あの日から何故か夕飯や朝ごはんなど、時間が合う日は食事をともにすることになってしまった。

まあ良いか悪いか、と言ったらすごくいいのだけども。



ある日の夜のこと。

は任務が終わり、ようやく寝よう、とベッドの中で目を閉じ、うとうとしていた時。

「!!」

ぞく、と背筋が凍るような殺気を感じた。

「この感じ・・・」

気が緩めない。
必死に気を引き締めるが、恐怖が勝る。

外の廊下をゆっくりと通過するのが分かる。
そして隣の家のドアが開き、がちゃりと重い音をたてて閉まる。


一段と濃くなる殺気。

「ふぅ・・・」


ベッドから出て、ため息をひとつ。
例の穴から多くの殺気が漏れてくる。


『怖い』


初めて隣人を怖い対象としてみた。


穴から遠ざかり、一度家から出た。


「これって・・・!」


廊下に点々と続く血の跡。

任務で怪我をしたのだろう。
なんでそのまま医療班へ行かなかったのか。


「カカシさん?!」

無事なのだろうか

殺気を気にせず、はドアを開けた。


そして暗闇の中で佇む黒い影を見つけた。


「カカシさ・・・」
「出てけ!!!」

あまりの声の大きさに、はびく、と体が震えた。

「出てけと言っているんだ!!」

尚も怒鳴るカカシ。
殺気を一気に感じ、怒声も浴びさせられたは腰が抜けた。

「傷・・・」
「放っておけ」

手当をしようとするが放っておけ。

大丈夫?と声をかけようとするが出てけ。


あまりの驚きと恐ろしさには無意識に涙がでた。


ぐ、と拳をにぎり力を入れる。
急いでカカシの家から出て、自分の家へと帰る。


「はぁ・・・はぁ・・・」


たった一瞬だったのに汗が出る。
この前の女のようにがたがたと震えていた。

しかしここで放っておいてはカカシが死んでしまう。
どうにかしてカカシを落ち着かせなければ。


きっと任務が大量暗殺、だろう。
それは気がたつに違いない。


殺気の漏れる穴へと近づき、声をかけた。


「カカシさん」

「・・・・・」


返事はない。
穴の前へ座りこみ、根気強く話しかける。
穴の向こうは暗くて何も見えない。


「カカシさん・・・大丈夫ですよ」
「・・・・」
「もう、大丈夫です」
「はぁ・・・」


ようやく返事らしきため息が返って来た。


「・・・・悪かった」


ぼそりとカカシが呟いた。


「ライオンみたいですよ、今のカカシさん」


そう言うと、漸くカカシが笑った。


「はは、なんだそれ」
「がおー、バナナ食べますか?」

「・・・貰おうかな」


は台所から、バナナを一本持ってきた。


穴から向こうへ差し出す。
カカシは素直に手を出し、バナナを貰った。


「草食系ライオン・・・ですね」


ぽつりと呟けば、カカシは再び笑った。


「そういえば、傷は大丈夫なんですか?」
「傷?受けてないけど」
「え」

確かに廊下には血が。

「あぁ、あれ?あれ返り血」
「・・・なんだ」
「なんだって何よ」
「安心しました」
「・・・」
「もし大怪我してたら大変ですから」
「・・・」

カカシが黙る。

「どうしました?」

穴から手が出る。

ちょいちょい、と招く。

いつのまにカカシは穴の近くに来たのか。



「?」



なにか言うのかと思って顔を近づける。


カカシの手が伸び、の頬をあたたく包む。


「カカシさん・・・?」


不思議に思い、声をかけるが無言。

するとカカシの手に力が入り、直も顔を穴に近づかせられた。

そしてまさかのキス。


「!!!!」


そっと頬の手が離れる。


「ありがとうな」


そう言ってカカシは暗闇へと消えていった。




ゴトッ




まるで鈍器が床に落ちたような音が響いた。


「い・・たい」


が床に倒れこんだ。


手は痛い頭を押さえるのではなく、先ほどまで温もりを感じていた唇に。

でへ、と笑いその幸せな気持ちのまま目を閉じ眠った。





