あーだこーだとありまして、それぞれ今の家から二人が一緒に住む家へと引っ越すことが決まった。

「カカシさん、わたしソファは絶対持っていきたい!」
「ベッドとかどうしようかな」
「お揃いの食器とか買っていいですか?キャー!」
「いっそのこと新しいの買うべきか・・・家具屋でも行くか」

本日、カカシの家にて。
ダイニングテーブルに向かい合って座り、机の上に置いた新しい家の見取り図を睨みつけるカカシと、舞い上がったままなにも考えていない

はあの家でよかったの?ちゃんと見てなかったけど」
「フフフ、カカシさんが選んだおうちなら、わたしはどんな家でも大好きになりますよ」
「後悔しても知らないよ」

なんて言いつつもカカシがその家を選んだ条件の最優先は、いかにが喜びそうな家か、だった。
流石に真正面からは言えないが。

「だって南向きのおうちで風通しもよさそうだし、それにお庭もあるし、なによりカカシさんがいるし」
「そりゃ・・・よかったね」

ハートマークが見えそうなの言い方に、さすがのカカシも気恥ずかしくなり、その顔を隠すように俯いた。
よくもまあそんな恥ずかしいことをスラスラ言えるもんだ。

「ま、まあとにかく。引っ越しの準備は進めてる?もう一か月切ったけど」
「・・・・じゅん、び?」

もちろんしているであろうことを尋ねるも、想定外にもはぽかんとした表情を浮かべていた。

「まさかなにもしてないの?あんなに物が多いのに?」
「カ、カカシさんだってなにもしてないじゃないですかあ!」

慌てては辺りを見渡し、あれとかあれとか!と指さし始めた。

「あの本棚の本だって・・・ってあれ?!ない!」
「もうしまったよ」
「あれ?!あ、お皿もない!あれ、まさか・・・!」

ダダダッとクローゼットに走ったはガバッと扉を開け、その中のがらんとした様子に愕然とした。

「えええ・・・・は、早すぎません?!だってお洋服とか、まだ着ますよね?!」
「あのねぇ、俺もお前も任務とか入ってるんだからやれる日に荷物まとめておかないと。後で泣きつかれても知らないからね」
「う・・・わたし今日は帰ろうかな・・・」

ただでさえ物が少ないカカシの家なのに既にここまで荷物がまとめられていて、一方ごちゃごちゃとしてる我が家を思い浮かべてぞっとした。
あれらを箱に詰めるとなると何日かかるのだろうか。

「じゃあ俺は家具屋でも行こうかな」
「えっ!わたしも行くー!」
「あぁそう?じゃあベッドとかいろいろ決めようか」
「わーい!」

さっき思い浮かべた我が家がポーンっと吹き飛び、『二人で決める家具』にがっしり埋め尽くされた。




そして引っ越し一週間前。

「これは〜・・・割とまずいのでは?」

ポツリ自宅にて呟いた。
その手には明日から5日間の里外滞在任務の受付表。
そして目の前にはあちらこちらに物が置いてある、なに一つ変化のない我が家。

「・・・なんでわたしは・・・この数週間わたしはなにをしてたんだ・・・」

我ながら自分のふがいなさに悲しみに暮れる。
あれほど忠告されていたのに、明日やろう明日やろうと思っているうちにもう締め切りは目前まで迫ってきていた。
しかし幸いまだお昼前。
明日の出発まで約24時間ある。
それまでになんとしてでも荷物をまとめなければならない。

