アカデミーを卒業して早幾年。

忍者を早々に引退して早数ヶ月。

この度、同窓会を兼ねては再びアカデミーへと足を踏み入れた。

!こっちこっち!」
「あー!みんな久しぶり!」

アカデミーの入り口を待ち合わせ場所に、アカデミー時代の友人が集まった。

「久しぶり・・・っていうかなにその服装」
「えー?だってもう忍じゃないからさあ」

集まった仲間たちは深緑のベストと額あてを身にまとい、一方自身はブラウスにスカートと、なんともちぐはぐな集まりだった。

「そうだけど・・・。でもあんた忍者辞めるの早すぎない?」
「アハハ、やっぱわたし才能なかったみたいでさあ」

アカデミーを無事に卒業して、を含むほとんどのメンバーは中忍まで昇格した。
いざ上忍試験を受けようとなった時、は同期の誰に相談するということもなくヒッソリと忍を引退した。

「もしかして忍者辞めたのってわたしだけ?」
「まあ・・・そうなるね」

上忍試験に受かった者もいれば、まだ中忍だったり特別上忍、はたまた解読班に転身するなど、活躍は聞くものの辞めたものの名は聞かない。
忍者の中で名をはせている同期のことを誇らしく思う一方、一緒に勉学を重ねてきたにもかかわらずこうも差が出るものかと少し妬ましく思ったこともあったが、いまや引退した身でもある。
なんだったら、いま務めている忍具取り扱い店の売り上げに関わってくるのでその活躍は大いに期待しているばかり。

「まあ、わたしはみんなの活躍を応援してるよ!・・・でさあ、カカシ先生ってまだいる?」
「は?カカシ先生?」

一瞬ぽかんとした仲間たちだが、その中の一人がハッと気が付いた。

「えっ、あんたまさかまだカカシ上忍のこと好きなの?!」
「まだって、わたしはずっと好きだよ〜」

へへへ、と呑気に笑うを見て仲間たちは顔を見合わせて頭を抱えた。

「アカデミー生の時にあんたが盛り上がってたの冗談だと思ってた・・・」
「本気です〜。でもわたしが忍者だったとき一回も任務一緒にならなかったんだよね」
「まあそれでよかったんじゃないの?生徒の時は分からなかったけど、いざ任務で一緒になると相当・・・迫力があったよ」

任務で一緒になった者は当時のことを思い出したらしくブルっと身震い。

「カカシ先生と一緒に任務になったの?いいなあ〜」
「あんた話聞いてた・・・?」

どこまでも呑気なにやれやれとため息。

「そんなに面識もないくせによくこんな長い間好きでいられるね」
「そりゃあ愛だよ、愛」

ヘラヘラしてるに、一人の同期が「あっ」と声を上げた。

「そういえばカカシ上忍、きょうアカデミーに行く用事あるって言ってたよ」
「え?ちょ、ちょっと待ってどういうこと?!」
「この前なんか書類を受け取りに行くだのでアカデミー行くって。その日、うちらが会う日だなーって思ったんだよね」
「えー!!じゃあカカシ先生ここに来るの?!」
「ここっていうか・・・アカデミー」

途端に辺りを見渡す
すると仲間の一人がある一点を指さした。


「あっ!」

指さした先、そこにはいつもの猫背に両手をポッケに入れながら気だるそうにアカデミーの外廊下を歩いているカカシがいた。

「ほら、あんた話しかけてきなさいよ!お久しぶりですーって!」
「や、ちょっと待って、緊張する!」
「早く!行っちゃうよ!」
「え、えー・・・!」

ほれほれと背中を押されるも、いざ現れた憧れの人を前に簡単に声をかける勇気はまだ出来ていなかった。

「じゃあわたし呼んできてあげるよ。ちょっと待ってて」
「えっ、まって!あ!」

引き留める間もなく、ピューっとカカシの元へ駆けて行ってしまった友人。
その足の速さ、さすが上忍というか。
その行方を目で追っていると、友人がカカシに話しかけると二人は一言二言交わしたのち、二人してこちらを振り返った。

