決して大きな声では言えない。 誘惑の赤。 後悔の黒。 興奮の白。 躊躇の黄。 いろんな色が混ざり合って、気持ちの悪い感情が常に渦巻いていた。 「カカシ、あっ、気持ちいい、イく、イっちゃうっ・・・!」 「まだだめ・・・は・・・くっ・・・」 ベッドの上で交わる男女二人。 お互い見つめあいながら体を求めあっているものの、その目に熱は感じられない。 「イく、カカシ、あっ、あっ、イク、イ・・・く・・・!!」 「ッ・・・キツ・・・」 ビクッと体を震わせたのち、乱れた呼吸と共に弛緩した。 「、まだって言ったじゃん」 「だって・・・」 はあ、と妖艶に息を漏らしながら乱れた髪の毛をかきあげた。 「おれまだなんだよね」 そう言ってカカシはの片足を掴んでグイッと大きく広げ、そのままズンっと改めて突き上げた。 「ひあっ!ま、まって、これ!」 「あー、これやばいね」 ガツガツと奥深くまでまさに貫かれるような感覚。 よもや羞恥心などどうでもよく、ただお互いの快楽が暴走を始めていた。 「くっ・・・はあ、・・・」 「ん、はあ、あ、や、だめ」 口づけようと唇を寄せたものの、にそっぽを向かれてそれは叶わなかった。 「いいじゃん、しながらだと気持ちいいでしょ」 「だって・・・」 「気持ちよくなりたくない?」 意地悪くそう尋ねながら再び顔を寄せると、少し困ったような表情を浮かべていたがお構いなく唇を重ねた。 「ねえ、わたしたちもうこの関係やめよう」 「また言ってるの?」 ベッドの中で身を寄せ合いぼんやりと言葉を交わした。 この会話も、もう何度目だろうか。 あんなに激しく互いを求めあっていたくせに、心の距離は遠く離れていた。 「だってわたしたち、友達でしょ」 「はは、セフレってこと?」 「・・・・・」 そうじゃないでしょ、とは言えなくてつい言葉を詰まらせてしまう。 「だったらなんでキスなんか・・・」 「んー、おれとの相性が抜群だから、かな」 「理由になってないよ」 カカシはいつもなんとなしにはぐらかして、もいつも自分を見失って力なくベッドから抜け出すのだった。 「シャワー浴びたら今日は帰るね」 「泊まっていけば?」 「ううん、やめとく」 「そう」 引き留めもしなければ、送るよ、とも言わない。 でもそれが正しい答えで、一歩でも間違えるとこの関係は崩壊する。 壊れるのを望んでいるのか、それとも続けたいのかさえも分からなく、二人は気まずい空間をただ共有するだけだった。 使い慣れたシャワーを浴び終えると、ベッドの上でカカシはすでに眠っていた。 それを横目に脱ぎ捨てた服を静かに拾って身にまとい、最後に部屋を見渡して形跡を残していないか確認してから家を出た。 玄関の扉を開けるとき、少しだけ開けてそっと辺りを見渡した。 すでに明け方が近付いている世の中はひっそりとしていて、誰一人存在していないんじゃないかと思うほど静かだった。 「・・・・」 そのままカカシの家を後にして、溺れるように自分のベッドに倒れ込んだ。 いつからこの関係になったのか、はっきりと覚えている。 出会いは居酒屋。 は男友達と一緒にカウンターで並んで飲んでいて、カカシはその隣の席で一人で飲んでいた。 たまたま隣の席になったというだけで、その時はお互い知らない人同士。 「僕、トイレね」 「いってらっしゃ、あっ、あー!」 「うわ、やべ!」 友人が立った時に手が当たり、酒が並々と入ったコップが転がって盛大に酒をぶちまけてしまった。 「あーもう、いいよやっとくから」 「ごめんねー!」 店員さんにおしぼりを貰い、机の上を占めるひたひたの酒をのんびりとぬぐっていた。 その時すでに酔っぱらっていたにもかかわらず、目の前に広がった酒のにおいでなおさら頭がクラクラする。 「はあ・・・」 「大丈夫?」 「!」 突然、隣の人から声をかけられた。 驚いて隣を振り向くと、片目だけ斜めに隠した銀髪の忍者がクスクスと笑っていた。 「あ、はい・・・。