思いを寄せる女の子がいた。

年は同じくらい。もしくは1、2歳年下。



その子は優しくて、笑顔が可愛くて、だけど面白くて。


いわゆる一目ぼれというものをしてしまった。



lover2




「こんにちは」


そう言って待機所のドアを開ける。
礼儀の正しい子だ、と最初思った。

コーヒーの紙コップをコーヒーカップと呼んだりと、茶目っけもあって、すぐに好きになった。

その子の仕事は、待機所と特上舎のコーヒーカップを変えること。
少し汚かったら、掃除をすることだった。

待機所では、上忍たちが暇をもてあます。
そして特上舎では、大量の資料に目を通しつつ、任務を無事遂行しなければならない。
そこで眠気に襲われる。
そこを火影が気づき、よりよい環境づくりのために仕事を取り入れたのだろう。




「こんにちは」


今日も来た、例の子。
名前はまだ知らない。

勇気をだして名前を尋ねたいが、話しかけようとする勇気もない。

が、しかし。

「やあ、そこの青春ガール!いつも御苦労!名前はなんて言うんだ?」

普段はうるさいだけの熱血おかっぱが聞いてくれ、その時だけはカカシはよくやったと心の中で褒めた。

突然のガイの質問にびっくりしたように、その子は口を開いた。

「えっと・・・です。
「ふーん」


ようやく名前を知ることができた。

「むむ、カカシよ、盗み聞きか?!お前も彼女に興味があるのか?!」
「興味ってゆうか・・お前の声がでかいからどうしても聞こえちゃうでしょーよ」
「むっ!!!」

そんな会話をガイとしていたら、いつのまにかは消えていた。

「なあ、ガイ。お前よく名前聞けたな」
「ぬ?興味がある女性に名前を聞くのは当たり前ではないか!!」

そうガイは言ってがはは、と笑い飛ばした。

「興味のある・・・ね」

どーもカカシだけでなく、ガイもに惚れたらしい。




ある日、特上舎に用があって、特上舎へと赴いた。

「この資料なんだけど」
「はい。えーっと・・ごほっ・・・」

ハヤテにある任務の詳細資料について質問していた。

「こんにちはー。みなさんお疲れ様です」

ぺこりとが礼をしてから特上舎に入って来た。

「あ、この前の・・・。えっと」

がすぐにカカシの姿をとらえ、挨拶をしようとした。
が、しかし。
当たり前だがはカカシの名前を知らなかった。

「はたけカカシ。カカシでいいよ。よろしくね、ちゃん」
「えと、カカシさん・・よろしくお願いします」

ちゃん、と呼んで少し頬を赤くした彼女。

さん、お疲れ様です」

ハヤテがに向かってほほ笑んだ。

「ああ、ハヤテ。お疲れ」

もにっこり微笑んだ。



「・・・二人は仲いいの?」


思ったことが口に出てしまった。
するとがあわてたように手を横に振った。

「いえ!この仕事上、コーヒーの場所に一番近いハヤテとよく喋るだけです!」

それを聞いたハヤテは少し悲しそうな顔をして、

「そうゆうわけです。」

と、肩を落として呟いた。


『ハヤテもか・・・』




「あ、ハヤテ。コーヒーカップもういい?」
「ああ、ありがとうございます」

そしてはコーヒーカップを受け取り、そして補充をしていく。
が仕事を終えるのと同時に、ハヤテへの質問を終えた。

「ああ、わかった。ありがとね、ハヤテ」
「ごほ・・・いえ、なにかありましたらまたどうぞ」

はコーヒーカップの入った袋を持った。

「じゃあ、みなさん、頑張ってください」

が出て行ったのを追うように、カカシも特上舎を出た。
背中にハヤテの冷たい視線を感じながら。


ちゃん」


声をかけると、すぐに振り向いた。


「あ、カカシさん。もうハヤテはいいんですか?」
「うん、もう大丈夫。ちゃん次はどこに?」
「待機所です。私、特上舎と待機所だけなんです」
「あぁ、そうなんだ。時間って決まってるの?」
「いや、ばらばらです」
「大変だね」
「いえ、慣れてしまえば楽しいですよ」


