あれから身体を交わらせたあと、ベッドの上で居心地の悪い朝を迎えた二人はまた夜に、とロクな会話もせずに分かれた。 いまだの名残が残るベッドを眺め、バリバリと頭をかいてシャワーを浴びに浴室に向かった。 「昨日・・・・」 熱いシャワーを頭からかぶりながら、ボーっと昨夜のことを思い返す。 「相当・・・・いや、そんなことないか・・・」 意味深なことを呟きながら目の前の自分がうつる鏡にゴツンと思い切り頭をぶつけた。 「ハァ・・・・バカげてる」 昨日の自分の言ったことははっきりと覚えてる。 酒に酔っていた、なんて言い訳のできないほどに。 「さて。行こうか」 「はい」 再び顔を合わせたときは、すでに月すらも沈み始めた丑の刻。 ソワソワとカカシのうしろについて歩くの気配を感じながらあんの門から里を出た。 『打ち合わせ』をした甲斐あってか順調に歩みを進め、早朝にはターゲットが身をひそめているという谷に足を踏み入れていた。 「ここからは慎重に行くぞ」 「ハイ」 ピリッと鋭い視線を後ろに向けると、は少し強張った表情で頷いた。 谷底とはいえ木々が生い茂る森の中、太陽がさんさんと輝いて小鳥がさえずる爽やかな朝だとしても、ターゲットがこちらに気が付けばそこはすぐに戦場へとなり替わる。 「まずは敵のアジトを見つける。ここからは別れて捜索しよう」 カリっと親指を噛み地面に手を宛がうと、ボンっと煙と共に八忍犬が表れた。 「アキノを連れて行かせるからなにかあったらまずは知らせてくれ。勝手な行動はしないように。お前たちも頼んだよ」 「了解」 の返事と忍犬たちの頷きを確認したカカシも小さく頷いた。 「散!」 片腕を高く上げたタイミングで全方向へそれぞれ散り散りになった。 「カカシ。さっきの、大丈夫か?」 「なにが?」 カカシと共に行動するのは相棒のパックン。 渋い顔をカカシに向けてこれまた渋い声で唸った。 「中忍なんだろ?アキノがいるとは言え・・・」 「ま、実力はあるだろうから」 「・・・そうか」 意味ありげな間をおいて返事を返したパックンは小さな体を大きく跳ねさせてカカシの少し前へ駆け出した。 不審な匂いや音を頼りに捜索するも、めぼしい頼りがないためにただ体力を消費していく。 どうやら他のメンバーも同様なのか、いまだ発見の合図もなく。 「パックン、座標から離れすぎだ。一度戻ろう」 「あぁ、そうだな」 目標域から少し遠ざかってしまったいま、踵を返して再び捜索に入る。 すると突然、さっきまで先を走っていたパックンが足を止めた。 「どうした?」 「カカシ、耳を澄ませろ」 「?」 言われるがまま神経を尖らせると、遠くから聞き覚えのある遠吠えが微かに聞こえた。 「聞こえたか?」 「あぁ、アキノだ」 と行動を共にしているアキノの声が、木々のざわめきの合間を縫って二人の耳に入った。 「目標を発見したか・・・」 「何かがあったか、だな」 少し怪訝そうな表情を浮かべたパックンが、声が聞こえた方へ体を向け駆け出した。 カカシもそのあとを追って行くと、明らかに隠れ家にしているであろう洞窟の入り口を現した。 「ここだ。あいつの匂いが微かだが残っている」 「俺が見てくる。パックンはここで他の子たちと合流して、待機しててちょうだい」 「わかった」 岩陰に身を潜めつつ、暗闇の奥へとカカシは単身で進んでいった。 「・・・・」 耳を澄ますと、遠くの方で金属同士がぶつかる音が聞こえる。 ゆっくりしてる場合じゃないな、と足音を立てず抜き足で洞窟の奥へ駆けて行くと、中から話し声と明かりが漏れている部屋にたどり着いた。 身を潜めつつ中の様子を伺うと、クナイを構えているとその傍に警戒態勢でいるアキノがいた。 なぜか二人は虚空に向かって身構えており、カカシの目からは敵の姿が見つけられない。 「!」 次の瞬間、の体が横へ吹っ飛び派手な音と共に壁へとぶつかった。 慌ててアキノがの元へ駆けようとするも、見えざる何者かの気配を感じたのか足を止めた。 「アキノ!」 「カカシ!」 何が起きているのか理解できないままバッと飛び出すと、どこからか「・・・ひとまず撤退だ」と唸るような声が聞こえた。 「カカシ!避けろ!」 「・・・ッ!」 アキノに言われるがまま横へ大きく飛びのくと、さっきまでカカシがいた地面がガリッと刀で削ったように大きくえぐれ、見えない何かはそのまま部屋から出ていったようだった。 「!」 