「あ・・・」

慌ててペコっとお辞儀をすると、カカシはひらひらと手を振ってくれた。

「わ、わ、わ・・・手、手ふってくれてる!」

にじみ出るの声に周りの友人たちは若干引いているにもかかわらず、は隣にいる友人の腕を我慢できずに握りしめた。

「痛い痛い!も挨拶しに行ってくれば?」
「や、ちょっと、それは」
「あ、ほら、行っちゃうよ」
「あ、や、あー・・・」

再びこちらを見たカカシが片手をあげ、それに応えるように必死に頷きながらぺこぺことお辞儀しているうちにカカシは行ってしまった。

「あ、行っちゃった・・・」
「だから行けばいいって言ったじゃん」

カカシの元に行っていた者も戻ってきて、同じように「なんで来なかったの?」と追い打ちをかけられる。

「カカシ上忍、のこと覚えてたよ。忍やめた子でしょ、だって」
「そういう覚え方か〜」
「今度飲みに行きましょうって言っておいた」
「〜〜〜!!」

同期のナイスアシストに言葉にならない声と共にバシバシと腕を叩いた。

「痛い!」
「好き!」
「あーそう、ありがとね」
「カカシ先生が!」

の返答に同期は思い切りを突き飛ばした。


その後、同期と共に懐かしのアカデミーをめぐり、あの木で泣かされただの、この机に座ってただの、あれやこれやと日が暮れるまで存分に過去を楽しんだ。
夕方のチャイムが鳴って、あの時は「また明日ね」と家に帰っていたのが、いまでは「飲みに行こう」と言うあたり年を取ったとしみじみ感じる。

「それでなんでは急に忍をやめたわけ?」
「えー?だから才能がなかったんだって!中忍試験もわたしだけギリギリだったんだから」

酒が回ってきたころ、話は一周して改めての話になった。

「・・・でも相談はしてほしかったな。一緒にやってきた仲じゃん」
「アハハ、ごめんね。だってみんな試験前でピリピリしてたからさ、心配かけられないかなって」
「今は?楽しいの?」
「うん、すごく良くしてもらってる!だからみんなもうちに買いにきてね〜」
「この呑気な奴め〜!」
「うわ!」

隣に座っていた同期にワシワシと撫でまわされ、ワハハと笑いに包まれた。
その間にある人物が座席の横をスイと通りがかったと思いきや、その人物は立ち止まりこちらを振り向いた。

「あら」
「カ、カカシ上忍!」

偶然にも同じ居酒屋に訪れたらしく、カカシのほかにもガイやゲンマなどでも知っている忍たちもゾロゾロ揃っていた。

「カカシ上忍も皆さんも、よかったら一緒に飲みませんか?」

アルコールで気が強くなっているのか、気軽にそう誘う同期をコッソリ睨みつけた。

「せっかくの同窓会なんでしょ。おじさんと一緒に飲んでも楽しくないよ」
「いーじゃないか!どうやら懐かしい顔もいるようだしなぁ?!」
「うっ・・・」

ニヤリとガイに目をつけられたのは

「え?、ガイ上忍と面識あるの?」
「ま、まぁね」

アハハ、と曖昧に笑みを浮かべなんとなく受け流す。

「青春だなぁ!俺たちは隣の席で飲むとしよう!」
「なんか悪いねぇ・・・」

ちょうどが座ってる席からよく見える場所にカカシは着席した。
他にも見知った忍はいるものの、生憎カカシしか視界に入らない。

「よかったね!あとで席、交換してあげるからさ!」

カカシの近くに座っている者にそう言われ、頷いていいのやら断りたい気持ちもあるやらで、よく分からない首の動きを見せていると、視界の端でカカシの視線を感じた。
目線をずらしてカカシの方を見るがどうやら勘違いだったようで、そっぽを向いていた。

「そういえばこのまえの任務でね」

結局のところ同窓会にまとまってしまい、隣の席に上忍たちがいようが構わず話は盛り上がり、一人が明日早いから、となったタイミングで会はお開きになった。

「それじゃあ先輩方、お先です!」
「おぉ、気を付けて帰ろよ」
「またね」

カカシは手だけあげて挨拶をし、最終的にと会話することも目を合わせることもなく別れてしまった。


「あーあ、せっかくのチャンスだったのに!」
「チャンスって・・・わたしはただ見れただけで満足だよ」
「カカシ上忍、いまフリーって聞いたよ?」
「いやいや、だからって無理だよ!」
「なんで」

