dorama4 「カカシさん!」 どこか慌てたようなの声に、ゆっくりとカカシは振りかえった。 「ん?なに?」 の足が、緊張から小刻みに震える。 さきほどの練習のままの舞台装置がを飾る。 明るく、熱くを照らす照明。 逃げ出したくなる足を一生懸命押しとどめた。 どうしよう、と俯いてしまった。 この先のセリフなんて、知らない。 「なによ、どうした?」 神妙な顔をしているを不審に思ったのか、カカシがの元へ戻ってきた。 「・・・?」 くい、とカカシがうつむいたを覗き込んだ。 「どうした?お腹でも痛いの?」 急にカカシの顔が現れて驚いてはばっと顔をあげた。 そんなにカカシは小さく笑った。 「なによ、いつもみたいに子ども扱いしてーとかって怒らないの?」 ふざけて笑うカカシの言葉に、なにも反応もできず、ただカカシを見つめ。 そして何かをしゃべる前に、ぐいっとカカシの腕を引っ張った。 「わっ」 カカシの顔がの顔の目の前にくる体勢になった。 そしてはぐいっとカカシの口布を下した。 「・・・?」 カカシは驚きもせず、の行動にただただ不思議がってた。 その不思議がってるカカシの顔に、今度はがぐいっと顔をよせ、カカシの口に、自分の唇を押し当てた。 「!」 はすぐに顔を離したが、カカシは屈んだ体勢で、眼を大きく見開いたまま、固まっていた。 そんなカカシを置いたまま、舞台を降りて急いで休憩室へと向かった。 「・・・!」 後ろからカカシの呼びとめる声が聞こえたが、そこで足を止める勇気はもう持ち合わせていない。 逃げるように休憩室の中へ逃げ込んでしまった。 * * * まさかがあんな大胆な行動にでるとは。 いまや舞台の上に一人で残されたカカシ、ぽかん、とが消えた休憩室の方を見ていた。 から急にキス。 一瞬なにが起ったのかわからなかった。 真っ白になった頭の中では、いつぞやかと同じようにアカデミーの校歌が流れていた。 どうやら、てんぱったときにアカデミーの校歌が流れる仕組みのようだ。 なんて冷静に分析してみたりするが、今起きたことに冷静になることはできなかった。 信じられなかった。 『が・・・俺に・・・』 に下ろされたと口布をようやく上げた。 休憩室の扉の奥にはがいる。 まるで演劇のような展開。 次のセリフは・・・? 次の場面は・・・? 前みたいに場面をつなげてくれる人はいない。 とにかくの元へ行こうと足を動かそうとした途端、がやがやとたくさんの気配が劇場内に入って来た。 みんなが戻って来たのだ。 「あーどうなったかしらね!」 「ばか、大声ださないの。ここ響くんだから」 アンコと紅の声が聞こえた。 その声を聞いたカカシは、なんとなく察しがついた。 『ああ、あいつらに言われて・・・か』 その事実になんとなく、少し傷ついてる自分がいた。 すとん、と舞台から降りたカカシのもとに紅が寄ってきた。 「今日はさっき最終確認も済ませたことだし、もうお終いってことを伝えに来たのよ」 「そう」 「で、明日は15時に公演だから、アカデミーの前に13時に集合ね」 遠くで多くの忍を集めたアンコが、大きな声で明日の連絡事項を述べていた。 「衣装と血糊、忘れないでよ!明日ここには入れないから忘れ物厳禁!!」 アンコの解散の言葉と共に、衣装や小道具などを取りにバラバラと全員が解散した。 「あら?が見当たらないわね。カカシからに伝えといて」 「え?俺が?」 「そうよ。じゃ、私たちは明日の準備があるから」 「いや、ちょ・・・」 カカシの言葉を待たずに、アンコも紅も、そして他の忍たちもさっさと帰ってしまった。 撤退の速さにあっけにとられながらも、あれ以来開いていない休憩室の扉を見つめた。 「に、伝えないと」 扉の奥の様子を探ってみるが、ツンツンと尖ったの気配が感じ取れた。 扉のノブに手を当てるが、そんな気配を感じとっておきながら捻ることができない。 しかし明日のことはきちんと伝えないと、ヒロインが遅刻だなんて笑えない。 とりあえずポーチから紙とペンを取り出し、明日の連絡事項を書き出した。 その紙を、が休憩室から出てきてすぐ見つけやすい所に貼っておいた。 逃げ腰なのはわかっているが、演劇の中の「カカシ」のようにうまく立ち回れない。 このまま居座っても、から出てくることもなさそうだと判断し、そのままカカシは家へと帰ることにした。 どうせ、明日会えるのだから。 * * * 一方。 『休憩室に逃げ込んだものの・・・』 念のため、鍵もかけた。 カカシ相手には意味ないだろうけれど。 するとたくさんの気配と音が劇場内に集まってきた。 みんなが戻ってきたらしい。 が、集まったと思えばバラバラに散らばり、再び消えた。 残っているのはカカシの気配のみ。 『瞬身で逃げて帰っちゃおうかな・・・』 そう思って印を組んだとき、 「に、伝えないと・・・」 カカシの困惑した声が聞こえてきた。 『伝える?』 ネガティブな予想が頭をめぐる。 さっきのキス、どういうこと? 俺は仲間としか思えないよ 悪いけど、今後はあまり関わらないでくれる? 『来ないで・・・』 「あれ?」 拍子抜けだった。 扉のすぐ近くにいたカカシの気配がなくなった。 どんなに集中して気配を探っても、劇場内にはいないようだ。 鍵を開け、扉をそろり、と開けた。 『誰も・・・いない・・・』 ようやく休憩室から出ると、目の前の壁に紙が張ってあった。 「置き手紙・・・」 内容は明日のことについて簡単に書いてあった。 どうやらカカシはこの手紙を書いて帰ってしまったようだった。 安心したけど、なんだか少し残念。 『初めてカカシさんの文字見た・・・』 わざわざ最後にへのへのもへじが書いてあって、その可愛さにキュン、と胸がときめいた。 「キレイな字」 しっかりと読んでから、その紙を曲げないように大事にしまい、衣装と小道具を取りに行った。 なんだか誰もいない劇場はがらんとしていて、物寂しい。 「ここも・・・これでお別れかあ」 思えば長かったような、短かったような。 こんなにも、カカシと長くいられたときはない。 配役に運命を感じて、今まで自分でも疑問に思っていた気持ちに素直になれた。 「よかったな、ここに来れて」 はニッコリ頬笑み、最後にぐるりと見渡してから瞬身で家に帰った。 * * * その日の夜。 劇に出演してる忍たちは各々と思い返していた。 中には、夜に任務が入って、そのまま本番を迎える忍もいれば、本番の後すぐに任務にいく忍たちもいる。 『ああー明日で終わりか』 『長かったけど・・・充実してたな』 『(アンコが)怖かった』 『楽しかった』 『終わりたくないな』 『明日は必ず成功させよう』 劇に関わった人全員が、布団に入り、思った。 『カカシとはくっつくの早かったな』 誰もがしっかりと思ってから目を閉じた。 明日は本番。 劇も、この日々も終わる。 失敗はできない。 言葉を間違えたって、それが物語。 名残惜しみつつも、朝日はゆっくりと次の日を連れてきた。 3<<< DORAMA MAIN >>>5 NOVEL TOP |