壁面に投げ飛ばされたの元へ行くと、頭と口の端から血を流したが意識を失って床に倒れていた。 「クソ・・・」 怪我の様子を診て急いで医療パックを取り出し止血作業を施した。 安静のため横たわらせると、近くで様子を見ていたアキノが傍に近づいてきた。 「カカシ・・・ごめん・・・」 「いや、俺こそすぐに助けに行けなくて悪かった。アキノは大丈夫か?」 「あぁ。アイツが今回のターゲットで間違いないよ。宝珠について話しているところに遭遇したんだ」 「そうか・・・。しかし、姿が見えないとなるとやっかいだな」 「うん。それでなんとか情報を引き出そうとコイツが頑張ったんだけど力の差がありすぎて・・・」 尻尾を下げてそう言うアキノは横たわっているの腕にそっと手を当てた。 「とにかくここを出よう。この状態でまた遭遇したら厄介だ」 の背中と脚の裏に腕を回し抱き上げ、先を歩くアキノの後ろについて足早に洞窟を後にした。 「カカシ!」 「全員集まったか。俺はの回復を待つ。悪いけどみんなは情報収集してきてくれ。どんな些細なことでもいい。ただ、相手は姿を隠す能力があるみたいだ。視覚だけに頼りすぎるな」 「わかった。拙者たちは周囲を捜索してくる。アキノ、向かう間にターゲットの情報を共有してくれ」 パックンを筆頭に八忍犬はその場を離れた。 「俺も離れるか」 さすがにこのエリアで待機するわけにもいかず、を抱きかかえたままカカシは木の上へ飛び、川を挟んで遠く離れた場所へ移動した。 「よし」 再びを降ろし、リュックからマントと巻物を取り出した。 出血して体温を低下させてはならないと上からマントをかけてやった後、バサッと巻物を広げた。 「丑 寅 申・・・・」 印を組み巻物に手をあてがうと、一瞬紫の光に包まれ辺りに結界が張られた。 「こんなもんか」 ようやくカカシも腰を下ろし一息つくと同時に、傍のが「うぅ・・・」と小さく呻き声を上げた。 「ん・・・あ、あれ・・・わたし・・・」 「大丈夫?」 「カカシ上忍!・・・いたっ!」 ガバッと起き上がったはその勢いのまま頭を抑えた。 「だいぶ吹っ飛ばされてたからね。安静にしておいたほうがいいよ」 「・・・はぁ」 「その前に。こっちむいて。まっすぐ」 「?」 言われるがまま顔を向け、まっすぐカカシの方を見た。 「指を目で追って。そう・・・・。大丈夫そうだね。いまパックンたちが情報を集めてくれている。も少し休んだあとでいいから遭遇した敵について教えてちょうだい」 「ハイ。あの・・・すみませんでした・・・」 ぺこりと頭を下げ、申し訳なさそうに眉を八の字に下げていた。 「勝手な行動はしないように言われてましたし、洞窟を見つけた時点で合図を出せばよかったのですが・・・」 「わかってたんだ」 「・・・・・」 「ま、生きててよかったよ。それに・・・」 「カカシ、戻ったぞ」 話の途中にパックンの声が聞こえ、カカシは一部結界を解いて招き入れた。 「おかえり。大丈夫だった?」 「あぁ。とりあえず拙者だけ残ってあとはみんな返したぞ。地図はあるか?」 見るからに疲れているパックンの頭をポン、と嫌味なく撫でてからリュックから巻物を取り出した。 「ここが今の場所。で、ここがさっきの洞窟」 「やはり。アキノの情報を頼りに匂いでおったが、敵のアジトはそこだけではなさそうだ。その場所なんだが・・・」 事細かく説明される得てきた情報を頭の中で整理していく。 時には地図に印をつけ、二人して唸り声をあげては作戦を練る。 「ま、想像してた通り・・・って訳でもないけど」 「ターゲットはすぐに移動する気配はなさそうだ。じゃあ拙者も戻るぞ」 「ありがとう、パックン」 ドロン、と煙を立ててパックンは姿を消した。 「・・・・・」 それから暫くカカシは黙ったまま地図を眺め今後どう動くかを企てていた。 得られた情報を頼りに目標地点に辿り着くまでの所要時間と、移動距離、そしてもし戦闘となった場合の逃げ場、霧隠れの忍特有の忍術の対処法。 「ま、ひとまず明日だな」 ふぅ、とカカシも一息ついて巻物をリュックにしまった。 「・・・・・」 ふと顔を上げるとがじっとこちらを見ていたことに気がついた。 「なに?」 「えっ!あっ・・・!いえ、その・・・いや、なんでもないです」 「・・・なに?」 「いや!いや、なんかその・・・やっぱりカッコいいなって」 「・・・・・・ハァ」 あまりにも呑気すぎる答えにたまらずため息が漏れた。 