夜道をワイワイ騒いで帰るのはなんだかアカデミーの時に戻ったようで。
あの角で確かみんなと離れ離れだ、と思いながらもその懐かしさに寂しさは感じることもなかった。

「じゃあ、わたしここで」
「あーそうだったね!なつかしい」
「アハハ、じゃあまた集まろうね!」
「うん!今度お店に買いに行くよ!」
「ありがと」

なんていいながら手を振って別れ、さっきまでの騒がしさとうってかわって静かな道を一人トボトボ歩きはじめた。

「楽しかったなあ」

少なからず酔っ払っているのか、誰もいないであろう道で独り言。
思い出し笑いなんかしたりして夜空を眺めて歩いていると、突然目の前に誰かが現れた。

「わっ!すみませ・・・」

よそ見してたからぶつかってしまったのかと思って慌てて前を向くと、そこにはこちらを静かに見つめるカカシがいた。

「カ、カカシ先生・・・!!」

突然のことで頭が真っ白になり、酔いなんて一気に吹っ飛んでしまった。

「ど、どうして、ここに・・・」
「本当に辞めてたんだね」

狼狽するとは反対に冷静な態度を見せるカカシに思わず閉口する。

「あのあと、なにがあったの?」




時は遡ること、がまだアカデミーに入学して間もない頃。
夕暮れ時に一人ポツンと家路に着いていた。
アカデミーで習った手裏剣術を復習するように投げる練習をしながら歩いていると、突然目の前に見知らぬ男が現れた。

「こんなガキでも捕まえておけば何か手になるだろう」

なんだか不穏なことを言っているのは分かるが、木の葉の忍でない装束の男を目の前にして逃げ出すことも、習った手裏剣術を披露することもなくただ佇んでいた。

「くく、呑気な奴め」

捕まる、とようやく思った時にはすでに遅く、大きな手が思い切りの腕を掴んでいた。

「は、はなして!」
「火影邸までの人質になってもらうぞ」
「いや!はなして!たすけて!」
「暴れるんじゃねぇ!」

拘束された腕をジタバタ動かし逃げようとするに大きな拳が振りかざされた。

「!」

殴られる、と目をつぶるも、いつまでもこない衝撃にソロリと目を開けた。

「こちら、ろ班。郊外にて標的を確保。尋問に回します」
「あ・・・」

大きな男はその身体の半分もないくらいの木の葉の暗部面をした若い忍にいとも簡単に気絶させられ、拘束されていた。

「怪我は?」
「あ、な、ないです」
「とっとと帰りな」

銀髪の髪をゆらゆら揺らしながら暗部面はの腕をそっと撫で、がまばたきをした瞬間にはもう二人の姿は消えていた。

「すごい・・・かっこいい!」

それからは担任の教員に事情を話し、銀髪の暗部面がはたけカカシという者だということを知った。

「みんな、カカシ先生って知ってる?!」

大人の忍はみんな『先生』だと思っていたがそう尋ねるも、もちろんアカデミー生が暗部の一人を知っているわけもなく。
いかにカッコ良かったかを熱弁するに周りはケラケラと笑っていたが、その熱が冷めることなく無事アカデミーを卒業。

下忍となって任務を受ける日々が続いたものの、カカシへの熱い思いは弱まることもなく、成績低迷でありながら中忍試験を受けるまで進級した。
そしてその試験会場で銀髪を見かけ、稲妻に貫かれたような衝撃を受けた。
暗部から引退したとは聞いていたが目の前にいる人物は紛れもなくあの時の暗部面の忍で、初めて見る顔つきやベスト姿に目が釘付けになる。

「カ・・・」

思わず名前を呼ぼうとしたが、きちんとした面識もないまま話しかけるのも、さすがに大人になったいま失礼であることも理解でき、呼び止めようとした手をゆっくり下ろした。

「・・・わたし上忍目指す!」
「中忍試験受かったら言いなさいよ」
「まずは中忍目指して」

スリーマンセルを組んでいた二人に突っ込まれながら、改めて決意を固めたはギリギリの成績で中忍試験に合格した。

緑色のベストを手に入れて、少しは憧れに近づけたかな、と舞い上がっていたのも束の間、今まで以上に忙しくなった日々に翻弄され続けていた。
やれ同期が負傷した、昇格した、移籍した、だの様々な噂が回り、中にはカカシとツーマンセルを組んだ、だの幻想のような話もの耳に入ってきた。

