「で、どういうことなんですか?」



いつものダイニングテーブルに、とカカシと、カカシ。
カカシ同士が向かい合って座り、買い物帰りに出会ったカカシの隣には腰かけた。

「どういうこともなにも・・・」

買い物帰りのカカシが、困惑したように目の前のカカシを見つめる。

「おれにもさっぱり」
「影分身した覚えは」
「ないし」
「なにかの術にかかった覚えも」
「ない」

仲良く交互に話すカカシたちに、はただ混乱して二人のカカシを交互に見つめる。

「えと、それで、あの、どっちが、あのー・・本物といいますか、なんといいますか・・・」

おずおずとが聞くと


「「おれでしょーよ」」


と、二人して声をそろえる始末。

「はぁ?お前はどうせ分身でしょ?」
「いや、おれがオリジナルだ。そもそも、お前の方があとから出てきたくせに」
「おれは任務帰りにちゃんに会ったの」
「おれも任務から帰ってきて、お前より先にちゃんに会ってんの」
「おれは・・・・

「あのー!!!」


けんけん言い争いだした二人の声を遮って、は席を立った。

「とりあえず埒が明かないので、助けを呼びに解読室へと行ってきます!」
「解読室って・・・さっきまでおれがいたとこに?」
「ええ、なにかそこであったのかもしれませんし・・・」

なにより、今この場でカカシたちの言い分を聞きあっていてもどうこうすることもできない。
とりあえず、カカシが先ほどまで任務としていた解読室へと行って、その場にいたほかの忍たちに話を聞こうと考えた。