ごめんなさい、そちらにまで」 「ああ、いいんですよ」 「・・・・」 そう言って穏やかに笑って、広がってしまった酒を一緒におしぼりでぬぐった。 その笑顔に目が奪われ、酒の酔いもあってか体が一気に熱くなる。 「ごめん、大丈夫だった?」 タイミングがいいのか悪いのか、トイレに立った友人がヨタヨタと帰ってきた。 「う、うん。大丈夫」 少し目を離したすきに、隣の人はすでに正面を向いてしまっていた。 なんだ残念、とそのまま友人と再び他愛もない話を再開した。 「でさ、さっき僕が話してた場所、ほんといいところなんだよね」 「うん」 友人の話半分、隣の気配に気持ち半分。 なんかのタイミングでもう一回お話できないかとタイミングをうかがっている自分もいる。 「だから今度僕と一緒にどうかなって」 「うーん、そうだね・・・・っ!」 机の下におろしていた手が、突然誰かに握られた。 慌てて手を見ていると、先ほどの隣の人が何気なしに手を握っていた。 こそっと顔を見てみると、何も変わらずただ一人酒を楽しんでいる人そのものだった。 「?どうしたの?」 「う、ううん!なんでもない!」 「そう。その場所なんだけどさー」 一瞬不思議に思った友人だったが、再び会話を始めた。 それからというもの、ほとんど友人の話は聞いていられなかった。 頭にアルコールが回っているのに、握られた手の暖かさや、時折撫でられてまるで愛撫されているような感覚に体の奥が熱くなる。 「ねえ大丈夫?」 「ちょ、ちょっとトイレ行ってくるね」 の様子に気づいたのか、友人が心配そうな顔でこちらを見ていた。 このままではおかしくなってしまいそうだと、そっと手を離して席を立った。 「あつい・・・」 トイレに向かうまでの人気のない場所で、はあ、と一人熱い吐息。 顔だけじゃない、もう全身が熱くなってしまった。 『どうしよう、頭がおかしくなりそう』 そうは思いつつも、どこか期待している自分もいて、それを認めるのもなんとなくモヤッとするところもあったり。 酔いが回ってくらくらする頭でなんとか自分を落ち着かせようとしていると、突如後ろからトントン、と肩を叩かれた。 「!」 びっくりして振り返ると、さっきまで隣にいた人がそこにいて、そして気づいたらその顔が目の前に近づいていた。 「んっ・・・!ん、ふあ・・・・は・・・」 もともと頭の中がモヤモヤしていたにも関わらず、突然の濃厚な口づけにますます思考が停止する。 力の入らなくなった足腰を支えるように壁に押しやられ、”愛”というより”快楽”の口づけは永遠とも思えるほど長く続いた。 拒絶しようとも思わなかった自分にも驚くが、目の前の人物の首に腕を絡ませて引き寄せていた自分にも心底驚いた。 「ふ・・・はあ・・・」 ようやく唇が解放されると、その男はと同じように欲情にまみれた瞳を怪しくゆがませた。 「名前は?」 「・・・」 「おれはカカシ。外、出ようか」 カカシの言葉に思わずうなずいてしまってから、一緒に来ていた友人のことをようやく思い出した。 もつれそうになる足をなんとか動かしてさっきまでいた場所へと戻ると、友人は机に突っ伏して気持ちよさそうに眠りこけていた。 「・・・・」 じゃあもうなにも気にすることはない、と支払いも何もかも任せてさっさと店の外へと出た。 「行こうか」 月明かりを背中に背負い、逆光で黒く染まった顔でカカシはのことを出迎えた。 もともと飲んでいた場所がそういう場所であったのもあり、少し歩けばすぐにホテルにたどり着いていた。 それからというもの、気づいたらベッドの上、前戯もそこそこに絡まるように体をつなぎ合わせていた。 「んああっ!」 「やば、すご・・・」 お互いが自分の中へ入ってきた瞬間、二人はきつく目をつぶってそのあまりにも甘美な快感を全身で受け止めた。 すぐに動き出してしまう腰に、口からだらしなく喘ぎ声があふれ出てきてしまう。 「んっ、カカシ!や、すご、いっ」 一突きされるごとに頭の中がスパークして、快感が体を突き抜ける。 