「わたしもカカシ先生と一緒の任務に就きたい!」
「あのさぁ、カカシ上忍であって先生じゃないんだってば」
「わたしにとっては先生だから・・・」
「本人には言わないようにね。あんた怒られるよ」

偶然会った同期に愚痴ることもあれば、なりに業績を上げて周りから一目置かれることも増えてきた。
これなら話しかけても失礼はない、と思った矢先、上忍試験への通達が出回った。

「一年後・・・」

ついに肩を並べられる時が近づいてきたのだ。
だがあまりにも自分には実力がなさすぎて、このままでは到底試験に受かるわけがない。

「修行だ・・・!」

なにもかも、カカシのためへの一念発起。
朝早くから、任務を挟んで夜遅くまで鍛錬を重ね図書館にも通い詰め。
見るからにボロボロになっていくに、ある任務で一緒になったガイが見かねて声をかけた。

!聞いたぞ、修行に燃えてるらしいな!」
「ガイ上忍・・・はい、わたし来年度の上忍試験にどうしても受かりたいんです」
「ほう、いい意気込みだ!体術なら俺が修行をつけてやろうか?」
「え!本当ですか!」

不得意分野である体術を、言うなればエキスパートであるガイ本人に見てもらえるのなら万々歳だ。
お互いの空いてるスケジュールを確認し合い、後日、演習場で修行を見てもらうことが決まった。



「遅いな・・・」

当日、昼前から集まる予定だったが太陽が真上になってもガイが来る様子がなかった。
もしかして急な任務が入ったのかもしれない、と引き続き一人で丸太に拳を打ち込んでいると、後ろから誰かが近づいてくる気配を感じた。

「ガイ上に・・・」

やっと来たか、と振り返ると、そこには気怠そうに本を片手にこちらに視線を向けるカカシだった。

「カ、カ、カシせん・・・ジョウニン!」
「君が?」
「ハイ、いや、え?」
「悪いけどガイなら里の周りを走ってるよ」
「へ?」
「逆立ちで」
「逆立ちで?」

目の前で何が起こっているのか、何を言われているのか訳が分からなくて馬鹿みたいに狼狽てしまう。
そんなを前にカカシは面倒臭そうに頭をかいた。

「ガイに頼まれたのよ。修行見る約束してたけど行けないから代わりに行ってくれって」
「で、でも、おおお忙しいのでは?」
「ま、頼まれちゃったからね」

ドッドッと心臓がおかしな具合で跳ね上がる。
まさかこんな形で話すことになるとは、髪の毛乱れてないかな、顔とか汚れてないかな、もっと可愛い格好してればよかった、と返事を返すどころか頭の中で大騒ぎだった。

「それで?体術?」
「あっ、は、はい!」
「いいよ。始めようか」

パタン、と本を閉じてポーチにしまい、代わりにポッケに手を突っ込んで佇むカカシ。

「まずは適当に、思ったようにやってごらん」

なんて貴重な体験なんだろうか、と涙が出そうになるのを堪えながら、のもつ全ての力を持ってカカシに向かって行った。



「大丈夫?」

ゼェハァと息を切らすを前に、涼しげな表情で心配そうに声をかけるカカシ。

「す、すみません、まだ、いけます」
「いや、もういい」

あまりにも格好がつかなくて再び構えようとするのをスパッと切り捨てられた。
その言葉にサッと青ざめる。
呆れられてしまったのか、気の毒に思われたのか、なんにせよ良いようには思われていないだろう。

「すみません・・・体術が一番苦手で・・・」
「いや、体術だけじゃない。チャクラの使い方だよ」
「チャクラの使い方?」

まったく気にしていなかった点を突かれて思わず聞き返してしまう。
するとカカシは少し離れて、とを離すと宙に向かって思い切り横蹴りをして見せた。

「いまのはこれ。でもここでチャクラを軸足に込めると」

そう言って再び同じように横蹴りをすると、今度はビュッと風を切る音と共に離れた場所でもその風圧を感じた。

「基本は軸足に。そうすることで体がブレないし、格段に威力と命中力が上がる。やってみて」
「は、はい!」

その後もアドバイスを受けながら型を変えていくと、自分でもわかるくらい成長を感じられた。
習ってる途中から、正直ガイに教わるより的確で、理論的に説明してくれて分かりやすいのではと思いつつ、カカシは文句も言わずに日が暮れるまでひたすら修行に付き合ってくれた。

