LOVER




いつもどおり仕事をしに、上忍や特上が待機する人生色々へ向かう。

仕事は簡単。
人生色々のコーヒーカップを替えに行く。それだけ。
コーヒーカップ、というより、ただの紙コップなんだが。
これからはかっこつけるため、コーヒーカップにしておく。


たまに掃除を頼まれることはあるが、たいして汚れていないので楽だ。


まあそれだけでいい給料をもらえちゃったりする。
さすが忍の世界の仕事と言うべきなのか。


まず先に向かう場所は、特上舎。

「こんにちは。みなさん働いてますかー?」


ドアを開けて、声をかける。
大体の返事は死にかけのうめき声だ。

資料やら任務やらに追いやられて、部屋はぐちゃぐちゃ。
ぎっしりと机が並び、びっしりと資料が置いてある。
特上の人たちはあっちへこっちへと資料を持って歩き、あっちにこっちに行き倒れている。

最初来たときは本当に驚いたが、今となっては日常の光景となってしまった。


ドアを開けてすぐのハヤテの机の上は、未完成の報告書や、山となった資料。
そしてはじっこには積み重なったコーヒーカップ。
ハヤテにしては、この上ない乱雑さだった。

「ああ、さん。ごほ・・お疲れ様です」
「ハヤテこそお疲れ。すごい散らかりようだね」
「ええ。ちょっと任務が立て続けに入ってしまって・・・」
「わあ、それは大変・・。倒れないように頑張ってね」
「ありがとうございます」

へなへなと頭を下げてハヤテは礼をして、たまったコーヒーカップを渡した。


ーー!!」

遠くから特上の女王、アンコの声が聞こえてきた。
アンコの元へ行くと、特上舎のかたすみにある唯一の休憩場所のソファの上で仰向けに倒れていた。

「アンコちゃん!大丈夫?!」
「疲れたわぁ・・・。やーでも、を見て元気になれたわ。」

「ごほ・・・何が疲れたですか。仕事、全部わたしに押しつけておいて・・・」

ハヤテが遠くで唸っている。

「アンコちゃん、ハヤテに仕事おしつけたの?」
「だってか弱い私には多すぎたから」

きゅるん、とぶりっこするアンコに、あちらこちらからうめき声が聞こえてきた。

「ふざけんなー・・・」
「間違ってもか弱いって言葉をお前が使うんじゃねぇー・・・」
「仕事しろー」

ふにゃふにゃとしたつっこみが、飛んでくる。

「あはは、アンコちゃん頑張らなきゃ!!私も応援するから!」
の応援があっちゃあ、私も頑張っちゃおうかなー」

ようやくアンコはソファからのっそりと起きあがった。

「うんうん、その意気だよ!わたしも、これから待機所に行かなきゃ」
「おう!頑張ってこーい!」
「あはは。じゃね」

アンコに手を振ると、アンコはにこやかに振り返してくれた。
そしてそのままぼふん、とソファに寝っ転がっていた。

『仕事、やる気あるのかなぁ・・・?』



すでになくなりそうなコーヒーカップを補充し、仕事完了。
コーヒーを継ぎ足すのは、また違う時間。

「それではみなさん、頑張ってくださいねー!」

入って来た時のように、死にかけの返事が返って来た。
ハヤテは、にこっと笑って、見送ってくれた。




「よーし・・・」


次に向かうのは、一番疲れる待機所。
あそこに行けば、待機所にいるいろんな上忍にもてあそばれてしまう。


『まぁ、楽しいからいいんだけどね』

長い廊下を歩き、待機所のドアをあける。


「・・・失礼しまーす」


あまり気がつかれないように入る。
が、しかし。

「む?!この気配は・・・だな!!!」

遠くから暑苦しい声が聞こえてくる。
さっそくガイに見つかってしまった。
ガイはいつも仲良くしてくれる。
を見つけたガイは、ずんずんと向かって来て暑苦しい笑顔を向けた。

「ガイさん、こんにちは」
「おう!!いつもえらいなー!!青春だなー!!」
「え、ええ、ありがとうございます・・・?なのかな?」

ちょっと対応には困ったり。

「ちょっとそこの熱血おかっぱ。ちゃんが対応に困ってるでしょーよ」
「あ、カカシさん」

コーヒーカップを片手にソファに座っていたカカシが見かねて助け船を出してくれた。
これはいつもの流れ。
ガイに絡まれて困っていると、必ずカカシは助けてくれる。

「カカシよ!!対応に困るとはどうゆうことだっ!!」
「言葉の通りよ。ね、ちゃん」

カカシが立ち上がっての隣へ来た。

「えっと・・・あの、はい・・・」
「ほら」
「ぐはあああ!!!」
「あーもーうるさい。暑苦しい。」

しっし、と蠅を追いやるように手を払ったカカシ。

「くそう。!今日もなかなかのナウさだぞっ!!」

びしぃっと決めポーズをして、ガイは窓から出て行った。

「わはははー俺は修行をしてくる!!いつでも見に来ていいからなーー!!」

窓の外からガイの声が遠ざかって行った。


「カ、カカシさん、ガイさんこんな高い場所から大丈夫なんですか?」
「平気。あいつ、殺しても死なないから」
「・・・そうですか」

カカシはにこ、と笑ってコーヒーをぐい、と飲んだ。

「はい、カップ。ごちそーさん」
「あ、いえ。ありがとうございます」

カップを受け取り、持参のゴミ袋へと入れた。

「大変だねぇ、ちゃん。いつもこのあとも来てるよね?」
「そうなんです。この時間帯、2時から3時までは消費量が一番多いので」
「ふーん・・・」
「みなさん、この時間帯が眠いらしいので」
「眠気覚ましにコーヒーを飲む、か」
「ええ」

