「あぶない!!」
「わっ!」

ドン、と強く押されて思わずは地面に倒れ込んだ。

「ぐっ・・・・」

代わりに聞こえてきたのは、を押した人物、カカシのうめき声だった。
とっさに見開いた視界の先に、パッと鮮やかな血が舞った。

「カカシ!!」

慌てて近寄ろうとするが、すぐにカカシはを睨みつけて声を荒げた。

「来るな!お前はさっさと後援組と合流しろ!」
「やだ!」

その隙にも、武器を構えた敵が手負いのカカシに向かって襲い掛かってくる。
「クソ・・・わがまま言ってないでさっさと行け!」
「だめ、カカシを置いていけない!」
「お前じゃこいつらには勝てないだろ!俺のことはいいから」

だから頼む、ともはや懇願するかのようにのことを見つめるカカシ。

「・・・やだ!カカシと一緒に戦う!」

プイっと顔をそらし、カカシの言うことも聞かずにクナイを構えた。

「ハァーーーこの分からずや・・・」

ガクッと肩を下ろして大きなため息をついたカカシは、グイッと額あてをずらし朱色の瞳を露わにした。

「じゃあ悪いけど、おれはお前のことを死ぬ気で守るから」
「なんでそういうこと言うの・・・」
「は?」
「この死にたがり・・・」

ボソッとつぶやいたの言葉は、戦いの騒めきにかき消されてしまった。


*    *    *    *    *


「おい、!おいったら!」
「・・・なに?」

カカシがいくら呼び止めても無視を決め込むに、ついに腕をつかんで無理やり振り向かせた。

「なに?この前の任務で負傷させたことは散々謝ったでしょ?」

チラッと申し訳なさそうにカカシの脇腹を見た後、再びジロリと睨みつけた。
先日の任務で、無理にカカシと共闘したがために怪我を負わせてしまったことには負い目を感じていた。
が、それ以上にを不機嫌にさせるものが胸の中で渦巻いていた。

「ちがう。それ、なんなんだ?どういうつもりなの?」
「なにが?」

二人してなぜかイラついた口調で言葉を交わし、いやな空気が辺りを包む。
それを察した周りの忍たちは二人を遠巻きに廊下の端をささっと走り抜けていった。

カカシにしてみれば、どうしてにそんな態度をとられるのか見当がつかない。
むしろ、この前の任務で体を張って守ったのだからそれに対して感謝されるべきではないのだろうか。
別に感謝しろとまではいわないが、その態度はおかしいのではないかと主張したい。

あの戦いが終わった後すでには不機嫌で、任務終了後にカカシを病院に向かわせてすぐには帰ってしまった。
それ以来、受付や待機所で見かけてもわかり易くカカシのことを避けていた。
その態度に、さすがのカカシも堪忍袋の緒が切れて今に至っている。

「別に不機嫌になるのは勝手だけどさ、そんな態度される理由がわかんないんだけど」
「・・・・カカシにはわかんないことだよ。じゃあ」

カカシにつかまれた腕を無理やり振り切って、はさっさとその場からいなくなってしまった。

「ったく・・・何なんだよ」
「カカシ上忍!」

いかり肩で遠くに行ってしまうを見ていたら、突然後ろから声をかけられた。

「あ、上忍行ってしまわれましたか・・・。これ、火影様からです。カカシ上忍と上忍のツーマンセルのAランク任務です」
「ツーマンセルか・・・」

よりによって、と渋々依頼書を受け取った。

「すみません僕、急ぐので上忍にはカカシ上忍から伝えてください。出発はなるはやで〜!!」

小走りで去っていく受付忍、そして残されたカカシ。

「はあー・・・、ちょっと前だったら嬉しい出来事だってのにね」

ぐしゃっと乱雑に依頼書をポーチにしまい、すでにはるか遠くに行ってしまったのあとを渋々追った。



「あのさー、紅。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なによ、カカシ。急に改まって」

これはあの任務に入る数日前の話。
待機所に人が少なくなってきたのを狙って紅にこっそり話しかけた。

の彼氏ってあいつだっけ?」

遠くでぼんやり間抜け面でコーヒーを飲んでいるやつを指さすと、紅は怪訝な顔をしてカカシのことを見つめた。

「は?に彼氏なんていないわよ。どこから聞いたの、その噂」
「あれ、そうなの?なーんだ、イルカ先生にウソを教えられちゃったよ」

イルカ先生ごめんね、と心の中で謝りながら同時にガッツポーズをとった。

こんな回りくどい方法でがフリーかどうかを探るなんて、自分でもどうかしてると思う。
けれどもうどう聞けばいいとか考えてられるほど、なりふり構ってる場合じゃない。

「・・・わかった!あんたのこと好きなんでしょ!」
「えっ?」

紅の的を得た発言にギクッと心臓が跳ね上がった。

「あの子、ほんとバカだからちゃんと言わないと分からないと思うわよ」
「あー、うん。そうなんだ?」

ポリポリと頬をかきながら、なんて返事すればいいかもわからず、たださっさとその場から離れたかった。

「さっきみたいにまわりくどーい聞き方じゃ、一生無理よ」
「ハイ・・・」

ニッコリとすべてを見通していた紅に最後の一発をくらい、よろよろと待機所から抜け出した。

ふとした瞬間にのことが気になって、かと思えば一気にの魅力に身も心も惹かれていってしまった。
今まで気にしてなかったのに、の一挙一動が気になってしまい、気づけば常に目で追っていた。

そしてついにとのツーマンセルの任務が決まったのだ。
願ったり叶ったりの巡りあわせに、つい気持ちが空回りしてしまったのだろうか。
気づかぬうちになにかを不愉快にさせてしまうことをしてしまったのかもしれない。

でもよく考えてみてくれ。
『おれはお前のことを死ぬ気で守るから』
これ以上にない告白の言葉だったと思っていた。
なのにそれがいきなりあんな態度をとられた上に
「・・・・カカシにはわかんないことだよ。じゃあ」
と、目の前でぴしゃりと突き放されてしまった。


「はー・・・ったく、何なんだよ」

考えてても仕方がない。
今は次の任務を遂行することに専念しなければならない。
だいぶ先を歩くを見つけ、気まずい気持ちを押し殺して声をかけた。

「あー・・・。悪いんだけど、任務だよ。おれとツーマンセル」
「あ、わかった。出発はいつ?」
「え?あ、一時間後に門のところで大丈夫か?」
「うん。それじゃあ、準備してくる」

はほのかに微笑んで、さっそく準備のためにその場を去っていった。

「・・・・は?」

てっきり嫌な顔をされるかと思った。
むしろ、あんたとなんか嫌だ、なんて言われるくらいの覚悟をしていたのに、あの微笑みは何だろうか。

本人も、あれは言い過ぎたと思ったのだろうか。
それにしても、なんだろう、あの笑顔は。

「・・・可愛いんだってば」

はあ、と頭をぐしゃぐしゃかいて抑えきれない感情をなんとか逃した。







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