なにか新しい作戦があるだとか、目撃したターゲットの情報だとか、なにか対策を思いついただとか、何かそういう有益な言葉が返ってくると思いきや。 「ほんとアンタって・・・すごいね。さっきまであんな局面にいたってのに」 「それは・・・アハハ」 「!」 そこでようやく気がついた。 呑気に笑ってるように見えるの手が小さく震えていた。 「・・・・」 「あっ、ご、ごめんなさい!みっともないですよね」 は慌てて手を握りしめ、紛らわすように笑みを浮かべるがどこかぎこちない。 「わたし、まだ中忍で・・・。そんなに場数も踏まずに今回のAランクの任務についてしまって。いいところ見せたかったんですけど、逆に足手まといになっちゃいましたね」 「・・・そんなことないよ」 の近くに坐り直し、安心させるようにそっと肩を抱き寄せた。 手だけでなく、肩も震わせていたのが直接伝わってくる。 呑気に見えたのはただの強がりで、カカシが思っていたよりは怖い思いをしていたようだ。 すぐに気が付いてやれなかったことに気が咎めた。 「悪かったよ」 「え?」 「もっと早く助けに行ければこんな怪我負わずに済んだのに」 「・・・・」 応急処置を施した額の傷にそっと触れた。 運良く額と口の中を切っただけに収まったものの、これがもし腹部や頸部だったらと思うとゾッとする。 「でも、カカシ上忍が助けに来てくれましたから。こんなキズ、へっちゃらです」 「間に合ってなかったらどうするつもりだったの?」 「そんなことは無いです。だって、カカシ上忍ですから」 「・・・なにそれ」 理由になってない理由に思わずフフ、と笑ってしまった。 「でも、少しだけ・・・ごめんなさい・・・」 謝りながらカカシの背中に手を回し、ギュッと抱きついた。 「いいよ、好きなだけ」 ぬぐい切れない不安感と恐怖感をまとわせカタカタと震えている体をそっと抱きしめ優しく頭を撫でた。 「・・・・」 暫くして落ち着いてきたのか震えが収まったのが分かり、手持ち無沙汰にくるくると毛先を弄んだり耳に触れたりしていた。 「カ、カシ上忍・・・」 ふと視線を落とせばの髪の間から見える首や耳まで赤く染まっていて、背中に回された手がぎゅうっと力が込められていることに気が付いた。 がこちらを見上げると肩に羽織っていたマントがハラリと落ちた。 まるでそれが合図かのようにがカカシの背中に手をまわしたままグイっと仰向けに倒れた。 「ちょ・・・」 引っ張られるように体勢を崩したカカシは自然とに覆いかぶさるような態勢となり、鼻の先がくっつきそうな距離で顔を寄せ合い見つめ合った。 「・・・・・・」 真剣なまなざしを向けるに口づけもせず、パチンとベストの前を開けた。 「ん・・・んぁ・・・・!」 「ハ・・・・」 押し殺したような声を上げるに構わず、立ったまま後ろから突き上げた。 敵地から離れて結界を貼っているとはいえ、そんな中で無防備にも身体を交わらせることに背徳感と緊張感が入り交じって脳内マヒに近いさらなる快楽を生む。 「別に声、抑えなくても周りには聞こえないよ」 「で、も・・・ッ!」 身体を支えるように近くの木をつかみ、もう片方の手で自分の口を抑える。 普段だったらこんな状況で誘ってくるくノ一がいたら軽蔑と共に拒絶するが、死を目前にすると子孫を残したくなる人間の理性なのか、それともだからなのか、なんにせよ自分自身も興奮していた。 「あ・・・ん、んんっ・・・!」 縋り付くように木に伸ばした腕にも切り傷を見つけた。 後ろ姿から見える頬やひたいの近くにもいくつもの擦り傷。 「」 「ハ、イ・・・」 涙目でこちらを振り返るの目を見つめ、グイッと上半身を抱き寄せた。 「あっ・・・!」 後ろからその体を抱きしめれば、思っていたよりも小さくて、華奢で、頼りなくて。 「カカシ上忍・・・?」 なにかを察したのか、不思議そうな顔を振り向かせたを思わず見つめてしまう。 応急手当てした額、少し腫れてしまった口の端。 「カ・・・・・」 顎に手をやり、名前を呼ぼうとする口を自身の口で塞いだ。 自分でも訳がわからなかった。 なぜか口付けたくなったのだ。 衝動か、偶発か、犠牲か、正義か、懺悔か。 「は・・・・」 口を離した時、目をまん丸にして呆然とするの頭をワシワシと乱暴に撫で、ニヤッと笑って再び腰を突きあげた。 この感情が何なのか、それはもしかしたら、独占欲の塊なのだろうか。 2<<< Request |