「ま、こんなもんでしょ。かなり良くなったと思うよ」
「あの、本当にありがとうございます!カカシ先生のおかげでまた一歩近づけた気がします!」
「何に?」
「えっ、あっ、いや、あのー上忍に!」
「楽しみにしてるよ」

カカシはクスクス笑って、ラーメン奢るよ、と言って先に歩きだした。
その後ろ姿を見て、心の底から込み上げてくるトキメキに身体の疲れなんてあっという間に吹っ飛んで、ガイ上忍ありがとう!!と叫びたくなるのを堪えて静々とカカシの後をついて行った。


一楽で奢ってもらったラーメンをすすっていると、ふとした瞬間にカカシが「ごめんね」と謝った。
もしや素顔を見たくて盗み見してるのがバレたのか、はたまた何かこちらで不手際があったのかと思って慌てて聞き返すと、

「女の子なのにラーメン屋連れてきちゃって」
「!」

想定外の発言に思わず吹き出しそうになるところをなんとか抑え、必死に「いえ」とだけ返して水を飲み干した。
頭の中で『女の子』というワードをリフレインさせる。
くの一ではなく、女の子。女の子。女の、子。

「むしろ、わざわざカカシ先生に修行に付き合っていただいた上に奢っていただいて、わたしの方こそごめんなさい、ありがとうございます」
「あのさ、なんで先生なの?」
「えっ!」
「さっきもカカシ先生って。おれ上忍師やってないし、なんで?」

怒っているようには見えないが、失礼にあたることには違いない。
さっきまで盛り上がってた気持ちが一気に重く沈み込むのを感じた。
あれほど同期からも本人を前には言わないように釘を刺されていたのに、舞い上がってしまってついつい口をついてしまった。

「あ、の・・・その、カカシ上忍、が・・・」

どこから説明すればいいのやら、血の気の引いた頭で上手く言葉が出てこない。

「修行見てやったんだろ。ならもうカカシ先生じゃないか」
「テウチさん!」

突然目の前の店主、テウチがキョトンとしながら答えてくれた。
その答えに全力で乗ろうと頷いて見せると、カカシは何ともないように「ふぅん」と答えた。

「ごめんなさい、気を付けます」
「別に呼び方なんて何でもいいよ」
「え・・・」
「また修行見てあげるよ。お疲れ」

ポン、との肩を叩きながら席を立ち、先にカカシは店を後にした。
そのあまりにもかっこいい立ち去り方には姿が見えなくなった後までも見つめ続けた。



あくる日、待機所に立ち寄ると偶然ガイとカカシの姿があった。

「あ!」
「よ」

先に気がついたカカシの方から手をあげてくれて、それだけで感動に打ちひしがれながら慌ててお辞儀を返した。

!この前はすまなかったな!俺の青春が足りなかったせいでカカシとの熱い勝負に負けてしまってだな!でも今は」
「いえいえ!いいんです!カカシ先生のおかげでわたしもかなり成長できまして、その節はありがとうございました」
「いーえ」

ガイの熱弁を遮りながらちゃっかりカカシに礼を述べると、ガイも「さすが我がライバル!」と声を張り上げていた。

「ところで!忍術の修行はいつなんだ?」
「え?忍術、ですか?」
「ム?この前の任務を見る限りこれから修行をつけるものだと思っていたのだが」
「あー・・・」

突然思わぬ形で現実を突きつけられ、ガックリと膝をつきたくなる。
体術どころか、基本の基本である忍術ですら上忍レベルにはまだ程遠いとは。

「忍術の修行なら俺よりカカシの方が向いていると思うが・・・いや、カカシよ!勝負だ!」
「ちょっと。一人で勝手に話進めないでよ」
「俺が体術、お前が忍術でに修行をつけてやり、いかにを成長させられるかで勝負だ!」
「ちょ、ガイ上忍!」