カカシは再びふーん、と呟き、ソファに座った。

カップの様子を見てみると、待機所は特上舎より消費は激しくなく、部屋もいつもどおり綺麗だ。
掃除の仕事はまわってこなさそうだ。

「んーちゃんさ、特上舎にも行ってるんだよね?」
「あぁ、そうですよー」
「もう行った?」
「ええ、行ってきました。あ、コーヒーいりますか?」
「ううん。大丈夫。じゃあちゃん、お茶でも飲みに行かない?」

コーヒーじゃなくてね、と付け足してカカシは笑った。

「いいですよ!あ、でもカカシさん任務は・・・」
「あぁ、大丈夫。この様子じゃあなさそうだしね」
「わあ、よかった。じゃあ行きましょう!」

カカシからお茶を誘われるなんて、初めて。
時刻は2時。
すこし早めのおやつの時間。



甘栗甘で、机をはさんで向かい合って座っている二人。


ちゃん、甘いの好きなんだね」
「はい〜。アンコちゃんに影響受けちゃって」

おしるこを片手に、団子を頬張ってるを見て、カカシは苦笑い。
カカシは、というとお茶をすすってを見ているだけ。

「カカシさんは甘いの、だめなんですよね。なんでです?」
「なんでって・・・。なんでだろね?」
「あはは、聞き返さないでくださいよー」

ずず、とカカシが茶をすすり、もぐ、と団子を頬張る
どこか挙動が怪しいカカシが何度目かのお茶をすすった後に口を開いた。

「ね、ちゃん」
「はい」
「好きな人とかっているの?」
「好きな人ですか?うーん・・・・いませんねぇ」
「いないの?!」
「な、なんで意外そうな顔してるんですか」
「はは、ごめんごめん」

カカシはもうほとんどないお茶を啜った。
そして、なにか考えるような仕草。
質問の意図が分からないは、カカシのお茶のおかわりを注文した。

「カカシさんはいるんですか?」
「まー・・・ね」
「いるんですか!だれだろう・・・あ、紅さんとか!」
「いやいや、紅はアスマの女だからね」
「あ、そっか。じゃあアンコちゃん?」
「無理無理、あんな甘党。いるだけで胃がむかむかしてきちゃうよ」
「んー・・・じゃあ誰だろう?」
「・・・」


カカシは髪をなにかもどかしそうに掻いた。

そして決心したかのように、


ちゃん、付き合ってくれない?」


は、え?という顔でカカシを見た。


「え・・・と。どこにですか?遠くなければ、お供しますよ」

そう言うと、カカシはがくん、と机に立てた肘に頭をぶつけた。

『焦って主語を抜かしてしまった・・・はやく訂正をしないと』

「そ、そうじゃなくてね?俺が言いたいのは・・・・」
「あれ、さん。とカカシ上忍。こんなところでなにしてるんですか?」

ハヤテが驚いた顔で甘栗甘に入って来た。

「あ、ハヤテ!珍しいね、こんな所に来るなんて」
「ええ、ちょっとアンコに買い物頼まれてしまって」
「アンコちゃんが?まあ、座りなよ!いいですか?カカシさん」

がカカシを見ると、カカシはハヤテを強いまなざしで睨みつけていた。

「ああ、全然いいよ。だけどハヤテ。アンコに頼まれてんだろ?早く行かなくていいのか?」
「ええ、ご心配なく。アンコ、今、寝てますから」

さわやか笑顔で答えるハヤテ。
カカシはほぅ、という顔でそれを見ていた。

「じゃ、失礼しますね」

ハヤテはの隣の空いている席に座った。


「ハヤテ、アンコになに頼まれたの?」
「団子を10本です」
「10本も?一人で食べるのかな・・・」
「おそらく」
「カカシさんは無理ですねー」

がカカシにあはは、と笑いかけた。

「ああ、俺には無理だよ・・・なぁ、ガイ」
「え?ガイさん?」

カカシが急にガイの名を出した。
どこかにいるのかと、きょろきょろと辺りを見渡す。
すると、が瞬きをした瞬間、カカシの隣にガイが座っていた。


「わはは、カカシには無理だなっ!!」
「わ、ガイさんいつのまに!」
「修業を終えて帰ろうとしたら、お前たちの楽しげな声が聞こえたからな!!」

ぐい、と決めポーズをとる。

「いやー・・・男3人集まると暑苦しいですねぇ・・・」

が苦笑いで言った。


「じゃあちゃん、もう行こうか」

カカシがにやりと笑って席を立った。

「え、あ、はい」

が財布を出すと

「ここの勘定、俺が払っておくよ」
「え、でも!わたしたくさん食べちゃったし!」
「いーのいーの。じゃ、先に店出てて」
「わーすみません、ありがとうございます。では、ガイさん、ハヤテ、また!」

はぺこりとガイにお辞儀をして、ハヤテに手をふった。


二人はにこにこと手を振り返してくれた。


「さーて、仲良し二人組は置いといて、ちゃん行こうか」


カカシの声が聞こえた途端、二人の額に青筋が浮かんだのをは知らない。






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