「うーん。特になにもなく終えた気がするんだけど・・・」
「ま、行ってみる価値はあるかもねぇ・・・」

ずずず、とカカシたちはやけに落ち着いて茶をすすってから立ち上がった。

「あ、いえ、お二人はここで待っていてください」
「え?」
「なんでよ」

「だって・・・二人もカカシさんいたら、みんなびっくりしちゃいますし・・・」

カカシたちは納得したような納得いかないような顔をして、再び席に着いた。

「じゃ、おれたちはここにいるけど、1人で大丈夫?」
「なんなら俺だけでもついていくけど」
「いや、おれが行く」
「いや、おれが」

「こうなるから、2人を置いていくんです!」

すぐケンカになるカカシたちを置いて、はとりあえず解読室へと行くことにした。


「「いってらっしゃーい」」


呑気な二人のカカシに見送られ、困惑した頭を抱えながら外へと出た。

「はぁ・・・」

見た目もしぐさも、なにもかもがまったく同じな二人。
今まで一緒に過ごしてきたカカシは一体、どちらなのか。
いや、どちらという訳でもないのだろうけど・・・。

カカシたちはやけに冷静で、今後のことなど考えていなかったようだが、は不安が残る。

もしこのまま、カカシが二人のままだったら。

どちらもカカシであることには変わりはないけれど。

「はぁ〜、どうしよう・・・」

ぐるぐると悩みながらも、解読室が入っている建物へと到着した。
なにかしら解決策が見つかるだろうと、期待を込めて解読室の扉の前へ立ち、ドアノブへと手を差し伸べた。


「あー!!!いいところに!!!」


あとはドアを押すだけ、というところで、誰かから声がかけられた。

「アンコちゃん!」

廊下の先で、慌てたようにアンコが手を振っていた。

「アンコちゃん、ちょっと相談したいことが・・・」
「いや、ちょっと待って、それより重要なことがあんの!ちょっと来て」
「え?」

アンコに大きく手招きをされて、が急いで駆け寄ると、一つの部屋を指差した。

「いまから入るけど、びっくりしないでね」
「え?なに?」
「ま、びっくりしないで、ってのは難しいかもしれないんだけどね」

そう言って戸惑っているをそのままに、がちゃっとドアを開けた。

「「ちゃん!!」」

そこには、またしても二人のカカシがいた。


「な、な、なんで・・・また・・・・」
!」

うう、と眩暈がしたを慌ててアンコが支えた。

カカシの服装を見てみると、どちらも忍服。
家で待機しているカカシたちとはまた違うカカシだ。

「あーっと・・・別に私、なーんにもしてないからね」

アンコは、あはは、と冷めた笑いをしながら、の頭を撫でた。

「あの・・・カカシさん」

「「ん?」」

が声をかければ、いつもの感じで返事が返ってくる。
同じトーンで、同じタイミングで、同じ顔で。

「とりあえず・・・えっと・・・帰りましょうか・・・」
「「りょーかい」」

思ったより冷静だったに戸惑うアンコをその場に残し、カカシたちの瞬身で家の前まで戻ってきた。

「・・・どうしよう、このままどんどん増えていったら・・・」

ぽつりと漏らした独り言が、なんだかただ事じゃないことで、自分で言った言葉にぞくっと鳥肌が立った。

一人のカカシがカギを取りだし、玄関のドアを開けた途端、二人のカカシは固まった。

「「おかえりー」」

聞いたことのある声が、部屋の奥からしているのだ。

「えと・・・ちゃん?」
「どういうこと?」

玄関前のカカシたちが、一斉にを見た。

「あは・・はは・・・」

はただ、引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。


*    *    *    *    *


「「「「えっ」」」」

たちが帰ってきて、カカシたちがお互いを見て発した言葉はまったく同じだった。
新しく加わったカカシたちを席に着かせ、四つの席はカカシで埋まった。

先ほどと同じように、最初に出会ったカカシと買い物で出会ったカカシが向き合い、その隣で新しく加わったカカシが向き合った。
は予備の椅子を持ち出し、新しく加わったカカシ側の辺に座った。


「じゃあ・・・四人も集まったところで・・・」

が口を開くと、四人のカカシがを見つめた。

「もう他にカカシさんはいないんでしょうか。なんかもうこの際、全員集めたくなってきましたよ」

「なーによ、そのコレクションみたいな言い方は」
「さっきもそうだったけど、自分の気配っていうのは察知できないみたいね」
「家に入る前、特になにも感じなかったし」
「すでに二人も家の中にいたのにねぇ」

それぞれのカカシから意見が出てくる。
一人一人、は顔を見て意見を聞く。
しかし、どのカカシもいつものカカシで、なにか変な夢を見ているかのよう。

いつものカカシと話しているはずなのに、どこかなにか違うような、違和感を感じるような。
でも目の前にいるのは、いつものカカシ。

「カカシさん・・・たちは、解読室で解読と実験をしてたんですよね?」

うん、と全員が頷く。

「それで、任務はきちんと終えたんですよね?」

「終えたよ。終えて、報告書を書いてから家に帰ってきて、ちゃんと夕飯の話をした」
「ええ、そうですよね」

「おれも終わってから報告書を書いて、帰る途中にちゃんに会った」
「はい」

「おれは終わって、報告書を書いて提出するとき、こいつが部屋に入ってきた」

ぴ、っと目の前に座っているカカシを指差した。

「実験終わって報告書を書きに部屋に入ったらこいつがいたんだよねぇ」

先に指差されたカカシも、ぴ、っと目の前のカカシを指差した。


「んー・・・。なんだか、みなさんの時間がバラバラですね」

最初に会ったカカシは、すでに任務も終えて報告書も提出した後、家へと帰ってきていた。

最後のカカシの言い分は、任務は終えたものの、報告書はまだ書いていなかった。


「分身の術、とかではないんですよね?」

「残念ながら、それは全員が疑って写輪眼でチャクラを見てみたけど違うみたい」
「ううう〜ん・・・・」

なにがなにやら、さっぱりな
ただ、困惑するばかり。

気持ちだけが焦って、時間はすぎ、日が陰ってくる。


「なんで行動時間がバラバラなんだろう」
「一人目と四人目の時差はおよそ1時間」
「一人目と二人目の時差は20分か」
「でも特別なにかをしたという訳じゃないし・・・」

はぁ、と一人のカカシがため息をつき、ふとの方を見た。

ちゃん、だいじょーぶよ。そんな泣きそうな顔しないで?」

そういうと、他のカカシも困ったような笑顔をに向け、近くのカカシは頭をぽんぽん、と優しく撫でた。

「で、でも・・もし、このままだったら・・・」

焦ってた気持ちの中カカシに優しくされて、我慢していた涙がじわじわ溢れてくる。
この人数の前で泣くもんかと目に力を入れる。

「別に、四人もカカシさんがいても、カカシさんはカカシさんなわけだし、全然大丈夫なのかもしれないけど・・・」

ぐす、と鼻をすする。
どんなに頑張っても、じわっと涙が出てきてしまう。

「でもやっぱり、なんか不安ですし、今後どうなるかわからないですしぃ〜・・・」

えええん、と今までの焦りと不安が涙となって零れた。


「「「「ちゃん・・・」」」」


いつもの声でカカシが名前を呼ぶ。

いつものように、頭を撫でてくれて、手を握ってくれる。


「おれも、このままじゃ嫌だよ」
「たとえ自分であろうと、ちゃんのことが好きなやつがこんなにいるのはねぇ」
「おれ以外のやつは邪魔だしね」
「だからみんなで解決策、見つけよ?」

