カカシが入院して数日後、退院が決まった。
ヒビが入った肋骨も医療忍術であっけなくくっつけられ、あとは安静の日々。
カカシの入院は今に始まったことではなく特別見舞いに来る者もそうそうおらず、自身も任務が続き、あの日以来、顔を合せなかった。

───「おれも好きだよ」

そう告げたあと、は顔を真っ赤にして大粒の涙をポロポロと瞳から溢れさせた。
その涙はなかなか止まらず、喋れないほどは嗚咽を漏らし、
ひたすら泣き続けた上に「帰ります」となんとか発し、ヨボヨボになりながら病室から出て行ってしまったのだった。


昼過ぎに退屈な病院生活に別れを告げ、病院から出たところでぐぐ、と背伸びをした。

「カ、カカシ上忍!」

家に帰ろうと歩き出したところで背後から声がかけられた。
振り向かなくとも誰だか分かる。
あの別れ際ということもあって、何となく振り返るのに躊躇している間にその声の主が近づいてきて、心の準備も出来ていないのに目の前に現れた。

「こ、こん、にちは」

顔を真っ赤にして目を泳がせているを見た瞬間に自然と笑いがこみ上げてきた。
心配なんて必要なかったみたいだ。

「お迎えご苦労」

ポン、と軽く頭を撫でクスクス笑いながら先に歩いた。

「あ、に、荷物!荷物もちます!」
「荷物なんてないよ」
「あ、えと、じゃあ、お供します!」

慌ててカカシの横について歩き、モジモジと地面を見たりカカシの方を見たりあちらを見たりこちらを見たり。
落ち着きのない行動は相変わらずで、己の感情に気付いてからはイラつくことは無くなったものの、顔を真っ赤にしたままそんなあちらこちら顔を動かしたら貧血になるんじゃないかと心配になるほど。

「なに、どうしたの」
「えっ、あの・・・、その、こうやってカカシ上忍と一緒に歩けるなんて、緊張しちゃって・・・!」
「は?」
「こんな・・・だって・・・まるで・・・」

なにか言いたげにカカシの方を振り向いたものの、目があった瞬間に恥ずかしそうにすぐに顔を逸らしてしまった。

「まるで、なに?」
「まるで・・・その、と、と、友達みたいで!!」

自分で言って自分で照れてるを横に、言うに事を欠いて友達か、と思わずガクッとよろけそうになってしまった。

一緒に歩けて友達?
ちょっと待て、その前にそれ以上のことから始まっているはずだ。
それらを忘れたとは言わせない、となぜかカカシの方がイラつきを覚え、モジモジしながら歩いているの方を見つめた。

「あのねぇ、一緒に歩くくらい慣れてちょうだいよ。おれの恋人なんだから」
「こっ・・・!!」

核心にふれた発言には一言発してその場でピキッと固まってしまった。
言葉で言っても伝わらないかもしれないと、カカシも立ち止まっての頬に手を宛がい無理やりカカシの方を向かせた。

「おれはの、なに?」
「えっあ、あの・・・!」

言葉が無理ならばと口布を下ろし、いまだ騒いでいるの唇に口づけようと顔を近寄せた。

「カカシー!」

タイミングがいいのか悪いのか、唇が触れ合う寸前に遠くから声がかけられては慌ててカカシから飛びのいた。

「あー、ほら。今日が退院だったでしょ」
「あれ?もいたのね」
「先輩!ゲンマさん!」

いつぞやか一緒に飲んだくノ一とゲンマが揃って手を振っていた。

「よっす。カカシさんのところ見舞いに行こうしたら偶然会っちゃって」
「ゲンマから聞いてたからさぁ。でももう退院だったのね!具合は?もういいの?」
「おかげさんで。わざわざ悪いね」
「・・・・・」

三人の少し後ろではなんとか表情を取り繕ってはいるがまだ顔を赤くしたまま固まっていた。
もちろんそれを見逃すわけもなく。

ー、あんた行くならわたしにも声かけてくれても良かったじゃない」
「す、すみません」
「そうだよ。オレもと一緒に見舞いに行きたかったぜ」
「バカねー、あんたなに言ってんのよ」