「さむっ!!」


明け方、小さく悲鳴をあげ、ベッドへと潜りこんだ。







そして季節は巡る。


早いものだ、もう4月。

そう、寮部屋替え。


荷物を段ボールにしまいながら、当初よりだいぶ広がった穴に向かっては話しかける。

「早いですね、もう引っ越しですよ」
「あぁ、そうだな」
「これ、どうするんですか」
「怒られるのは俺じゃないからどうでもいいかな」
「ひどいいい!」

穴に向かってバナナを投げつける。

「いてっ」

ふん、とは再び荷物詰を始めた。



『離ればなれかぁ』


楽しかった思い出がよみがえる。

そういえば最初は恥ずかしい勘違いをして・・・ていうか半裸体を見られたんだっけ?

ご飯つくってあげたり、バナナあげたり・・・。

キスも・・・した。


かああ、と頬が赤らむ。


「なーに赤くなってんの?」

「え?!」


すでに穴は上半身が出るほど広がっている。
穴にもたれるようにカカシがこちらを見ていた。

「べ、別に!」

するとカカシが手招きを。

「なんです?」

近寄り、穴の前に座る。

カカシがの肩を掴み引き寄せる。


ちゅ、と音をたててキスをした。


「カカシさん・・・」
「一年楽しかったよ。それに嬉しかった」
「・・・・わたしもです」
「今度は合鍵、あげる」


そう言っての頭を撫でた。


が早とちりする前にね」


引っ越し当初の記憶がよみがえる。

「それは忘れてくださいよお!!」

は顔を真っ赤にして笑った。


カカシもつられて笑った。



楽しかった二人の生活もお終い。


これからまた離れ離れになって生活する。


合鍵が二人をつなぐ、唯一のもの。







そして寮の忍びたちが収集された。

、カカシ、と三人並んで集まった。


「これより引っ越しを始める」

くじを引こうと、忍びたちが腕まくりをする。


「しかしここでみんなに伝えることがある」


なんだなんだ、と忍たちが息をのむ。

「隔離部屋の319号室、320号室はくじから除外してある」
「え?!」
「なんでだあああああ!!!」
「なんだと!」


カカシとは顔を見合わせた。


「前の入居者が壁に穴を開けてしまった。修理費は出す気がないらしい」

事情を聴いていたがばっとを見る。

「いやー・・・出す気がないっていうか付かれてないと思ってたというか・・・」

「よって、前の入居者のままにする。修理費を出し次第、引っ越しのくじの中に含める」


再びカカシとが目を合わせた。


「なにそれ」
「また・・カカシさんと?」


きらきらとカカシを見つめる

「ま!いっか」

ちゅ、とに口づけた。


「そう言う関係かよ」
「ちっ」
「えええ・・・・」


回りから声が聞こえる。

それを無視してカカシは再び口づけた。



!!あなた!!」


は穴の件は聞いていたがこういう関係だと知らなかった。
唖然として二人を見ていた。

ちゃあん・・・」

真っ赤になっているに手を伸ばした。

その手をはぎゅ、と掴み、カカシを見た。


「この子をよろしくお願いしますね、カカシさん!」

ちゃん?!」

「もちろん」




その後、くじが引かれ、なんとがカカシとの部屋の斜め下になった。

ちゃん!!ようやく近くなったね!」
「遊びに行くわね!あ、だめか」
「へ?なんで?」

にウィンクをし、ガッツポーズをした。

「頑張ってね!」

そしては身を翻し、さきに寮部屋へと帰ってしまった。


「じゃ、俺も帰ろ」
「え、あ、じゃあ私も!」




仲よく手を繋いで二人は帰って行った。



「斜めにいたらいちゃいちゃできないね」
「ば、ばかじゃないですか!!」


ぱこん、とカカシの背中を叩く音が響き渡った。





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