「はあ、気持ちよすぎ・・・」 カカシも恍惚とした表情でひたすらに腰を打ち付け、ベッドがギシギシと音を立てていた。 「あっ、んっ、あ、だめ、イく、イく、あっ・・・!!」 声にならない声を上げ、ベッドのシーツを強く握りしめてはあっという間に上り詰めてしまった。 「すごいね、感じやすいの?」 「ん・・・ちが、なんか、カカシのすごくて」 息も絶え絶えのが落ち着くのを少し待った後、再びカカシは動き出した。 「おれもイきたいから頑張って」 「ん・・・」 カカシの言葉に素直に頷くと、その言葉通りラストスパートと言わんばかりにカカシの好きなように体を求められた。 「ひあっ、あっ!ん、んっ・・・!」 「は・・・」 揺さぶられながらそっと頬に手を添えられ、上を向けさせられた。 かと思えば口づけようと顔を寄せるカカシに思わずぐいっと顔をそむけてしまった。 「なんで?」 「だ、だって・・・」 「まあいいや」 少し冷めたような言いぐさで、ようやくカカシは顔を離した。 そして体勢を変えて再び動き出した。 「あっ!や、そこダメ!」 「イイとこ?」 さっきと少し違う角度なだけなのに、全身が震えるほどの快感が走った。 「ああっ、や、またイっちゃう、から・・・!」 「別にいいんじゃない」 そう言ってカカシは遠慮なくそのまま高みを目指すように動き、頭がおかしくなりそうな刺激にはポロポロと涙を流した。 「あー、イきそ・・・」 「ん、ダメ、わたしもイきたい」 「なにそれ、わがまま」 クスッと笑ったカカシがやけに妖艶に映り、再び大きな快楽の波が全身を襲う。 「あっ、や、イく、ッ!」 「く・・・はあ・・・」 「あ、あっ、んっ・・・ああっ!」 「うぁ・・・!くっ・・・」 びくっと体を震わせて、二人はほぼ同時に上り詰めた。 「ん、はあ・・・は、あ・・・」 「は・・・はあ・・・」 しばらく動かずそのままの態勢で、お互いの荒い呼吸だけが部屋に響いた。 「はあ・・・あー・・・」 「ん・・・」 先にカカシが声を漏らしてズルリと自身を抜いた。 慣れた手つきで避妊具を処理し、ドサッとの横に倒れ込んだ。 「最高。もしかしたら俺たちの相性、抜群かもね」 「そうかも・・・」 相手のことは名前しか知らないのに。 それでも誰もが知っていないようなことを知ってしまった。 カカシは恋人にするようにの肩を抱き寄せ、さらさらと髪の毛を指で弄んだ。 「そういえば、さっき一緒にいたあの人、あんたの彼氏?」 「え?ちがうけど」 「なーんだ」 そこは安心するところじゃないの?と意図が分からず表情を窺った。 「寝とってやったと思ったんだけどさ」 「・・・あなた、いい顔してひどいこと言うのね」 「多分、今日あわよくばって考えてたと思うよ。狙ってるオーラすごかったから」 「・・・・・」 「でも今は残念ながら俺と寝ちゃったけどね、アハハ」 カカシは狂気じみた乾いた笑い声をあげ、ベッドから立ち上がった。 「シャワー、先に浴びてきていいよ」 「あ・・・うん」 気怠い体をどうにか起こし、促されるままシャワーを浴びにその場を立ち去った。 頭から熱いシャワーを浴びると、興奮から覚めた頭が後悔と恐怖を生み出した。 なにをしてしまったんだ、わたしは。 名前を知るより先にキスを交わし、ほとんど何も知らないのに体をつなぎ合わせて。 わたしはこんなにも軽い女だったのだろうか。 でも、今までの中で一番気持ちがよかったことは認めざるを得ない。 まさに相性が抜群というやつで。 「」 「!」 突然、コンコンとシャワー室のドアがノックされた。 「おれ、先に帰るね。またね」 「・・・・・」 顔も見ずにさよならもしない、ろくな男じゃない。 あんなにも美しい顔をして、なんて歪んだ性格をしているのだろう。 「非道い男」 わかっているのに、それでもまた会いたいと思ってしまうのはどうしてなんだろう。 彼の左目に走る傷に隠れた瞳が狂わせるのだろうか。 その瞳の色はまるで・・・ Under TOP >>>2 Novel TOP |