そこからは何故か緊張して話せなかった。
ぽけっとに突っこんだままの手が、軽く汗ばむのを感じた。

なにか話そうと思っていたが、黙りこくったまま待機所へと向かったのだった。



そして迎えた今日。


このままではガイはともかく、ハヤテの存在が危うい。
早く何かしらの発展がなければ、今後進展していくのは難しそうだ。


「じゃあちゃん、お茶でも飲みに行かない?」

たった「お茶でも飲みに行かない?」の一言がどれほど言いにくかったか。
いい年して、女性をお茶へ誘うのに緊張するとは。

が甘いものが好き、というのは調査済み。
アンコに聞いたところ、(お汁粉の)飲み友達と言っていた。


そして予定通り甘栗甘へと向かった。


回りから見えれば仲の良い恋人同士のように見えただろう。
が、実際はまったくちがう。
気になる相手と二人きりとなったが、どう切り出していけばいいのかわからない。
普通の話ではなく、一歩踏み出した会話をしてみた。


「好きな人とかっているの?」


の「いませんねぇ」という言葉までの時間が、体が沈むほど重い時間だった。
しかしその言葉を聞いた途端、心底安心した。

するとその顔が、には意外そうに見えたらしい。

「な、なんで意外そうな顔してるんですか!」
「はは、ごめんごめん」


『問題はこれからだ』


カカシにしてはこれからの言葉を言うのに、S級の任務より難しい。
すると今度はが明るい声で聞いてきた。

好きな人はいるのか、という質問。

ここで即座にあなたです、と言うことができればいいのだが、そんな勇気はまだ持ち合わせていない。


「んー・・・じゃあ誰だろう?」
「・・・」

ちゃんなんだよ・・・!』
 
カカシの心の中で、言ってしまうか、言わないほうがいいのかと葛藤が繰り広げられていた。

『もういい。言うだけ言ってみようか・・・』

このような告白に迷うことがあるだろうか。
決意を決め、息を吸った。

ちゃん、付き合ってくれない?」

案外、すんなりと言えるものだ。
しかし、怖くての顔が見れなかった。


「え・・・と。どこにですか?」


『あああああ・・・・。そうか。この子は天然なのか・・・!』


気がついたらカカシはがっくりと倒れていた。
早く訂正しなければ、と口を開いた。

「そ、そうじゃなくてね?俺が言いたいのは・・・・」


その言葉は奴によって阻まれた。

「あれ、さん。とカカシ上忍。こんなところでなにしてるんですか?」

カカシがハヤテの顔を見ると、あろうことか、にやり、とハヤテは笑った。

『・・・この野郎・・・』

は仲好くハヤテと話していた。
すると、優しいはハヤテと一緒にお茶をしたいという。

「ああ、全然いいよ。だけどハヤテ。アンコに頼まれてんだろ?早く行かなくていいのか?」

とにかく早く追い出したかった。
せっかく勇気をだして二人きりになれたというのに。

「ええ、ご心配なく。アンコ、今、寝てますから」

ハヤテは気が付いているのか、してやったり、と笑った。


『いい度胸だねぇ』


「じゃ、失礼しますね」

図々しくの隣に座ったハヤテ。
そして仲良く話し始める二人。
すると、近くに暑苦しい気配がした。
その気配はこちらの気配に気が付いているらしく、足早に近づいてきた。
タイミングがいいのやら悪いのやら、さすがと言うべきなのか。