ガヤガヤした状況にようやくもほぐれてきたのかクスクスと笑っていた。

「よし、せっかく揃ったんだし、カカシさんの快気祝いに飯でも行くかー」
「いいわね、賛成〜」

そう言ってゲンマとくノ一が並んで先に歩きだし、その後ろを再びカカシとが並んでついて行った。

「ねーどこ行くの?」
「オレのおすすめの定食屋。あの本屋の角にあるの知ってる?」
「あ、知ってる!そこ何かの取材に載ってたのよね!」
「そこの煮物が旨いんだよ」
「あんたって嗜好がジジくさいわよね」

なんて前を歩く二人が延々と話しているのを聞きながら、カカシともその後ろをついて歩いていた。

「カカシ上忍は、えと、好きな食べ物とかあるんですか?」
「焼き魚とかかな。さんまの塩焼き、とかね。は?」
「私は・・・まぁまぁ、それよりもっとカカシ上忍のことを知りたいです」
「・・・おれはのことが知りたい」
「!」

隣を歩くの手を取り、指を絡めて手を繋いだ。
驚いてピンと伸ばしたままのの指だったが、ゆっくりと、触れたらまた離れたりを繰り返しながらようやく握り返してくれた。

耳の先まで真っ赤にして、もちろんカカシの方を振り向ける訳もなく会話も出来ず、それでも蚊の鳴くような小さな声で

「嬉しくて、倒れちゃいそう」

と囁いたのをカカシは聞き逃さなかった。

「・・・悪い、飯はまた今度にしよう」

前を歩く二人にそう声をかけ、二人が振り返る前にカカシはと共に瞬身で姿を消した。



二人が姿を姿を現したのはカカシの家の前だった。

「あ・・・ここ・・・」

放心状態のの手を引っ張りながら玄関のドアを開け、中に入ったと同時にに口づけた。

「!」

驚いて目を見開くを抱き締め、気付いたら玄関ドアに押し倒しながら何度も口づけていた。

「ん、は、ぁ・・・」

ようやく顔を離すとの口から吐息が漏れた。

「・・・ごめん、我慢できなくて」
「あ、い、いえ・・・」
「お茶でも出すよ。あがって」

とろけた表情のに危うく理性を吹き飛ばしそうになったもののなんとか堪え、靴を脱いで先に家に上がった。

「おじゃま、します」

カカシの後について家に上がったをソファへ案内し、その間に冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出した。

「ごめん、これしかないや」

お茶でも、と言った割にお茶の用意もなく色気のない水をソファの前のテーブルに二つ並べ、カカシもの隣に座った。

「・・・・・」
「・・・・・」

妙な沈黙が続き、が緊張したようにソファを強く握りしめているのに気が付いた。
その手を上からそっと握りしめると、の方から手を動かし手のひらを重ね合わせることができた。
無言のまま手を繋ぎ、の手からドキドキと鼓動が聞こえてくるようだった。
そんなを見ているとカカシもつられて鼓動が激しくなり、なにか心のうちが激しく騒ぎだす。

ふとの方を振り返れば、同じようにもカカシの方を仰ぎ見て、顔を真っ赤にしながらもキラキラとした瞳に吸い込まれるように口づけた。

「カカシ上忍・・・好き、です・・・」
「知ってる」

コツン、と額を合わせクスクス笑うと、ドキドキと熱のこもった目を向けるの頬を撫でた。

「そんな分かりやすい顔しないでよ」
「え?」
「おいで」

繋いだ手を引っ張るように立ち上がり、すぐ近くのベッドにドサッと押し倒しカカシもその上から覆いかぶさった。

「おれも人のこと言えないけどさ」
「ん・・・ッ・・・」

なにか言いたげなを妨げるように口づけ、唇の隙間から舌をさし込むとの方から舌を絡ませた。
そのまま深くなる口づけの合間にの着ている服を脱がせ、下着の隙間から手のひらをさし入れてふくらみに触れ、すでに主張している胸の先端を愛撫するように摘まんだ。

「んっ・・・!」

指先を動かすたびにの肩がビクビク震え、合わせた唇の合間からの甘い吐息が漏れる。
もう片方の手で器用に下着のホックを外してグイっとずらし、唇から口を離し露わになったもう片方の乳房に舌を這わせた。

「ひぁっ!あ・・・カカシ上忍・・・!」

からしてみれば舌が這う感覚と指で摘ままれる感覚にゾクゾクと背筋が震え、
すでに何度もその先の快楽を知ってしまっている身体は強請るように火照って堪らない。
そんなの身体を刺激するようにカカシの大きな手が這い、その熱にすら体が反応して頭の中がどんどん真っ白に埋まっていく。
ふと気が付いた時にはズボンも脱がされていてそんな恰好でカカシが覆いかぶさっている。

