「カ、カカシさん。時間です」

小さくゆすられて目を覚ますと、の顔は何故か不安げな顔をしてた。

しかしパッと明るい表情をしては朝食を誘ってきた。
突然の誘いに、つい聞き返すと途端には悲しい顔に戻った。

「あ、いえ。なんでもないです・・・」

ころころと表情が変わるはなんだかやっぱりお子様のよう。

「いーよ。朝食、もらっていい?」

そう言ったら、心底安心したのか、はにっこり笑った。

「ありがとうございます」

お子様も、お子様なりに何か考えていたのだろう。
優しく頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った




「カカシさん、おいしいですか?」
「ああ。うまいよ」

白米に、わかめの味噌汁。
海苔に焼き魚。それに卵焼き。
まさに和風の朝食が食卓に並び、満足そうな笑みを浮かべたと共に朝食をとった。

「カカシさん、おいしいですか?」
「ああ。うまいよ」

は俺が箸をつけるたびに、飲み込むたびに、

「カカシさん、おいしいですか?」

と、バカみたいに聞いてくる。
実際、とてもおいしい出来に感激したカカシは、

「ああ。うまいよ」

としっかり答えてやる。
その応答の繰り返し。

何度も何度も同じ質問に応えつつ食べ終えると、はニッコリほほ笑んだ。

「カカシさん、おいしかったですか?」
「はいはい、おいしかったですよ。ま!これなら毎日食べたいくらいだね」

本音を言うと、は机につっぷした。
そして小さく

「喜んでぇー」

と浮かれたような声が聞こえた。
なんだかその様子が面白いやら可愛いやらで、少し笑ってしまった。

綺麗に食べ終えた皿を持ち、台所へ持っていき水を出すと、その音に気がついたのか、はばっ、と起きあがった。

「わわわわわ。ちょ、置いといてくれればよかったのに!」
「いーや。寝床も提供してもらったし、、ご飯もごちそうになったからこれくらいは」
「だめです!カカシさんは座っててください!」

