朝早く、腕を伸ばした先は虚空を掴みベッドの温もりは一つになっていた。 「・・・」 まだ夜が明けきらないうちに、がカカシを起こさないようにヒッソリとベッドから抜け出していたのを知っていた。 少しこちらを気にしながらも、なりに物音や気配を消して出ていく姿に気づいていたが止めなかった。 それこそ止める資格などなかった。 「カカシ先生・・・」 昨夜、は何度も名前を呼びハラハラと涙を溢れさせていた。 自分でも訳が分からないくらいに執着していて、それはもう教え子に対する愛情を超えていた。 そもそもこちらのテリトリーに割り込んできたのはの方だったのに、いざこちらが近づけば近づくほど遠ざかっていく。 だからもう逃げられないように無理やり自分のテリトリーへ引き込んだのに、はいとも簡単に抜け出してしまった。 昨日の夜、玄関から雪崩れ込むようにベッドの上に組み敷いて、まるで二人の間を埋めるように何度も何度も口付けを交わした。 初めて抱いた時あれほど緊張していたというのに、いま目の前でこちらを見つめるはあまりにも妖艶だった。 淡い色のブラウスに清純そうなスカート、派手すぎないメークまで仕上げたはまるで別人のようだった。 「・・・ッ」 見るに耐えなくて、あっという間に着ていた服を脱がしてベッドの下へと落とした。 下着姿で横たわるの温もりを味わうように体を埋めた。 「・・・あっ!んぁっ、カカシ先生・・・!」 「・・・」 を揺さぶるたびにギシギシとベッドが耳障りな音を立て、同じようにの口からも甘い声が溢れ出していた。 「は・・・気持ちいい・・・」 あの日のような行為だけのセックスではなく、ただ快楽のためのセックスは頭を麻痺させた。 何度も唇を合わせて舌を絡ませ、そして指と指を絡ませ合い見つめ合うなんて、まるでそれは恋人同士のようで、そしてなによりもその錯覚が一番頭を狂わせた。 「んっ、んぁっ・・・!」 与えられる快楽に対して目をつぶって顔を背けて耐えるに対して、顎をクイっと寄せて正面を向かせる。 「ダメ、こっち見てて」 我ながらバカバカしい恋人ごっこだが、が気持ちよさそうに涙を流しながら微笑む姿にそんなことはもうどうでも良かった。 「あっ、イく、カカシ先生、あっ、ダメ・・・!」 「はぁ・・・俺もイきそ・・・」 「ダメ、あっ、ん・・・!」 堪らず口付けながら最後を目指すように腰を突き上げ、先にビクビクと体を震わせるの中の蠢きにカカシも欲望を弾かせた。 ベッドに並んで横たわり荒い呼吸を繰り返す二人は言葉を交わすこともなく、の額に汗でひっついた髪の毛をよけてやったりしている内にそのまま眠りついてしまった。 そうして朝になり、空っぽのベッドに底知れぬ虚無感を感じた。 「そんな簡単じゃないか」 もう一度抱けば再び自分の元へ戻ってくると思っていた。 簡単に手に入ると自惚れていた。 気づいた時にはもう遅く、そんな自分に腹が立つ。 「ハァ・・・」 頭を冷やすためにシャワーを浴びようとベッドから立ち上がると、昨日アカデミーで受け取ったについての資料ファイルの存在を思い出した。 逃げるのなら、追えばいい。 シャワーを浴びたのち、すぐに家を飛び出した。 向かう先はさきほど見たファイルの中に書かれていた忍具店。 「よりにもよって・・・ここだったのか」 看板にはまだ忌々しくも上忍試験向けの特別セールのチラシが貼ってあった。 扉のガラス越しに中を見ようとするが暗くてよく見えない。 躊躇することなく扉を開き、カウンターに立つ者の前に立ちはだかった。 「な、なん、なんで、カカ、シ先生・・・!」 まん丸な目をして固まったままのの前に立つと、ようやく我に返ったのか慌てて奥へ引っ込もうとクルッと背中を向けた。 「!」 「!」 ガシッと腕を掴むと、は振り解くこともしかったがこちらを振り向くこともしなかった。 しばらく無言の抵抗が続いたが、沈黙を破いたのはカカシの方だった。 「また逃げるの?」 「どうして・・・逃がしてくれないんですか」 背中を向けたままのがどんな表情を浮かべているのか分からなくて、掴んだ腕から感じるのは不安と緊張だった。 