「えっと、どういうこと?変化の術・・・でもないみたいだし」

ベッドを囲むように、、綱手、カカシ四人が並んだ。

「実は、カカシさん以外にすでにカカシさんが四人もいるんです」
「そうみたいねぇ」
「一人一人、今日の任務を終わらせて帰る途中とか、帰ってきたりして、こんなに集まったんです」
「で、順番的に俺が五人目ってことか」
「はいいぃ・・・」

さすが、というべきなのか、もしくは驚く力もないのか、病室のカカシは周りのカカシを見渡してため息をついただけだった。
そして一人ずつ、説明を聞き出していた。

と出会った時間がずれていて出現に時間差があること、なにかしらの術という訳ではないこと・・・

「俺は実験が終わってすぐだった。やけに疲れていて、外の空気を吸おうと外に出たんだ」

ベッドの上のカカシは、やはり今までのカカシとは違う状況だった。

「このカカシは解読室のドアの前で倒れていたのを発見されて運ばれてきた。だいたい、30分くらい前だな」

綱手がカルテを見直しながら教えてくれた。

「その実験中になにかあったのかな・・・」

今までのルールにのっとると、だいたい20分程度の時差があってカカシたちは同じ行動をとっている。

しかし、4番目の報告書を書きに行こうとしたカカシと、最後に現れたカカシとの行動間隔は20分以上の間隔があいている。
それに、このカカシにはチャクラがなく、過労状態。

今までのカカシは、チャクラや体調の変化は特にない。

どうして、このカカシだけが弱っているのか。

全員のカカシの根本の出現場所は、任務を遂行していた場所、解読室。
解読室からそれぞれ報告書を書きに行こうと、外の空気を吸おうと解読室からは退室している。

「あのっ、カカシさんがここに運ばれるとき、解読室の中って見ましたか?!」

なんだか嫌な予感がするは、綱手を見つめる。

「いや、解読室はこいつしか使ってなかった上にこいつが倒れていたから見ていないな・・・」
「わたし、解読室に行ってきます!!」


その場にいる全員を残して、は慌てて病室を飛び出した。


もしかしたら、ただの一般人の推理だが、解読室の中でなにかが起きている。
そんな気がして仕方がない。


「解読室、解読室、解読室・・・・って・・・えーーっと」


病院を飛び出してきたがいいが、病院から解読室がある建物への行き方がわからない。
きょろきょろと目印になる建物を探してみるが、ここから建物までの距離すらも検討つかない。


「もー、わからないならだれか連れて行かなきゃダメでしょ?」
「あ・・・」

闇雲に歩き出していたの目の前に、四人のカカシがどろんと現れた。

「残念ながら、もう一人はドクターストップ」

困ったように一人のカカシが笑った。

「あの、解読室にわたしを連れて行ってください!!」

の必死な頼みに、四人のカカシは了解、と返事をして瞬身で解読室の前へと連れて行ってくれた。


ドアの前へ到着した途端、全員のカカシがはっとした。

「この気配・・・」

一人のカカシがぽつりとつぶやいた。
は希望と不安の気持ちと共にドアを開けた。


「な、なにこれ・・・」


部屋の中は、電気が消えており、その上もくもくと煙が充満していた。


、さがって」


一目散にドアを開けたを守るように、二人のカカシがをさがらせ、残りの二人は慎重に部屋の中へと入って行った。


「なんでこれがまたここに・・・」
「あー・・・」


部屋の中からカカシの声が聞こえ、暗闇の中から何かを抱えたカカシたちが帰ってきた。

「カカシさん!」

一人のカカシが持っていたものは、大きな巻物。
その巻物からは煙があがっており、どうやらその煙が部屋の中に充満していたようだ。

だが、それより目を奪われたものは、もう一人のカカシが抱えていた、ぐったりとしたカカシだった。


「六人、目・・・?」


の声は、自分で思っていた以上に震えていた。

「・・・大丈夫だよ。もう、これが最後だ」

巻物をもっていたカカシが、どこかさびしそうにに告げた。

六人目の出現と、カカシの寂しげな雰囲気になぜ、とは聞けずには抱えられているカカシのことを見つめた。


「とりあえず、綱手様のところへ」


先ほどと同じように、瞬身で全員が病院へと戻った。



「戻ったか」

綱手はたちを見る前に、そうつぶやいた。

「綱手様!カカシさんが!!」
「ああ、わかってる。今すぐ処置する。そいつは預かるから、お前たちはここで待ってな」
「綱手様、これを」
「そういうことだったんだな・・・。それも預かる」

駆け付けた看護師たちと綱手は、新たに発見されたカカシと巻物を持って病室を後にした。


「・・・・」


なんだか、今までとは違う雰囲気。

どのカカシもなにかに気づいているようだが、誰も口を開かなかった。
どういうことなのか、聞くに聞けない、そんな重い空気が病室を埋めた。

どうしてさっきのカカシは、これで最後なのだとわかったのだろうか。
そして巻物がなにを意味するものなのか。

なによりカカシらは、今までは感じられなかった気配を解読室の前で感じていた。


カカシたちは、窓の近くに立っていたり、椅子に座っていたり。
お互い顔を合わせることなく、会話もすることなく黙ってぼうっとしていた。
どこにいればいいのかわからないは、ドアの近くに座ってカカシたちを眺めていた。