「あ・・・」

我に返った瞬間に突然恥ずかしくなり、無意識のうちに身体を這うカカシの腕を掴んでしまった。

「? なに」
「や、あの・・・なんか、すごい、恥ずかしくて・・・」
「今さらなに言ってんの」
「んむっ」

ふっ、と涼しげに笑って見せたカカシの顔が近づいたと思えば口づけられていて、みるみるうちに下着もなにもかもが脱がされてしまった。

「あーあ、恥ずかしい恰好」
「ちょ、や・・・!」

慌ててなんとか腕で身体を隠そうとするも、それがかえってカカシにとって煽情的だとはもつゆ知らず。

「・・・生意気」
「え?」

そんなを前に自分も上に着ていたものをようやく脱ぎ、興奮して汗ばんだ額を拭うように前髪をかきあげた。
そのあまりにも官能的な姿に目を奪われてるをいいことに、身をよじるように閉じられた脚を掴みグイっとその間に頭を伏せた。

「えっ!あ!ちょ、カカシじょうに・・・ッ!」

の慌てた声を無視して、すでに甘い蜜が溢れかえって熱をもったそこへ舌を這わせた。

「ま、待って!あっ、や、そんなとこ・・・!」

口に手を当てて声を上げるにあえて見せつけるように、硬く主張している部分を舌先で刺激し、その隙に指も中へ挿し入れて膣内をなぞるように指を動かした。
舌と指が動くたびに卑猥な音が響き、の口からは甘い声がとめどなくあふれ出る。

「あ、んっ、ダメ、や、あっ、あ・・・ッ!!」

中を弄る指をきつく締め付けはビクンと身体を反らして絶頂を迎えた。

「は、あ・・・はぁ・・・」

顔を離し、弛緩したの姿を眺めながらニヤッと笑って見せながら口を拭った。
さっきまで恥ずかしいと身体をよじらせていたにも関わらず、今では口を半開きにしてとろけた表情でカカシを見つめる姿は視覚で煽るのに十分すぎるほどだった。
ズボンを下ろし窮屈そうに圧迫されていた自身を取り出すと、の熱い視線が突き刺さるようで、その視線がカカシの瞳を捉えたときにはカカシの理性はプツリと切れた。



はぁ、とあつい吐息と共にカカシを見つめるの頭の横に手をつき、お互い見つめ合いながらの中へ自身を埋め込んだ。

「ん、あ・・・あぁ・・・!」
「キツ・・・」

ずぶずぶと奥へ沈んでいくにつれ表情が歪んでいくに煽られてますますその奥を目指してしまう。

「カ、カシ上忍・・・」

両腕を伸ばしカカシを引き寄せたが口づけた。
身体を繋ぎ合わせてまるでお互いが溶け合って一つになってしまいそうで、じわじわと頭の中がとけていく。

「ん・・・あっ、ん・・・!」

堪らず腰を動かせば、途端には切なげな表情を浮かべ口を抑えた。
が、すぐにその手を取り指を絡ませてベッドに押さえつけると、堪えきれないの甘い声があふれ出る。

「声聞かせてよ」

耳元で囁いて、そのまま首元にきつく口づけて赤い印をつけた。
の甘い声とカカシを締め付けてくる中の蠢きにゾクゾクと背筋が震える。
初めて抱いたわけでもないのに、肌を合わせれば合わせるほど身体がを求める気持ちが止まらない。
目の前で瞳を潤わせて、同じようにカカシを求めているに身体の奥からこみ上げてくるもの、それはいわゆる・・・。

「カカ上忍、幸せです・・・」
「・・・・・」
「幸せすぎてとけちゃいそう」
「いまおれも・・・同じこと思ってた」

泣きそうな表情のに口づけて、その先を目指すように腰を突き上げた。

「好きだよ、
「好き・・・わたしも、好き・・・!」

うわごとのように愛を囁き、名前を呼び合い、唇を合わせながら二人はとけあうように果てを迎えた。



「病み上がりなのに・・・大丈夫だったんですか?」
「上忍なめないでちょうだいよ」

しばらくしてベッドの中でまどろむ二人。
思い出したかのようにカカシの体調を気遣うにクスクス笑いながらその身体を抱き寄せた。
もカカシの腕の中で幸せそうに微笑み身体を預けた。