暴走するガイを止めようとするが、慣れているのかカカシは手元の本から目を離さないまま。

「悪いけど、負ける気がしないね」
「カカシ先生?!」

まさかのカカシも乗り気のようで、横目でジロリとガイのことを睨みつけた。

「負けたらどうする?」
「そうだな、今度の上忍試験の試験官を代わろう!」
「よし、のった」
「え?え?」

訳の分からないまま、いや、ただカカシは試験官を代わりたいことだけは分かるが、目の前の二人が契約成立の握手を交わしたのちガイが突然立ち上がった。

「よし、先手必勝だ!いまから演習場へ行くぞ!青春フルパワーだ!」

と、全力で走り去っていってしまった。

その後の話だが、すぐにガイの元に任務依頼が舞い込み、修行をつけることなく任務に就くこととなった。
悲しいことにその任務でガイは負傷。
暫くは病院生活を強いられる形となり、カカシとの勝負は一旦白紙へ。
しかし迫りくる上忍試験は紛れもなく来るわけで、見かねたカカシが引き続き体術と、新たに忍術の修行をつけることとなった。

「そんなことある?」

怒涛の流れにさすがのも自嘲気味にフフッと笑いがこみ上げる。
ひとまず入院中のガイに最上級の果物セットを贈り、はカカシとの修行の日々を過ごすこととなった。


もちろんへの通常任務の依頼もあり、修行の合間に任務に出かけることもあった。
しかし以前とは比べ物にならないくらい実力を上げているに、任務が一緒になったものは口を揃えて「上忍試験は間違いなく受かるだろう」と言っていた。

「カカシ先生!修行終わりに飲みに行きませんか?」
「いいね。ちょうど行きたかった店があるのよ」

何ヶ月も修行を見てもらううちに、昔からは考えられないような会話も自然と出来る様になってきた。
酒を酌み交わしては他愛もない話に花を咲かせ、時には真面目な話だったり冗談を言い合ったり、側から見ても二人の関係は良好だった。


「試験まであと一ヶ月かぁ」

時は流れ、ついに上忍試験が目前まで迫ってきていた。
カカシの教えのおかげでメキメキと成長したはむしろ待ち遠しく、修行の成果としてカカシに早く恩返しをしたかった。

そんなある日、諜報任務がの元に舞い込んできた。
期間は二週間ほどで、日頃受けている任務とそう変わりがないと思っていた。
しかし任務受付書を貰うと同時に火影に呼び出された。


諜報任務に出かけるまでまだ二日ほど猶予があり、いつものようにカカシと共に演習場で修行を重ねていた。

「どうした?」

明らかに動きが違うのに気づいたカカシが尋ねるも、すみません、と謝ることしかできなかった。

「今日はここまでにしよう。明後日から中期任務なんでしょ」
「そうですね。二週間くらいで帰ってくると思います。・・・そしたらまた修行つけてくれますか?」
「あぁ、勿論」

演習場を後にした二人はそのまま別れようとしたが、の方から飲みに行かないか、とカカシを誘った。

「今までのお礼に盛大に奢らせてください!」
「受かってから言ってほしいんだけどねぇ」
「万が一のこともありますからね・・・」
「その時は俺とガイでのことを滅多打ちにしに行くよ」
「アハハ!こわーい!」

ケラケラと笑いながらぐいぐい酒を飲み進めていくは、修行の疲れも相まってあっという間に酔いが回った。
目の前はグルグル、身体中が熱くて頭の中がふわふわと揺れる。

「カカシせんせ」
「なに?」
「・・・カカシ先生、あのね」

自然と口元が緩みヘラヘラと笑みを浮かべながらすっかり据わった目でカカシを見つめると、呆れたようにの方を振り返った。

「カカシ先生、抱いてくれませんか?」

の言葉にカカシの眠たそうな目が驚いたようにほんの少しだけ見開かれた。




目の前でキラキラと揺れるカカシの髪の毛に見入っていた。

「カ、カシせんせ・・・!あッ、イ、く・・・!あっ、あぁ!」
「くッ・・・」

生まれたままの姿で絡み合って、生き急ぐような吐息が部屋を圧迫する。
熱のこもっていない瞳と、合わされることのない唇。
身体だけを交わらせて、その近さに比例するように心の距離が離れていく。
体が揺さぶられるたびに心が割れていく音がした。






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