この騒動を聞きつけてか、店の奥から他の店の者が出てくる気配を感じた。 「お前が諦めても、俺は諦められないから」 背中越しにそう伝えてようやく腕を離した。 「カカシ先生」 が振り返った時、そこにはもうカカシの姿はなかった。 「くん、お客さん?」 「あ、店長・・・いえ、なんでもないです・・・」 うっすらと赤く跡が残っている手首をさすりながら、のんびりと奥から出てきた店長にそう答えた。 「忍ってのは気配を消して近づいてくるからねぇ。くんも気をつけてね、気付いたら目の前まで追ってきてるってこともあるから」 「あはは、そうかもしれないですね」 「・・・いいの?」 「え?」 「くんは追わなくていいの?」 朗らかに微笑む店長はどこまで見ていたのだろう。 核心をついた言葉に驚きと戸惑いが隠せなかった。 「で、でもわたしは逃げたんです。わたしにはもう一緒にいられる資格なんてないし、向こうだってきっと、もう・・・」 「でも追ってきてくれたんじゃないの?」 「そ、それは・・・」 「くんの気持ちはくんだけのものなんだから、資格なんていらないのよ。そんな資格なんて刃がない手裏剣くらいいらないね」 「・・・」 「そんなに繕わないでさ、一度素直に気持ちをぶつけてみたらいいじゃない、閃光玉みたいに」 戸惑うに、今日はヒマだなぁ、二人もいらないなぁ、とこれみよがしに呟いた。 「だから、ね?」 「店長・・・!すみません、わたし、今日さきに上がらせてもらいます!」 「うん、いってらっしゃい」 ふふふと満足そうに笑う店長に深く挨拶し、バタバタと店を後にした。 「えと、えーっと、カカシ先生・・・」 街中をキョロキョロしながら走り回り、店の近くや本屋など、いそうな場所をしらみつぶしに探して行った。 が、やはり見つからなくて諦めかけていたが、よく行っていた演習場へなんとなく立ち寄った。 あれから一度も足を踏み入れてなくて、懐かしい匂いと木々に思わず足取りが軽くなる。 「あ・・・!」 「やっと来てくれたね」 そこにはまるで待ち構えていたかのように、を迎えるカカシがいた。 「ずっと待ってたよ」 ポケットに両手を突っ込んで飄々とした態度でこちらに笑みを見せる姿に堪らず胸がときめいた。 やっぱり気持ちは変わらなかった、というより変えることができなかった。 「カカシ先生、わたし・・・」 「うん」 「わたしカカシ先生のことが好きです。ずっと、ずっと一緒にいたいです!」 爽やかな風が吹き、木の葉が揺れてサワサワと音を立てた。 「俺もずっと一緒にいたい。好きだよ、」 葉が揺れる音も風の音も、カカシの言葉以外の音がピタリと止まったようだった。 目の前がみるみるうちに歪んでくる。 泣くまいと思っていたのに、気持ちとは裏腹に自然と涙が溢れてきていた。 「カカシ先生ぇ・・・」 「忍を辞めたらよく泣くようになったね」 見かねたカカシがを抱き寄せてそっと包み込んだ。 優しく頭を撫でられながらカカシに抱きしめられて涙が止まるはずもなかった。 「もう忍じゃないしカカシ先生たちを裏切ったのに、許してくれるんですか?」 「許すも何も、もう関係ないよ」 「どういうことですか?」 カカシのことを見上げると、少し照れたように頬をかいていた。 「好きになっちゃったんだから、しょうがない」 「カ、カシ先生・・・」 二人して顔を真っ赤にして、身体を寄せ合ったまましばらく無言が続いた。 「ねぇ、きちんと抱かせてよ」 「・・・えっ?!」 「俺の家でいい?」 「ちょ、待っ、え?」 「あの宿は却下だけどね」 「え!え!」 大混乱している中グルグルと視界が回った。 幸せすぎて眩暈が起きていると思いきや、知っているチャクラを感じて瞬身の術でカカシの家に来たことを知った。 「逃げるなら今だけど?」 「もう逃げません!」 今までの思いを起爆札のごとく爆発させ思い切りカカシに抱き着くと、その勢いにバランスを崩したカカシと一緒にケラケラ笑いながらベッドに倒れ込んだ。 「カカシ先生・・・大好き・・・」 「ん、俺もだよ」 重ね合わせた唇はひどく熱かった。 3<<< Novel TOP >>>_ |