「は、はい!」


は近くに放っておいたロングコートを壁にかけ、とにかく穴を隠した。

そして大家が入って来た。

「おいどうした?」
「いや、あの・・。あ、虫が!ゴキブリが現れまして」
「ゴキブリごときであんな騒いだのか?」
「あはは〜・・・」
「寒いのか?」
「は?」

大家は唐突に聞いた。

「いや、ロングコート。こんなの着るのか?」
「え、あ、まあ。いえ、あのー」
「ったく。もう騒ぐなよ。ここ壁薄いんだからな。穴も開きやすそうだし」
「穴!!!」
「なんだ?」
「いえ!」

穴、という言葉に過剰反応した。

バカ、とどこからかカカシの声が聞こえた。

「じゃあな。くれぐれも穴、あけるなよ。」
「はいいいい」

ようやく大家が出て行った。

「はあ〜・・・」

一息ついた

「カカシさぁん!!」

ガッ、とロングコートをとり、穴を覗いた。
そこには、ソファに座り、優雅にコーヒーを飲んでいるカカシがいた。

「な、なにくつろいでんですか!」
「食後のコーヒー」
「食後って・・私が必死に取り繕ってる時に夕飯ですか!」
「そ」
「穴開けたのは誰ですか!」
「俺。でもその原因を作ったのは?」
「う・・・」
「でしょ?」

カカシはを指さし、笑った。

「原因はおーまーえ」

いたずら少年のようなカカシに、ついは頬が赤くなった。

「カ、カカシさんも悪いんですからね!もう知りませんから!」

再びロングコートをかけた。


「そういえばさ、ハンバーグ。超うまかった。また余ったら頂戴」


カカシのその言葉に、は心をうたれた。

顔を真っ赤にし、嬉しさで震える手を無視してロングコートに手をのばし、ハンガーから降ろした。
そして穴から向こうを覗く。

そこには、まだソファで読書をしているカカシが。


「カ、カカシさん。明日の夕飯はカレーなんです。い、いりますか?」

そう聞けば、本から顔を離し、嬉しそうににっこりと笑いながらを見たカカシ。


「ああ。お願い」


すぐに本に顔を戻してしまったが、その頬笑みは忘れられない。
はまたコートをかけ、穴から離れ、ソファに倒れこんだ。



「くっそー・・・。かっこいー・・・」



ぽつりと零れた言葉。


『そうか、あいつはかっこいいのか』


は一人納得して、再び夕飯を食べ始めた。




冷めてもおいしいハンバーグ。


隣人との関係をいっきに築き上げた、愛情たっぷりハンバーグ。



「おいし」





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