「カカシくん!いま任務帰り?朝帰りじゃない」

バレッタで留めた柔らかな髪が、ふわりふわりと風にそよいでいる。
朗らかに微笑むその顔は朝日より眩しい。

「朝からカカシくんに会えたから、今日はハッピーね」


突然だけど、俺はこの人に恋をしている。

出会いがどうとか、どこが好きだとか、そういうのはまたあとで。

ただ、この人に心を奪われたままで、その想いは伝えきれずに長い年月が経ってしまった。


「おはよう、さん。もしかして通勤途中?」
「あら、見てわからないかしら?これでも時間に追われたキャリアウーマンなんだけど?」
「はは、そうでしたか。あ、そうだ。今晩どうです?久々に」

くいっと酒を傾ける振りを見せると、は笑顔でうなずいた。

「いいね、行こっか!いつものところ?」
「そうですね、お待ちしてますよ」
「わかった!早めに仕事終わらせるね!」

今晩の約束を取り付けて、はそのまま仕事へと向かった。
カカシはその後ろ姿が見えなくなるまで見届けて、ようやく家へと帰った。



「ふ〜」

夜勤任務から解放された身体を風呂で癒し、どさっとソファに座り込んだ。


はカカシより少し年上だ。
さきほど約束した居酒屋で、飲み仲間として出会ったのだ。
忍と一般社会人。
接点なんてそんなもんだ。

今朝はたまたま・・・を装ってと会えたが、実際はカカシの計画通り。
わざとが通りそうな道に、通りそうな時間を狙って歩いていたのだ。

まあ、こんなことをしてしまうくらいのことが好きなのである。

年上らしくカカシのことを「カカシくん」と呼ぶくせに、なんだか行動は子供っぽい。
それも含めてすべてが可愛らしい。
そして少し意地悪な性格が、その可愛らしさに拍車をかけている。


それは以前、休日に偶然街中で出会い、ショッピングに付き合ってほしいと誘われたときのこと。
あぁ、この時は本当に偶然だということは明言しておきたい。

「なんだかデートみたいじゃない?」

楽しそうにカカシに笑いかける
そう思っていたのが自分だけはないということと、の眩しい笑顔にカカシは眩暈がおきそうだった。

「ま、今日は荷物持ちくんとして頑張ってくれたまえ!」

にやけそうな顔を抑えるのに必死なカカシの肩をポン、と叩き、さっさとショッピングモールへと歩いてしまった。

「それでも嬉しいですよ・・・」

ぽそっと思いのたけを少しだけ漏らして、急いでの後を追った。


「ねぇカカシくんはどっちがいいと思う?」
「いや、あのー・・・どっちもいいんじゃないんですか・・・」

がまず先に向かったのは、あろうことか下着屋。
可愛らしいふわふわした店を前に、カカシは外で待っていますと言ったのにいいからいいからと無理やり中に連れ込まれてしまった。

周りの人の目が痛い。
目のやり場に困るってレベルじゃない。

「わ、これかわいい・・・ねぇカカシくん、ほら、どう?」
「え?いや・・・ちょ・・・」

の方を振り返ると、服の上からブラを宛がっていた。
うっ、と思わず目が泳ぐ。
どう見ていいのやら、どう言葉を返せばいいのやら。

「かわいいよね!」
「え、ええ。いいんじゃないんですか・・・」
「あは、カカシくんこういうの好きなんだ!」

カカシの翻弄する姿を楽しそうに笑うは、じゃあこれにしよーっとカカシを置いてレジへと向かっていった。

「はあ〜もう・・・」

よたよたと店から出て、近くのベンチに腰かけた。
他のどうでもいい女性の下着姿なんぞ見せつけられてもどうてことないのに、のその姿を想像するだけでこんなにも心が乱されるとは。


ていうか


「D・・・」


思わず、掌をその形にして見つめてしまった。



「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないです」

会計を終えて店から出てきたが不思議そうにカカシのことを見ていた。
慌てて手をおろし、ベンチから立ち上がった。

それからというもの、の言葉通りカカシは大量の荷物を持たされ、あちらこちらへと付き添わされた。
荷物持ちだろうがなんだろうが、ただ一緒に並んで歩けるということだけで嬉しいカカシはの言うとおり付き添った。

「よーし、もういいかな。お茶して帰ろうか」

ようやく満足したのか、最後にカフェに入った。
静かな店の二人掛けの机に座り、メニューを眺めた。

「今日のお礼に、ここはおごってあげましょう」

なんでも好きなのどうぞ、とほほ笑むに、荷物持ちで緊張していた筋肉が癒される。
カカシはホットコーヒーを、は可愛らしくキャラメルマキアートを注文していた。

あぁ、どこまであなたは可愛いのか。


結局あの後、の家まで荷物を届けた。
家に上がったらどうだと誘われたが、自制が効く自信がなかったため丁重にお断りし、その場から足早に去った。

きっとは、カカシのことを男として見ていないだろう。
飲み仲間、友達、もしくは弟のような存在・・・?

男女の間に友情は芽生えないなんてよく聞くが、にとってこの言葉はどう聞こえるのだろうか。



「あ〜・・・好きだな〜・・・」

ぐぐっとソファで伸びをしながら、積もり積もった思いのたけを解放するのが日課になってきた。

今日は久々に飲む機会ができた。
時間が経つのが遅い時計を何度も眺めては、はぁ、とため息を一つ。

ようやく日が暮れ始め、街灯の電気が灯り始めた。

さっさと身支度をして家から飛び出し、と初めて出会い、それからずっと通い続けている居酒屋へと向かった。


「いらっしゃい、やぁカカシさん。いつもの席、あいてるよ」


のれんをくぐれば、大将がいつもの笑顔で迎えてくれた。
いつもの席、お店の一番奥のひっそりとしたテーブル席に座り、ちびりちびりと始めながらが訪れるのを待った。

なんだか今日はやけに酒が進む。
もう一本、と頼もうと大将の方を向いた途端、入口が開いてが入ってきた。

「あ、カカシくんより早く着いてやろって思ったのになぁ」

大将への挨拶もそこそこに、カカシの向かいに座った。

「お仕事、おつかれさま」
「カカシくんこそ。あれ、もうこんなに飲んでるの?」

机の上の空のとっくりを見ては呆れた声をあげた。

さんが来るの、待ち遠しくて」

本音をちらつかせて、カカシはくいっとお猪口の酒を飲み干した。

「嬉しいこといってくれるね。あ、乾杯しよ〜!」

の元に届いたビールと、新しく届いたとっくりをかちん、とぶつけた。

「あ〜・・・おいしい〜・・・」

カカシは酒でぼんやりした頭で、ぷはっとおいしそうに飲むを見つめていた。


「ねぇさん、ちょっと相談したいことがあるんですけど」


相談したいことも、言いたいことも、まとまっていないのに見切り発車で言葉が先に漏れ出した。


「ん、なあに?なんでも言ってごらん」


の微笑みが、ますますカカシの頭を惑わせて、アルコールが回っていく。


もういいか、どうにでもなれ。




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