一人一人見つめていると、の視線に気が付いたカカシはにこりと微笑んでくれた。
でもその微笑みは、どこか愁いを帯びたようなそれで、見ているも哀しくなってくる。

なんでだろう、と考えることも、今日一日で何回目だろうか。

外はすっかり日が傾いて、夕暮れのオレンジ色の光が部屋を包んでいた。


「カカシさん」


名前を呼べば、全員のカカシがのことを見た。


「・・・」


どうしてそんなに哀しそうな顔をしているの、と聞きたかった。
でもそれを聞いたらいけないような気がして、言葉がつまってしまった。


静まった病室にコンコン、とノックの音が響いた。
ドアの近くにいたがすぐにドアを開けると、そこには看護師が。


「綱手様が全員のカカシさんをお呼びです」
「カカシさん・・・だけですか?」
「はい」

病室内のカカシにも聞こえていたのか、全員が立ち上がった。

「カカシさん、歩けますか?」
「うん、もう大丈夫よ。ありがと」

ベッドにいたカカシも立ち上がり、身支度を整えていた。

「じゃあ」
「俺たちは行くから」
ちゃんはここでおとなしく」
「待っててちょうだいよ」

わざわざ仲良く分割した忠告を受け、思わず笑ってしまった。

ようやく笑みを見せたにカカシたちも嬉しそうに笑った。



「「「「「じゃあね」」」」」




ぱたん、とドアを閉めて全員が病室から出て行ってしまった。



「じゃあねって・・・どうしてそんな言い方・・・」



ぽつりと残された静かすぎる夕焼けの病室。





*    *    *    *



つぎにが呼ばれたとき、カカシたちは戻って来ずに看護師だけが迎えに来た。

案内された部屋は、はたけカカシと書かれた病室。
さきほどと同じ名義であるが、病室は異なる。

ついさっき処置が終わったのか、部屋から何人か看護師が出てきた。


「カカシさんと綱手様がお待ちです」


案内してくれた看護師が、部屋へ入るように促した。

その促しに頷き、歩みを進めた。



ちゃん」



病室へ入ると、ベッドで上半身を起こしているカカシとその傍らに立っている綱手がいた。
ベッドにいるカカシは、今までのカカシたちとは異なる重篤患者服を着ていた。

「カカシさん」
「うん、もう、大丈夫」

疲れたように目を弓なりに曲げて微笑むカカシ。
そんなカカシによたよたと近づけば、片手を伸ばしての手を握ってくれた。

「たくさん心配かけちゃったみたいね」
「え?」
ちゃんは泣き虫だから」

まるで今までのたちの行動を知っているような口ぶり。
ベッドを挟んで向かいに立っていた綱手は、先ほどの巻物を小脇に抱えていた。
綱手のところへと向かったはずのカカシたちは病室にいない。

「綱手様、あの・・・カカシさんたちは?」

綱手は眉をひそめて、なんて言おうか悩んでいるようだった。
そして、巻物をゆっくりと広げた。

、これを見てくれ」

綱手が広げたそれには、真ん中に墨で『手』と書かれ、それを囲むように5つの渦巻のような模様が描かれていた。
5つの渦巻き模様には若干焦げたような跡が。

「これって・・・」
「カカシが解読していた巻物だ」
「・・・・」

綱手は慎重に巻物をまき直し、近くの机へ置いた。

「察しがいいお前のことだ。これを見て、なんとなくはわかっただろう?」
「・・・・」
「一応、2人にきちんとした説明をしなければならないな」

綱手はに椅子に座るよう促した。
すとん、と座り、とカカシは綱手に注目した。

「まず、今回のカカシの任務は・・・・」


カカシの任務は、書庫内で発見された巻物の解読と実験。
解読は、巻物内に書かれているものを読み解くもの。
そして実験は、解読をしたうえでその巻物を活用するために行う実験。

どういうものなのかわからないものは、解読力の高い忍が行わなければ失敗することがある。
失敗をすれば、それを処置する方法も未知のものなのでどうすることもできない。

そこで、知識も実力もあるカカシが今回選ばれた。

解読室内にて厳重に行われた解読により、巻物の内容、使用方法が判明した。
次に、それを実践しなければならない。
カカシは巻物に書かれている文書と照らし合わせ、チャクラを練ったあと、模様の通りに”手 ”を置いた。

「で、その後の記憶はないんだよな?」
「恥ずかしながら」

カカシは苦笑いして頬をかいた。

「カカシがこの巻物にチャクラをおくった後、一人目のカカシが現れたんだ」

家へと帰り、オムライスが食べたいと言っていたカカシ。

「その後、一気にカカシのチャクラを吸いこんだこの巻物は、そのチャクラを媒体として、続々と錬成され次第カカシを生み出したんだ」
「じゃあ、五人目の倒れてたカカシさんは・・・」
「ま、こいつのチャクラ量じゃ五人目のカカシは完璧にまかなえなかったんだな!」