「そういえば聞きたかったんだけど、あのあとどうなったの?」
「あのあとって・・・あの任務のことですよね」
「まさかがおれを担いで帰ったわけじゃないでしょ」
「まぁ、ハイ・・・」

途端に気まずそうに顔をそむけるの頬を掴みグイっと正面に向けた。

「報告」
「う・・・ハイ・・・」

むにっと掴まれた頬のまま、はぽつぽつと話し始めた。



*     *     *     *


「なん・・・なんだよ・・・」
「カカシ上忍!」

時は、ターゲットが文字通り砕け散り、不気味な宝珠を持ったままカカシが倒れた頃に遡る。

「カカシ上忍、しっかり」
「う・・・」

大きな体を抱きかかえようとすると苦しそうな表情と呻き声をあげるカカシに思わず立ち往生してしまう。

「待て、無理に動かすな。骨が刺さるぞ」
「あ・・・」

同じようにけがを負っているパックンとアキノが近寄り、ペタペタと肉球でカカシの身体に触れてうむ、と唸った。

「まだブルがいれば運べたが・・・。拙者たちには無理だ」
「あ、あの・・・ど、どうしましょう・・・わたしが急いで里に戻って、応援を・・・」
「まあ落ち着け。アキノ、ここに呼んで来い」
「わかった」
「え・・・?」

オロオロしているを置いてアキノだけ洞窟の外へ駆け出した。

「お前も変なのに好かれたな」
「え?ど、どういう・・・」

どういうこと、と聞こうとした瞬間、アキノが戻ってくる音と誰かが一緒に歩いてくる音が聞こえてきた。

「あ・・・!」
「よう。お困りだって?」

キザなポーズで登場したのは少し土埃で汚れたゲンマだった。

「オレも近くで任務だったんだよ。せっかくだからと合流できっかなと思って来てみたけど、こんな面倒ごとだとはよ」
「ゲンマさん・・・!」
「まぁ、任せなさいよ」

口にくわえた千本をリズミカルに揺らしながらの元へ歩み寄りニヤッと笑った。


*    *    *    *    *



「というわけでゲンマさんに助けられました」
「・・・・・」

チラリとカカシの顔を覗き見れば、明らかにムスッと不満げな表情。

「で、でもおかげで里に戻れて!あの、どうしようもできなくて」
「待って、まさかおれゲンマに担がれたの?」
「いや、まー、そのー・・・ハイ」

ゲンマの荷物をが抱え、代わりにゲンマがカカシを背負った。
そして二人を護衛するようにパックンたちが付いてきてくれて病院まで戻れたという顛末だった。

「かっこ悪いなーおれ」
「そんなことないです!カカシ上忍はいつもカッコいいです!」
「ハイハイ」

のいつもの言葉を軽く受け流すも、担がれている姿を想像するにかなり悲しい光景が浮かぶ。
とはいえ助けられたには変わりなく、今度会った時になにかお礼をしなきゃな、と独り言ちた。

「ところで・・・ゲンマとは何もなかったの?」
「え?」
「どっかの誰かさんは首元にキスマークつけて会いに来るような人ですからねぇ」
「あ、あれは!その・・・不可抗力で!何もなかったんです!」
「ふぅん」

考えてみればあの時からに対して得も言われぬ独占欲を持っていた。
ゲンマにつけられたキスマークを見て逆上したのは事実だし、その時に感じたピリッとした痛みが今でも心のどこかで引きずっている。

「わたしは!あの・・・、わたしは最初からカカシ上忍のものです!だから、絶対にカカシ上忍以外とは何も起きません!」
「・・・!」

しっかりとカカシの目を見て言うを前に思わず圧倒されたあと、その勢いに思わず笑みがこぼれてしまった。

「ごめんね。・・・ありがとう」

言葉とは不思議なもので、本人にそう言われただけで心の中のわだかまりが消えていくようだった。

「じゃあ最後に一つだけ」
「?」
「おれはの、なに?」

病院の前でに聞いた言葉を再び尋ねた。
するとはすぐに顔を赤くして、それでもしっかりカカシのことを見つめて口を開いた。

「カカシ上忍は・・・わたしのものです」

真っ赤な顔でそう告げたは我慢の限界から顔を伏せてしまった。
それでもの頬を包み上を向かせて、口づけを交わしたあと二人はクスクス笑った。




後日、いつぞやかの居酒屋にいつもの四人が集まり、
二人が結ばれたことを告げると同時にゲンマもくノ一と結ばれたことを知って四人はドッと笑い声をあげた。






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