さっそく里を出発、木々の間を飛びぬけながら着々と目的地へと向かっていった。

「またカカシと一緒だなんて奇遇だね」
「ん、ああ、そうだね」

心なしか少し嬉しそうに笑顔を見せるに、まだ先ほどの怒りの表情が忘れられないカカシは戸惑うばかり。
なんだったら嬉しそうに見えるのは、そうあってほしいと思う気持ちがそうさせているのかもしれない。

「でもまた戦闘かあ・・・」

今度は心配そうな顔を向けられ、そのコロコロ変わる表情にドキリとさせられる。
そうか、前回の任務で負傷しているし、その怪我の影響が出てしまうのではと心配しているのかもしれない。

「ま、なにかあったときは見捨ててもらって構わないから」
「またそういう・・・」
「・・・!止まれ、!」

突然のことを手で制し、二人は大木の上でピタリと動きを止めた。
辺りを睨むカカシはの背筋が震えるほどの殺気を放ち、一気に空気が張り詰める。

「さっそくご登場か」
「・・・どうやらそのようね」

もかすかな気配を感じ取り、二人は地面に降り身をかがめ戦闘態勢をとった。

は遠距離で、俺は接近戦でいく。フォロー頼んだよ」
「了解。結構大人数みたい、気を付けてね」
もね」

向こうも気づかれたことを察したのか、もはや気配を消すことなく堂々と二人の前に現れた。

「1、2、3・・・・8人か。よし、いくぞ」

さっそく一人をクナイで切り倒したカカシは、そのまま先陣切って敵に向かっていった。
それを見たも、カカシをバックアップしつつ遠距離用の術で敵陣営を崩していった。
近距離で戦っているカカシの元では火花が舞い、クナイとクナイがぶつかり合う金属音が響き渡る。

『クソ、思ってたよりやり手だ・・・は大丈夫か?』

六人目を相手している間に後ろにいるを少し振り返った。
遠距離攻撃を繰り出しているための近くに敵はいないものの、術を多発しているため息を切らしている。

「くッ・・・!」

よそ見をしている瞬間に相手の刃がカカシの腕をかすめ、ジワリと痛みが滲んでいく。
その一瞬の隙にカカシの横をすり抜けた忍が一直線にに向かってクナイを振りかぶった。

!」

その様子を見たカカシは血相を変えて目の前の敵を蹴り倒し、に向かっていく敵を追いかけ首元にクナイを刺し込んだ。

「うぐ・・・」

盛大に血を噴き出した忍は、に向けたクナイはそのままに地面に倒れ込んだ。

「カカシ!うしろ!」
「!」

の声にすぐ振り向くも、すでに敵は目の前。
まずい、と思った瞬間に大きく刀が振り下ろされ、受け身をとる余裕もなく地面に叩きつけられた。

「カカシ!!」

の悲鳴のような声が響き渡った。
ベストすらも貫通するほどの威力で切りこまれ、一気に服が赤黒く染まっていく。
すぐさまが敵を倒し、地面に臥せったカカシの元へ駆け寄った。

「カカシ!大丈夫?!」
「俺のことはいい、あと一人残ってるはずだ」
「よくない!応急処置だけでも・・・!」
「そんなことしてる場合じゃないだろ、もやられたらどうする!分からないのか?」
「分かんないよ、いやだよ・・・カカシ死んでほしくないもん・・・!」

カカシの言葉を無視し、泣きそうになりながらポーチから医療道具を取り出す

「いい加減にしろ!もしここで敵が逃げ帰ったら俺たちの情報はおろか、木の葉の里に危機が及ぶかもしれないんだぞ!」
「そんなの、分かってるよ!」

カカシの怒声に負けないくらいも声を張り、ついにぽろぽろ泣きながらカカシの傷に止血処置を施していく。

「でも、でもわたしは・・・・」
「!」

その瞬間、の背後からクナイを振りかぶった忍が現れた。
先に気が付いたカカシがなんとかだけでも守ろうと腕を動かしたが、もはやそれすらも間に合わず息をのんだ。

「わたしはカカシを守りたいから」

優しく微笑んだは流れるような動作で後ろを振り返り、静かに最後の忍にとどめを刺した。

「・・・・・・」

ドサリと倒れた忍を背景に、風に髪をなびかせるの後ろ姿に目が離せない。

「カカシは死にたがりだから、わたしが守ってあげないと」

ね?と笑顔でくるっと振り返った。
あ、かわいい、と思ったが最後、一気に視界が暗くなりそれと同時に意識が遠のいていった。


おそらく失血で意識を失ったのだろうが、意識が戻る波で思考だけが頭の中で巡る。

あの時まるでいい雰囲気とは言えなかったが、風がそよぐ中で振り返ったの笑顔が忘れられなかった。
あれほど怒鳴っても、あの場から逃げなかった。
さすが分からずや、と言うべきなのか。
きっとのしたことは褒められることではない。
それでも嬉しかった。
自身のことも顧みず、ましては木の葉の里の危機ですらも考えず。
それでも守りたいからと、優しく微笑んだ。

待てよ・・・?

それってもしかして、なによりも自分を一番に考えてくれていたと言うのか?
木の葉の里よりも・・・?

