lover3 「・・・」 カカシから離れて、無茶苦茶に走ったら、知らない所に来てしまった。 方向音痴ということすっかり忘れていた。 とぼとぼと歩きながら、さっきのことを思い返した。 『だから、大事なものを手に入れてみてはどうですか?わたしはカカシさんに、大事なものを増やしてほしいです』 と言った時、すごく胸が締め付けられた。 なぜかその顔も名前も知らない『大事な人』に嫉妬した。 そして、もしカカシの恋人だったら、と話したとき、考えすぎて、本当にカカシが死んでしまったように思え、泣きそうになった。 それに、カカシが忍だからといって、悲愴的観念を持ち合わせていることに悲しく思った。 どうか幸せな、充実した人生を送ってほしい。 もしそれを手助けできるものならば、全力で支えたい。 『私にとって大事なものってなんだろう・・・?』 お金とか、そうゆうものじゃなくて・・・。 どんどん考えて行くと、ある人にたどり着いた。 ・・・まだ知りあったばっかなのに。 知り合った、といってもそんなに深くはない。 カカシは大事なもの、人を、恋人と言い表していた。 こんなにも考えさせられた人物は、今までいなかった。 そして、こんなにも力になりたいと思った人物も、彼が初めてだ。 「私の大事な人は・・カカシさんだ・・・。」 下を俯いて歩いていると、突然、壁に頭をぶつけた。 「いたっ」 顔をあげると、どうやら人のお腹だった。 「す、すみません!」 がば、と頭を下げた。 すると聞き覚えのある声が上から降ってきた。 「じゃないか!!こんなところでなにをしていたんだ?」 そこにはきらーんと歯を輝かせたガイがいた。 「ガイさん!いいところに!道に迷っちゃったんです・・・特上舎ってどう行けばいいんですか?」 そう私が言ったら、ガイさんは高らかに笑った。 「がははは!!いいだろう、俺が送ってやろう」 そういって、ガイさんは、私を抱え込んで、肩に担ぎあげた。 「うわっちょ、ガイさん?!」 「瞬身の術!」 とたんに辺りが真っ白になって、靄が消えたらそこは、特上舎だった。 「あ、ここ・・・」 すとん、とガイはを下した。 「どうだ!青春パワーで最速で送ってやったぞ!」 びし、と決めポーズ。 「ありがとうございます!助かりました」 「つかのことを聞くが、どうしてあんなところに一人でいたんだ?カカシのやつと一緒じゃなかったのか?」 「あ、ちょっと用があって、別れたんです。そしたらとたんに道がわかんなくなっちゃって」 「そうかそうか!」 ガイさんはがはは、と笑った。 「そうだ!今夜、飯でもどうだ?」 「ご飯、ですか?」 「お勧めのカレー屋があるんだ」 「いいですね、私カレー好きなんです」 にっこりと笑った。 ガイは大きくガッツをした。 「よしっ!!じゃあ7時に人生色々の前に集合だ!」 「ええ、楽しみにしてます」 「じゃあな!!」 ガイは飛び跳ねるように走って待機所の方へ向かって行った。 「カレーか。久しぶりだなー」 そこで気がついた。 「あれ、コーヒーカップ、待機所に置いてきちゃった」 カカシにお茶を誘われてそのまま出てきてしまい、置いてきてしまったようだ。 急いで待機所へ向かうと、ドア越しにガイの声が漏れ聞こえた。 どうやらそうとうハイテンションらしい。 カカシの声が聞こえない。 いるのかどうかがわからなかった。 なんとなく、今、あまり顔を合わせたくなかった。 が、コーヒーカップは中にある。 中に入ったら顔を合わせてしまうかもしれない。 幸いなことに、ドアの近くに置いた記憶がある。 そろりとドアを腕が通る分だけ開き、腕をさしこんだ。 手探りでコーヒーカップが入っている袋をさがす。 長い時間空中をさまよわせていると、がさ、と手に触れた。 急いで引っ張り上げる。 「ふう」 誰にも気がつかれずに取ることが出来、急いで特上舎へ向かった。 ゆっくりとドアを開ける。 「こんにちはー」 すると、さっき入った時よりも、生き返った声が聞こえてきた。 ばち、とハヤテと目があった。 「ハヤテ、買い物できた?」 「ごほ・・・ええ。大丈夫でした」 「アンコちゃんは?」 「外の空気を吸ってくるって言ってかれこれ30分でしょうか」 アンコはまた仕事をさぼっているらしい。 ハヤテ達がかわいそうだから早く戻ってきてほしいが、あと30分は帰ってこなさそうだ。 カップの方を見ると、1時間前に取り換えたばっかなのに、すでになくなりそうになっていた。 再び補充し、コーヒーを継ぎ足した。 今度ここへくるのは5時。 微妙な時間を、いつもどのようにしてやり過ごすか、毎度のようにを悩ませていた。 「さん。次にいらっしゃるのは5時ですよね?」 「うん。そうだよ」 「これから暇ですか?」 「うん。暇になるね」 「・・・ごほ。買い物に付き合ってくれませんか?」 「買い物?いいよ、でもここ抜けていいの?」 そう問えば、ハヤテはきっぱりと 「アンコもいないし、いいんです」 と言った。 「あはは、そっか。じゃ、行こう」 「ありがとうございます」 ハヤテが向かったのは、木の葉横丁。 