少しずれたカカシたちの慰めに、こくん、と小さく頷いた。

「はい・・・すみません、取り乱しちゃって・・・」
「なーに言ってるの。俺たちにとって重要なことよ?」
「取り乱して当然」

ようやく安心感がわいてきて、へへ、とは小さく笑った。

「これだけカカシさんがいたら、木の葉の里は安泰ですね」

カカシもも笑い合っていた時、鋭い鳴き声と共に窓に一羽の鳥がとまった。

「伝令の鳥・・・」

窓に近かったカカシが立ち上がり、窓を開けて鳥の足にくくりついている文を取り出した。
鳥は再び鳴き声をあげ、舞い戻って行った。


「これ、ちゃん宛てだ」
「え?わたしに?」

カカシから受け取った文を広げてみると、そこには確かに宛ての内容が書かれていた。

『はたけカカシ 木の葉病院に搬送 意識なし 至急参られよ』


「こ、これって・・・・」

文を広げたまま固まるに、四人のカカシがその文を除きこんだ。

「木の葉病院?」
「意識なし?」
「おれが?」
「至急・・・か・・・」

カカシたちも眉をひそめてお互いを見つめ合った。

「と、とにかく、えっと、まだ発見されてなかったカカシさんがいたんですよね?!」
「そういうことになるねぇ」
「し、しかも、そのカカシさん意識がないって・・・」

がたっと慌てては立ち上がった。

「わたし、木の葉病院に行きますね!カカシさんたちは・・・えっと・・・」

ついてきてもらうべきか?
家で待っていてもらうべきか?

「えっと・・どうしよう、カカシさんたちは・・・」


ぐるぐるといろんな気持ちが混ざり合う。

目が回る。

気持ちが悪くなる。


ちゃん、だいじょーぶよ」
「一人じゃ不安でしょ、おれたちも行くから」
「なにかあってもおれたちが支えるし」
「大丈夫。安心して?」

真っ青になったの様子を見てカカシたちも立ち上がり、安心させるようにの手を握ったり、頭を撫でたりした。
大丈夫、という言葉だけで、の心は優しく溶かされた。
カカシが触れてくれたその場所はぽかぽかと暖かく、折れかかっていた気持ちがしゃきっとしてきた。

「カカシさん・・・ありがとう。みなさんで、病院へ行きましょう」


*    *    *    *   *


は一人のカカシに抱き支えられ、瞬身で病院へと向かった。
他の三名も各々で瞬身で病院へと向かい、指定された病室へと急いだ。

病室の扉には、はたけカカシと名札がかかっていて、わかっていてもドキリと心臓が跳ね上がった。

か!」

病室内から綱手の声が聞こえ、中からドアが開けられた。
その瞬間、ぱちりと驚いたように綱手は目を見開いた。

「綱手様!カ、カカシさんは!?」
「い、いや大丈夫だ、チャクラ不足で意識が戻らなかっただけで、命に別状はない」
「よかったぁ〜・・・」

かくん、と膝の力が抜けそうになるのを、横にいたカカシに支えられた。

「詳しく話を聞きたいのですが・・・」
「その前に、私の方から聞きたいことがあるのだが」

綱手は目の前にいる四人のカカシを一人ずつじっくりと見つめながら低くうなった。

「これは・・・・どういうことなんだ」

「それは俺が聞きたいんですよ」
「そこにぶっ倒れてる俺以外、こんなに俺がいるんですよ」
「影分身とか、チャクラを用いたものではないです」
「出現時間は全員異なりますが、各々それまでしてきた行動は同じです」

「・・・と、いうことなんです」

四人のカカシがそれぞれ事情を説明してくれたのでは言うことはなく、ただそれに頷くだけだった。
それより、いま死角となって見えない倒れているカカシのほうが気になる。

「あの、カカシさんの様子を見ても大丈夫ですか?」
「あ?あ、ああ」

どのカカシを指しているのやら、綱手は今の状況に混乱しつつも、を病室へと招き入れた。


「カカシさん!!」
「いやー、心配かけちゃってごめんね」

急いでカカシのもとへと急ぐと、上半身を起こして弱った顔で微笑んでいるカカシがいた。

「心配も何も・・・無事でよかったです」

ほっとしてへなへなとその場へしゃがみこんでしまった。

「あらら、だいじょーぶ?」
「カカシさんに伝えなきゃいけないことがあるんです」
「え?」

きっとこのカカシは、自分以外に四人のカカシがいることに気づいていないだろう。

の言葉を聞いていた綱手は、四人のカカシを病室へと入れた。


「は?」



元気そうに歩いているカカシたちを見て、病室のカカシは拍子抜けした。



これで、5人目。





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