「えい」

とりあえず目の前のソファに置いていたクッションを段ボールの中へヒョイと入れた。

「あああ・・・先が長い・・・」

さっそく心が折れそうになったところに、ピンポーンと玄関チャイムが慣らされた。

「は、はーい!」

慌てて玄関ドアを開けると、そこにはコンビニの袋を持ったカカシが来ていた。

「あ・・・」

カカシを見た途端、そっとドアを閉じた。

「ま、まずい、こんな状態を見られたら本当に怒られる・・・」

もはや逃げられない状況にガタガタと背筋が震える。
するとギギギとドアが開く不吉な音が聞こえてきた。

・・・入るね」
「あ・・・ああ・・・」

ズルズルと後ずさりするも、その分カカシは距離を詰めてくる。

「明日から任務って聞いたから会いに来たんだけど、まさか、まだ、荷造り終わってない訳、ないよね?」
「ひ・・・・」

笑顔の圧力が半端ない。
これが上忍の実力か、なんて言ってる場合じゃない。

背後に広がる何ひとつ変わっていない様子をどうにか隠そうとするも、の小さい身長ではなに一つ隠すことができない。

「どうすんの、これ」
「い、いまから片づけます」
「一人で?今から?全部?間に合うの?」
「あう・・・・」

カカシの容赦ない質問責めにダラダラと冷や汗が止まらない。

「・・・ま、分かってたよ」
「え?」
「おれも手伝うから。さっさと片づけよう」
「カカシさーん!!」

ダッと走り寄ってカカシに抱き着こうとするも、ムギュッと額を押さえつけられた。

「はいはい、あとでね。始めるよ」
「うっ・・・はい」

諦めてしぶしぶ離れると、カカシが持ってきていたコンビニの袋をヒョイっとに放り投げた。

「あ、軍手とビニールテープ・・・」
「どうせないんでしょ?買ってきといた」
「さすがカカシさんです・・・」

おっしゃる通り段ボールだけはあるものの、軍手もテープもない我が家。
とりあえず貰った軍手を身に着けて、もカカシも一斉に作業に取り掛かった。

カカシは分かりやすい本棚とクローゼットに向かい、は台所で食器や細かいものを片付け始めた。
二人で黙々と作業に没頭できたおかげで順調に事は進み、すっかり空になったクローゼットの奥に置かれている箱に気が付いた。

「・・・ん?なんだ、これ」
「あっ、あー!その箱は!!」

慌てて駆け寄ってくるを待たずにパカッとふたを開けた。

「なにこれ?」

そういってカカシがつまみ上げたのは小さく結ばれた白い紙。

「それ、カカシさんとカフェに行ったときにカカシさんがいじってたストローの紙!」
「え・・・」
「それはカカシさんが初めて家に来た時の空気が入ったビニール!」
「・・・・」
「それは初めて一緒にお泊りした時のカカシさんの───」
「捨てろー!」

まだ奥底に色々とあったがどさっと箱ごと『不要なもの入れ』に投げ入れた。

「あー!わたしの思い出ボックスー!」

慌ててそれを拾い上げたは大事に抱きかかえた。

「いやいや、待てよ、それはさすがにヤバいんじゃないか?」
「でも・・・お宝です・・・」

しょんぼりとした顔をしたはそっと箱を開けて中を覗き込んだ。

「カカシさんから見てみればガラクタかもしれないですけど」
「ガラクタというよりストーカーセットなんですけど」
「わたしにとっては一つ一つ思い出の詰まった宝物なんです」

大事に箱を抱きかかえながらへへ、と嬉しそうに笑うにハァとため息をつきながらようやく諦めがついたカカシ。
そんな顔をされたらこれ以上なにも言えなかった。

「気持ちはわかるけどさ・・・まあこれからはそんな箱にしまい込めないくらいたくさん思い出ができるよ」
「ふふ、そうですね」

だからその箱は捨てよう、と手を伸ばしたがその前に『持っていく箱』の奥底に瞬時にしまい込んだ
こんな時だけ動きが上忍のそれだった。

「それに、これはカカシさんがいないときにひっそりと見るのが堪らんのです」

いたずらっ子のようにウヒ、と笑ったはそのままピューッと台所へ戻っていってしまった。

「・・・ったく」

呆れた口調とは裏腹に思わず笑みもこぼれてしまい、箱を取り出すこともなく再び荷物を詰め始めた。


そこから数時間、すっかり見違えるほど片付いてきた。

「これくらい片づけておけばあとは最後の一日だけで片付くんじゃないの」
「そうですね!カカシさんありがとう〜!」
「いーえ」

段ボールの山に囲まれながら、ようやく二人はソファに腰かけた。

「コーヒーを淹れたいんですけど、残念ながらもう段ボールの中なので、すみません」
「ありがとう、お構いなく。明日の任務は何時から?」
「えと、昼過ぎ!」

ソファの片隅に置いている任務受付表を手に取って、改めて時間を確認。

「お腹すいたね。どっか食べ行く?」
「あ、冷蔵庫に残ってるのを処理したいな。それにここで食べるのも最後になりそうだし」
「あぁ、なるほどね」
「えっとーなに残ってたかな」