「なに買うの」 「今日の夕飯の材料と、明日の朝食です」 「自炊なんだ!」 「なんでそこで驚くんですか。一人身は自炊しなければ生きていけませんよ」 「あはは、一人身か。私も一人身だし、自炊だし。一緒だね」 「ええ」 にこ、と笑ったハヤテ。 「そうだ、私も明日の朝ごはん、買っちゃおう」 「夕飯はいいんですか?」 「うん。ガイさんと食べにいくの」 「ごほごほ・・・ガ、ガイ上忍とですか?」 ハヤテはにこにこと笑ってた顔を崩し、むせかえった。 「わ、大丈夫?」 「ごほ・・ええ。大丈夫です。あぁ、そうだ。そのご夕飯がすんだら飲みに行きませんか?」 「え?」 「奢りますよ」 「・・・じゃあ行こうかなー?」 「ふふ、現金な人ですね」 こほ、と軽く咳をして、ハヤテは笑った。 2人は買い物をすませ、自宅に帰ってから再び人生色々へ向かうことにした。 「さん、買い物つきあってもらってすみませんでした」 「ううん!私もちょうどよかったし」 「ごほ。じゃあ今夜10時頃、さんの家の前で待ってますね」 「うん。ありがとう」 「では」 「またね」 ひらひらと手を振って、ふたりは互いに帰って行った。 「今日は多忙な日だなー・・・」 カカシとお茶したり、ガイと夕飯食べたり、そのあとハヤテと飲みに行ったり。 ぽつりと家へ帰る途中、呟いた。 「・・・なんだかカカシさんに会いにくいな」 別れ際に挨拶もせずに逃げるように別れてしまった。 「大事な・・・人だからなのかな」 の大事な人、それはカカシだということが分かってしまったのだった。 意識をすればするほど、なんだか恥ずかしいような、むず痒いような。 前に抱えた袋の中から、味噌が見える。 「そういえば、カカシさんって茄子のお味噌汁すきなんだっけな」 がなんとなく紅に聞いたのだった。 「今日逃げちゃったから、そのお詫びに今度夕飯でもおごろうかな・・・」 そう呟くと、急に風が吹き抜けた。 びっくりして目を閉じた。 ゆっくりと目を開けると、そこにはにっこり笑ったカカシの姿。 「カ、カカシさん!!」 「その約束、忘れないでね?」 「夕飯、ですか?」 「そ。今度ちゃんの家で、ちゃん手作りの夕飯を食べさせてね」 「わ、分かりました。・・・あの」 「ん?」 は顔を真っ赤にさせた。 「どこらへんから・・・私の独り言聞いてました・・・?」 「そういえば、ってところかな?」 「そうですか!よかったぁ」 「なんか聞かれちゃまずいことでも?」 「い、いえ、別に!」 は真っ赤にさせた顔を、もっと真っ赤にさせた。 「荷物、持ってあげるよ」 「えっ」 いいですよ、と言おうとしただが、気がついたら袋はカカシの元へ奪われていた。 「ありがとうございます」 「いーえ」 二人で並んで歩くことは、なんだか照れくさかった。 まるで恋人とか、夫婦のような。 さっきまではそんなことなかったはずなのに、どうも意識してしまう。 「あ、そーだ。ちゃん、今夜ガイと夕飯食べるんだっけ?」 「え、ええ」 カカシがふーんと唸った。 「ガイがうるさくて。でも気を付けてね。あいつの行ってる店、すっごい辛口だから」 「え・・・」 顔がひきつった。 「あの店での甘口は、こっちでゆう辛口?かな」 「えええ・・!」 「ちゃん、辛いの苦手なの?」 「苦手ってゆうか・・・痛いのは・・・」 「あはは、辛さより痛さね。確かに痛い。あのカレーは」 「そ、そうなんですかぁ〜」 がくりと肩を落とした。 そこから二人は世間話などをして、の家へと向かった。 「あ、ここです」 「一人暮らしなのに家は大きいんだね」 「ええ。前は両親と暮らしてたんですけど、病気でどっちも死んじゃって」 「あ・・・ごめん」 「いえ、いいんです。あ、荷物ありがとうございました」 はあまり気にしなかったようで、すぐに荷物をカカシから受け取った。 「次に来るの何時?」 「えーっと5時です。で、そのあとは8時。で、最後に11時です」 「そんな遅い時間にも来るの?!」 「そうなんです。でも、それ以降は受付の方がやってくださるんです」 「11時に人生色々に行って帰ってくるのに30分ぐらいでしょ?」 カカシは驚きを隠せないようだった。 なにしろ、初めて知ったの大変さ。 こんな頻繁に来ているとは知らなかった。 「ええ。でも、もう慣れましたし、みなさんとお話しできるしそこまで苦痛じゃないんですよ」 くす、と笑った。 「そっか。えらいね」 さら、との髪をなでた。 急な出来事にかあ、と頬が赤くなるのが分かる。 「では、カカシさん。荷物、ありがとうございました。」 「ああ、またね」 ひらひら、とカカシは手を振り、は家の中へと帰って行った。 は買ったものをすぐにしまい、多少散らかった部屋を掃除して心を落ち着かせた。 そして服を着替えることにした。 いくらカレー屋さんでも、ガイさんがせっかく夕飯を誘ってくれたのだから着飾らなくては相手に失礼である。 『カレー、こぼさないようにしなきゃなぁ』 着替え、薄く化粧をした。 そして再び特上舎に戻った。 <<<2 Lover TOP >>>4 NOVEL TOP |