は泡立てたスポンジをカカシの手から奪った。

「いやーいいよ。やるやる」
「だめです!どいてください!」

は頑として動かない。
なんだかやってもらってばっかりで、居心地が悪い。

「じゃあカカシさん。そんなに手伝いたいなら、お皿を拭いてくださいな」
「ん、了解」

見かねたにタオルを渡された。

「はい、お皿。ちゃんと拭いてくださいね」
「はいはい」

が無理に強気に言っていることがおかしくて、つい笑みがこぼれる。
二人の姿を客観的に見たら、夫婦とか、そんなのじゃなくって・・・

『お手伝いをする子供と、それを助ける父親?』

ふふっ、と吹き出すと、は不思議そうに見てきた。

「なんですか」
「なんでもなーいよ」
「また私で妄想してたんじゃないんですか?」

皿を洗い終わったがニヤニヤとカカシの隣で皿を一緒に拭いた。

「はー?妄想?」
「はい。だってカカシさんは妄想してそうじゃないですか」
「なによそれ」
「だって〜」
「失礼しちゃうねぇ。ま!いま確かに妄想してたかな?」

軽い気持ちでそう言えば、は輝いた瞳でカカシを見つめた。

「そ、それはどんな妄想なんですか?!」
「いーの。はい、これで拭き終ったよ」
「え!あ、ありがとうございます!」

適当にをあしらい、ふと時計を見る。

「今日って練習あるんだよね」
「そうです!」
「んー・・・一回家かえるか・・・」

そう考えると、そろそろここを出なければならない。

「じゃ、またあとで。寝床と朝ごはん、ありがとね」
「いえいえ、こちらこそありがとでした!またあとで!」


バイバーイ、とのんきなに見送られ、家から自宅へと一時帰宅した。

さっさとシャワーを浴びて、身支度を済ませたのちに急いで稽古場へと向かった。

稽古場についてから少し遅れて、もやって来た。
カカシを見つけると、意味深な笑みを浮かべてカカシの隣にやってきた。

「はーい。皆さん、聞きなさーい」

みんなが集まる劇場の中で、アンコが叫んだ。

「えー、本番まであと1日です」

びし、と1本の指を掲げる。

「なのでー今日は本番だと思って最初から最後まで通しまーす」

前から言われていたということもあり、みんな特に反応しなかったが、隣で小さく「えっ!」と声が聞こえた。

「もし失敗したら、その人は本番の舞台に出れません」

「「「えええええ!」」」

さすがにみんなも驚いたのか、戸惑いの声が上がった。

「まあ本番にでれないくらいぼこぼこにしちゃうってことよ」

ばっさりと言いつけたアンコに、またしてものうめき声が聞こえた。

「へーぼこぼこだってー」

冷や汗をうかべたは、ばっとカカシを見た。

「私だって上忍なんですからアンコなんて平気です!」
「あ、もう失敗する気満々なんだね」
「あ!!違います!カ、カカシさんこそ間違えるんじゃないんですかあ?!」

はふんっ、と鼻を鳴らした。

「ま、せいぜい頑張りなさいよ」

はぷう、と頬を脹らましてカカシから顔を背けた。


「じゃあ始めるわよ!みんな位置について!」


アンコはぱん、と手を鳴らした。
すると各自の持ち場、場所へ移動し、今日の稽古が始まった。




*  *  *


話の内容はなんともかわいそうな悲恋だ。



大きな屋敷の一人娘のがいた。
の母親は、すでに他界。
父親のアスマはなんとしてでもを守ろうと、の自由を奪った。

ある日が屋敷の縁側に腰かけていると、屋敷の財産を狙った悪人がを奪いさらった。

その時にを助けた人物、それが忍のカカシ。

はカカシに一目ぼれをした。
カカシもに一目ぼれをした。

はすぐさま父親に今後の屋敷の警護にカカシを雇うよう頼んだ。
アスマはすぐに承諾し、とカカシは再会することとなった。

お互いに惹かれあい、二人は愛の言葉を交わした。

しかしカカシととの関係をあやしく思ったアスマは、カカシを解雇した。
は悲しみに打ちひしがれる。
カカシも諦めきれず、に会うために、何度も屋敷の近くまで赴くが、警備が厳しく一目見ることもできない。

ある夜、がカカシを探すために屋敷からこっそり抜け出すと、屋敷の近くでの姿を探すカカシと出会った。

会いたかった、もう離れたくない。
二人はお互いの深い愛を感じ、駆け落ちを決め込んだ。

カカシがを迎えに行こうとするが、それを悟ったアスマが、屋敷の警護を強化した。

隙を突かれたカカシはアスマに囚われてしまった。
アスマは大事なに悪影響を与えるカカシを殺そうと刀を振り下ろしたが・・・。





「カーット!!よし、だいぶ仕上がったわね!」

満足そうなアンコは、そういえば、と

「あんた本当ににキスしたの?」

と、ニヤニヤしながら聞いてきた。
子供向けの劇にキスシーンがあるとはまさか思わないが、紅が脚本のこの劇にはあるのだ。

「まさか。したふりだよ。もし本当にしてたら犯罪者になっちゃうからねぇ」
「は、犯罪者?!なんでですか!」

が心外だ、と言わんばかりにぷんすかと訴えた。

「だってこんな・・・」
「あああーもう言わなくていいですっ!もーカカシさんのバカ!」
「はいはーい」

二人が舞台上で仲良く喧嘩をしているのを、アンコと紅はあきれながら見ていた。

「あの二人、やっぱできてるわね」
「やだーアンコー。私の子供があんなスケコマシに汚されるだなんて」
「私の妹がスケコマシに・・・」
「でも当の本人はスケコマシのこと好きなんだから喜ばしいことなのかしらね」
「・・・スケコマシはのことどう思ってんのかね」
「さあねぇ・・・」

そんな二人をさしおいて、まだとカカシは騒いでいた。

「なんですかそれー!人が家に泊めてあげたっていうのに!」
「元はお前が袖を離さなかったんだから泊めさせられた、だな」
「じゃ、じゃあ、朝食を食べさせてあげたのに!」

そのやりとりを聞いていた他の忍たちは口には出さないものの、

『あ、上忍とカカシ上忍って付き合ってるんだ』
『泊ったうえに朝ごはん食べたんだ』
『スケコマシだ』
『青春だな』

と誰もが思っていた。
紅とアンコは顔を見合わせ、ため息を吐いた。

「はあ。ここは母として」
「はあ。ここは姉として」
「「の恋を応援するわよ」」

二人はニヤリと笑い、まだ言い争ってるとカカシを放って、他の忍をこっそり呼び集めた。
そして彼らに休憩だと述べ、全員を劇場から退場させた。

「よし、全員行ったわね」

紅とアンコは気配を探り、誰もいないことを確認してから舞台裏へと急いだ。


「・・・ん?」

ふとカカシが周りを見渡してみると誰もいない。
もそれに気が付いてきょろきょろ見渡すが、アンコすらいない。

「みんないなーい!」
「あれ、休憩か?」

やれやれと、ようやく舞台から降りてカカシはを置いて休憩室へ行こうとした。
その姿をみたは、声をかけようとして、とどまった。

『今・・・誰もいないし・・・告白しちゃおうかな』

そう考えて、ぶるぶると頭をふった。

『ば、ばか。それでふられたら後が辛いじゃん!』

あたふた悩んでいると、ひらひらと目の前に紙が降ってきた。
なにごとかと慌てて手に取ると、そこには文字が。

『いまがチャンスよ』

上を見ると、ピースサインをしたアンコと紅。
口パクで「がんば」「ちゃんとやれ」と言ってニヤニヤとを見ている。。

『む、無理だよ!』

はぶんぶんと頭を振ると、またしても紙が降って来た。


『あなたはあいつが好きなんでしょ?今しかないのよ?』

そして二人の気配は消えた。
はその紙をみて、はっ、とした。

『そっか、今しかないんだ。明日はもう本番だし・・・。
 この演劇が終わったら、もうこんな会う機会、ないのかも』

うし、と気合をいれ、深呼吸した。

眠そうに頭をかいて舞台から降りて休憩所へ向かうカカシ。


「ふう〜・・・」


震える声を頑張っておさえた声。
カカシを呼びとめた。



「カカシさん!」






歪な、滑稽なラブストーリ。

ヒーローはカカシ。
ヒロインは


台本のない、即興即席ラブストーリー。




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