バシン、とカカシの肩をたたき、その力にカカシは顔を歪ませた。

四人目までのカカシはうまくチャクラが配分されたが、五人目のカカシには錬成にも時間がかかり、そのうえチャクラが不足していたため、解読室から出た途端倒れてしまったのだろう。

「あの、この巻物は、どういう意味があったのでしょう?分身の術とは、なにか違うのですか?それに、」
「まあ待て、わたしもはっきりと答えられるわけじゃないんだ」

カカシは綱手に叩かれたところを撫でながら、綱手の代わりに説明を始めた。

「この巻物で発生した分身は、まさに自分自身のコピーが発生する。自分が分身であるという自覚もなく、所要するチャクラ量もオリジナルと同じ。
 だからこれを使うことで術よりチャクラ量が保証できる分身を出すことができる」

ふむふむとは頷き、なんとなく理解はできた。

「ま、今回は失敗に終わった訳なんだが」

むぅ、と綱手はため息をついた。

「では、今までいたカカシさんは今どこに?」

その質問に、今度はカカシも綱手も閉口した。

「最初のオムライスが食べたいって言っていたカカシさんも、あとから現れたカカシさんに対して敵対視してたカカシさんも、混乱したわたしを慰めてくれたカカシさんたちも・・・」

さっきまで一緒にいたカカシの顔が浮かぶ。

別れ際に、じゃあね、と言った彼らの言葉の重たさがずっしりとを襲う。


「あいつらは、本来のチャクラ源であるカカシのもとに戻ったんだ」

綱手がしっかりとに言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「カカシさんのもとに・・・」
「そ。だから、俺がぶっ倒れてた間、ちゃんたちがなにをしてたかっていうのは、ぜーんぶ俺の中に入ってきてるよ」

ぽん、と胸に手をあてて微笑むカカシを見て、我慢していた涙がほろりと溢れてきた。

「一人で不安だったね。これからはなにがあってもおれが支えてあげるから安心してちょーだいよ」

ね?とニコニコいうカカシのセリフに、は驚きを隠せなかった。

「それぇ・・・カカシさんたちが言ったセリフと一緒ですう・・・ううう・・・」

カカシの中に、さきほどのカカシたちがいるのだと思うと、涙がぽろぽろと溢れてきて止まらなかった。

にしてみれば、一人一人が大事なカカシで、そんな彼らを失ったことはカカシを失ったことと同じ。

でも、確かにカカシの中にさっきまでのカカシたちの記憶は引き継がれている。

「よかった・・・カカシさん」

思わずぎゅう、とカカシに抱きついた。
まるで、今まで一緒にいたカカシたち全員を抱きしめるように。


そんな様子を見ていた綱手が、呆れたようにため息をつき、くれぐれも安静にな、と言い残して病室から出て行った。

を抱きしめやすいようにベッドの上に座らせ、泣きじゃくるの背中を優しく撫でた。

「どうなっちゃうのかと思いましたよ・・・」

泣き止んだは、カカシに抱きついたままぽつりと呟いた。

「いやー、すまんすまん」

気付けばすっかり日が沈んで暗くなった病室。
電気つけなきゃ、とカカシから離れようと腕を離した。

「だーめ。まだはなさない」

言葉の通り、しっかりとカカシに抱きしめられてしまった。

「もー」

なんていいながらも、そのぬくもりに包まれたは素直に受け入れた。

「家に帰ったらちゃんの作ったオムライスが食べたい」
「そういえば言ってましたもんね、オムライス。ふふ」
「なに笑ってるのよ」
「だって・・・カカシさんがオムライス食べたいってかわいすぎますもん」
「そんなこと言ってるあなたのほうが何倍もかわいいよ」

なにを言ってるんです、と茶化そうとすると、ぐい、と体勢を崩すカカシにつられても体勢が崩れた。
カカシに身を委ねていると、ベッドに寝かされ、上にはカカシが覆いかぶさっていることに気が付いた。

「・・・・な、なにしてるんです?!」
「なにって、ちゃんも野暮なこと聞きますねぇ」

ちゅ、と軽く口づけ、カカシは笑った。

「せっかくなんだし、ここで・・・ぐはッ!」

思わずカカシの腹を蹴り上げてしまった。

「綱手様の言葉、忘れたんですか?安静に、ですよ!一応カカシさんはチャクラ切れで倒れてたんですからね!!」
「ええ〜・・・・」

まさにがっくし、と言わんばっかりに肩を落とすカカシを尻目に、ベッドから這い出た

「おいしいオムライス作って待ってますから。だから今は安静にしててください」
「ま、さんざん心配かけたうえにこれでまた何かあったら申し訳立たないからね。仕方がない」

珍しく素直にベッドに寝なおしたカカシ。


「とりあえず、今はこれだけ」

ちゅ、とからカカシに口づけた。

「じゃあカカシさん、お大事に!」

恥ずかしくて、逃げるように病室から出て行った。



遠くから「生殺しだ〜〜・・・」という悲鳴が聞こえたが、聞こえないふりをしよう。









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