ソファから立ち上がって台所へ向かうを見ていたカカシは、なんとなく初めてこの家に来たことを思い出していた。

最初の出会い・・・というより深く関わったのはアカデミーで行った演劇が最初だった。
仲間同士で飲みに行った帰り、酔いつぶれたを介抱したのがつい最近のようだ。

身体は小さいし、やること言うことも子供っぽく、今も冷蔵庫をのぞき込む後ろ姿には犬のしっぽが生えていてぶんぶんと振っているように見える。

「カカシさん、お肉あるから焼肉にしよ!」
「アハハ、いいね」
「?」

肉を片手に嬉しそうに振り返ったを見て、まるでそのまま「ワン!」と言いそうな姿に思わず笑ってしまった。

「でもちょっと休憩。カカシさん、明日は?」
「明日は休みだけど、あさってから任務」
「そっかぁ」

再びソファに戻ってカカシの隣に座ったは頭をポン、とカカシの肩に置いた。

「んー、落ち着く」
「俺はこっちのがいい」
「ん?」

腕を伸ばしての肩を抱き寄せれば、嬉しそうな顔をしてカカシのことを見上げた。
腕の中にすっぽりと収まるようなサイズ感が心地よく、肩を抱いた手で優しくの頭を撫でた。

「へへ、私もこっちのがいい」
「でしょ」

しばらく二人で身を寄せ合って、周りを囲む段ボールを見てぽつりとつぶやいた。

「カカシさんとここで過ごした思い出も一緒に持っていきたいな」
「・・・そんなの、入りきらないよ」
「思い出ボックスにはたくさん入ってますけどね」

少しアンニュイな気持ちになっていたカカシだったが、イヒヒと笑ったにそんな気持ちも吹き飛んだ。

「俺も最後の片づけしておかないと」
「手伝いに行きましょうか?」
「余計に散らかりそうだからお断りしておく」
「えー、ひどいなぁ」

クスクス笑いあったあと、心地のいい静けさが二人を包む。
なんとなくカカシの方を見上げたら、同じようになんとなくの方に顔を向けたカカシ。
静かな部屋の中で着ている服の音が擦れる音がして、二人はそっと口づけた。

「新しい家、楽しみだね」
「うん、楽しみ」

おでこがくっつくくらい顔を寄せ合い、クスクスと嬉しそうに笑うに再び口づけた。

「ん・・・・」

口づけながらそのままソファに押し倒した瞬間、ぐぅ〜、とのお腹が鳴り響いた。

「・・・フッ」
「聞こえました?」
「ばっちり」

あまりにもムードをぶち壊す音に思わず我慢できず笑ってしまい、は恥ずかしそうに「だって〜・・・」と顔を覆った。

「ずっと動いてたからね。飯にしようか」
「はい・・・」

覆いかぶさっていた身体を起こし、顔を覆ったままのも抱き起した。

「食べ終わったらこの家の最後の思い出作ろうか」
「・・・・・?」

耳元で囁いた後、どうやらピンと来ていないをそのままにカカシは先に台所へ向かった。

カカシにとってもこの家は思い出の詰まった大切な場所。
最後の最後まで大事な思い出が増やせるように、思い出は心の中に全部しまって持っていけるように。

「思い出ボックスしまっちゃった!」

後ろでハッとした声を上げるにまたしても笑ってしまう。

「そんなのいらないから、早くこっちおいで」

美味しいご飯を一緒に食べて、これからの話をしながら今までの話もしよう。
二人分の思い出を、二人で一緒に持っていけるように。











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