「ああ、俺には無理だよ・・・なぁ、ガイ」
「え?ガイさん?」

ハヤテも気が付いていたのか、怒りを抑えるように両目を閉じていた。

ガイが現れてこの場を崩壊させ、わざとらしくなく、だけ連れ出せる、素晴らしいアイディアを思いついた。



「じゃあちゃん、もう行こうか」

『ざまあみろ』

勝ち誇った顔を残し、カカシは席を立った。
は二人に挨拶をして、カカシを追って店を出てきた。


『勝った』



と並んで歩く。

に気がつかれないように振り向く。


「(ごめんね〜)」


にっこり笑ってハヤテとガイに手を振った。





「カカシさん、ごちそうさまでした」
「いえいえ〜」
「あれ?!もう1時間たってる!」
「あ、そういえば・・・」
「特上舎の方のコーヒーカップを補充しに行かなきゃ・・・」
「あぁ、そうか。じゃあ急いで行かなきゃ」
「ごめんなさい、もっと長くいれると思ったんですけど」

しゅん、とは顔を俯かせた。

「仕事だからね。じゃあ俺も待機所に戻るか」
「やっぱり上忍って・・・大変ですか?」
「ん?」
「いえ、あの・・・想像してたよりも、忍の方たちって明るくて。私が想像してたのって、真面目で堅苦しい人たち、って思ってたんです」

は言ってから気がつき、すみません!と謝った。

「べ、べつにカカシさんたちが不真面目っていってるんじゃないんです!」
「はは、そりゃどーも」
「あう〜・・・すみません・・・」
「大丈夫よ。でも忍も大変よ」

カカシは空を仰ぎ見た。

「精神的にも辛いし、もちろん肉体的にもね」
「そう・・ですよね・・・。」
「ま!俺たち見てればそうは思うよね。みんな心の中では怯えてんだーよ」

にこ、とを見たカカシ。

「カカシさんも・・・ですか?」
「もちろん。いつ命を落とすかわからない職業だしね」
「・・・」
「だから、大事なものは最初から手に入れないようにしてんだけど・・・」
「?」

カカシの言葉に疑問符を浮かべた

「大事なものをためこんじゃって、それに縛られて任務に集中できないからね」
「そうゆう・・ものですかね・・・」
「たとえば大事な人、恋人が出来て、手放したくないって思ってたら逃げ腰になっちゃうでしょ?死にたくない、また会いたいって」

は表情を浮かべずに聞いていた。

「そしたら敵のことより自分の命を気にしちゃって、気がついたら敵は目の前にいた。で、ぽっくりあの世行き。
 なーんてことになったら嫌でしょーよ。おちおち成仏できやしないしね」

は難しい顔をして少し考えていた。

「でもカカシさん、好きな人いるんじゃないんですか?」
「ああ」
「大事な人、なんじゃないんですか?」
「・・・そうだよ」
「もし・・・もし私がカカシさんの恋人だったら、自分のことを考えて命を落とした、なんて聞いたら悲しくなります。恋人関係になってなかったら、死ななかったのにって考えます。」

は泣きそうな声で言った。

「確かに、自分のことをおもってくれるのは嬉しいです。でも・・・でも、恐れて大事なものをため込まないことの方がもっと悲しいです」
「・・・」
「大事なものがあってこそ、人間の生きる道、人生なんだと思います」

はすぅ、と息を吸って呼吸を整えた。

「だから、大事なものを手に入れてみてはどうですか?わたしはカカシさんに、大事なものを増やしてほしいです」

は何故か悲しげに言った。

「じゃ、じゃあ私はここで・・・」



は逃げるように、走って行ってしまった。

カカシにはの言葉が心に刺さり、動けないままでいた。



『大事なもの・・・』



カカシは瞬身で、待機所ではなく自宅へ帰った。
ここで待機所へと戻ってと会うのが辛い気がしたからだ。

深く重い言葉。
大事なもの。

大事な人、


を失う時が辛い・・・。
辛い最後なら、始まりなんていらない。

けれどなら、逃げ腰にならずに、もう一度会いたいと力を与えてくれそうな存在になりそうだった。

我ながら矛盾しているな、と自嘲してしまう。


もう一度、考え直す必要があるみたいだ。



ため息だけは、すんなりとカカシの口から出て行った。




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