「う・・・・・・」

あの笑顔の意味も、怒鳴られて泣きながらも逃げなかった理由も、もしかして、それって。

「脈ありってことか?!」
「うわっ!」

バサッと起き上がったカカシの声に、誰かの驚いた声が見事にハモった。

「い、つー・・・・」

起き上がった瞬間、胸に走る痛みに再び倒れこんだ。

「あれ・・・ここ・・・」
「おはよう、とんでもない寝起きだね」
!」

目が覚めた場所はどうやら木の葉病院で、先ほどの驚いた声は傍らに座るだった。

は?ケガ無かったのか?」
「・・・・・うん」
「そうか、よかった」
「カカシはね、傷は思ったより深くなかったみたい。ただ動脈がやられて失血が多かったようで、意識を失ってたって」

当たり障りのない会話かと思いきや、なぜが空気が張り詰めた。
まさか、と思いの表情を窺えば、あの時と同じように不機嫌な表情。

「・・・・あのさ、カカシ」

どこか言いづらそうに口を開いた

「なんで自分のことよりわたしの心配ができるの?」
「え?」
「だって、ケガしたのカカシじゃん!しかも、またわたしを庇って負った傷だよ?」
「それは別に、俺のことよりのことが」
「ちょっと黙って!」

カカシの言葉を遮ったは、怒ったような、泣きそうな複雑な表情を浮かべていた。

「わたしはカカシのことが心配なんだよ・・・」

の頬についに一筋の涙が走り、それを見るやいなや傷が痛むのも厭わずにカカシは身体を起こし、力任せに抱き寄せた。

「ごめん、のことをただ守りたかっただけなんだ」
「や、ま、待ってよ!」
「いっ・・・・」

カカシのケガを負っている胸を問答無用にグイっと押し、はカカシの腕から逃れた。

「あ!ご、ごめん!あ、そっか!ごめんなさい!」
「いや、俺こそごめん・・・」

痛みに前かがみになっている背中を慌ててはさすった。

「わたしのせいで・・・ごめんなさい」
「いや、いいよ、俺が急だったし」
「ちがくて!」

痛みが治まりようやく顔を上げると、はまたしても泣きそうな表情。

『その顔、やめてくれ・・・』

思わず抱きしめてしまいそうになる腕をなんとか抑え、そのあと続くであろうの言葉を待った。

「カカシが死なないように見張ってるのに、わたしといるとカカシが怪我しちゃうね」

無理やり笑うその顔は、なぜかますます傷ついているようで。
背中をさすってくれていたの手を取り、抱きしめる代わりに優しく包み込んだ。

「そう簡単に俺は死なないよ」
「嘘だあ。だってカカシ、死にたがりだもん」
「なにそれ」

思わずクスッと笑ってしまうと、ようやくも表情を緩めた。

「もう死ぬ気で、とか、見捨てていい、とか、言わないで」
「・・・・なんで?」
「わたしはカカシに死んでほしくないから」

そう言ってはカカシの手を持ち上げ、そっと祈るように顔を寄せた。

・・・・」
「あっ、ごめんね!急に変なことしちゃって!」

ハッと気づいたは顔を赤くしてすぐに手を放したが、カカシはの手を再びつかみ、ぐいっと引き寄せた。

「わっ!」

引き寄せた勢いで傷口にがぶつかったが、そんなことも気にせず強く抱きしめた。
痛みなんかより、腕の中にいるの存在が愛おしい。
自分がを思っていたよりも、思われていたなんて。

「・・・まって、なんで抱きしめられてるの?」
「いや、分かんない?おれ結構アピールしてたつもりだったんだけど」

相変わらずの素っ頓狂な発言をするだが、その赤くなった頬に拒絶の色はなくて。

「わたし分からずやだからはっきり言ってくれなきゃわからないんだけどな」

ニヤッといたずらに笑ってこちらを見上げる顔は、傷の痛み以上に甘い痛みを走らせた。

「・・・・もう、これ以上はダメ。止められなくなるよ」
「ふふ、分からないなあ」
「まったく、ずるいんだから」

そっと頬に手を添えて、キラキラ光る瞳をこちらに向けさせた。

「好きだよ、

恥ずかしそうにうなずくに顔を寄せ、少し笑みのこぼれるその唇に口付けた。



そして迎えた退院日。
手を握り合い並んで歩く二人。

「今度カカシと任務が一緒になった時に、カカシにケガさせないようにもっと強くならなくちゃ」
「・・・それでも俺はのことを死んでも守るよ」
「あー!やっぱり分かってない!この死にたがり!」

結構な殺し文句だと思うんだけどな、と相変わらずな反応を見せるにカカシも頬をかく。

「じゃあ・・・そうだねぇ・・・これからも俺の隣にいてちょうだいよ」

なにか分かりやすい言い回しを、と言ったものの、今度はカカシ自身が恥ずかしくなり思わずかあ、と頬が赤くなる。

「んー?」

その割にははきょとんとした表情。

「この分からずや!」
「あはは!うそうそ、わかってるよ」

照れるカカシには噴き出して、ポンポン、と背中をたたいた。

「いつまでも一緒にいられることが幸せだからね。だからカカシも死なないでね」
「・・・・ハイ」

結局の言葉に赤くなった頬はそのままに、二人は寄り添って病院を後にした。








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