lover8


「ん・・・」

明け方、がふと目を覚ますと目の前にはカカシの寝顔が。

「!」

ちょっと驚いたあと、あぁそうか、と納得した。
そしてそのあとすぐに昨日のことを思い出して一人で顔を赤くした。

目の前に寝ているカカシの顔は本当にきれいで、もしかしたら女の自分よりきれいな肌をしているかもしれない。
切れ長の目と、高い鼻。
まつ毛も長い。

ずーっと見てても飽きないほどの美貌。

すると、急にその瞳が開かれた。

「あ」
「・・・」

眠たそうに開かれた瞳はぼーっとを見ている。

「おはようございます」
「うん・・・おはよ・・・」

まだ寝ぼけたように小さく返事を返すカカシが可愛くて、にこ、と笑ってしまう。

「カカシさん、きょう任務は?」
「おやすみ・・・ちゃんは?」
「10時か、14時に行かないと」
「か?」
「行っても行かなくてもいいんです」

ふあ、とあくびが出た。

「まだねむい?」
「んー・・・なんかこのまったりしてる感じが心地いいです」
「おれも」

ふああ、とカカシもあくび。

「あ、うつりましたね」
「うつったー」

涙目になりながらカカシが笑った。
つられても笑う。

「そういえば・・・いま何時なんです?」
「えーっとね・・・10時半。寝すぎ」
「寝過ぎ〜・・」

あは、と脱力したようにが笑った。

「ってことは、ちゃんは14時に行かなきゃだねぇ」
「そうなりますね」
「じゃあ14時まではこうやっていられるんだ?」
「はい」

にこ、と嬉しそうにカカシが微笑み、も心底嬉しそう。

「おれ、いますっごい幸せ」
「わたしも幸せですよ」
「悪いけど、よりもいま幸せ感じてるから」
「え、なにいってるんですか。わたしのほうがもーっと幸せですもん」
「なによ」
「なんですか」

む、とした顔で言い合ってたが、二人ともほぼ同時にくすくす、と笑い合った。



そのあと一緒に朝ごはんを食べて、ソファーでコーヒーを飲みながらゆったりと二人でくつろいでいた。

「きょう、夕飯どうする?」

唐突にカカシが尋ねた。

「もう夕飯の話ですか?」
「おれは一緒に食べたいんだけど」
「お昼もまだなのに夕飯の話なんて気がはやいですね」
「ねえ」
「あ、コーヒーのおかわり、いります?」
「ねえ」

ぐい、と強引にカカシに引き寄せられ、ちゅ、と口づけられた。

「な〜んで無視するのかな?」
「だって、カカシさんがかわいくて」

くすくすとは笑いながら、コーヒーを一口飲んだ。

「私はきょうハンバーグをつくる予定ですけど?」
「実はおれもきょうはハンバーグ食べる予定なんですけど?」
「でもひき肉は2人分ないから買い物に行く予定なんですけど?」
「おれも行く予定ですけど?」
「・・・ふふ!」

ついこらえきれなくては笑ってしまった。

「もー。強情なんですから」
「んー?」

カカシもニコニコしながらコーヒーを飲み、もう片方の手での手を握った。

「一緒にハンバーグ食べましょ?」
「うん」

2人で手をつなぎながら、ゆったりとした空間で飲むコーヒーは、なんだか甘い気がした。




ぼーっとしながら、他愛のない話をしながら過ごしていると、あっという間に時間が過ぎて行った。

「あれ?!もう昼過ぎですよ?!」
「あ、ほんとだ」

時計は13時過ぎ。
もっていたコーヒーも、とっくに飲み干してしまった。

「おなか、すきました?」
「うーん。さっき食べたばっかで動いてないからねぇ」
「ですよねぇ。抜きます?」
「そだね。お腹すいたらあとで出かけたときとかになんかつまもうか」
「いいですね。あ、わたしそろそろ準備しないと。ちょっと着替えてきますね」

よいしょ、とソファから立ち上がり、そそくさとは部屋へと消えてしまった。



それからは、カカシがを抱きしめて瞬身をつかって待機所へと向かった。


「や、やっぱり瞬身はびっくりしますね・・・!」

よたよたとはカカシから離れて、自分の仕事を始めた。
仕事の邪魔をしちゃ悪いと思い、カカシは適当にソファに座りながら、つい癖で本を広げてのことを眺めていた。

手慣れたようにさっさと仕事をこなし、顔なじみである忍たちと挨拶を交わしたり、話をしていた。
時々カカシのほうを見て、にこ、と笑顔を見せた。


「ふう。お待たせしてしまってごめんなさい。このあと特上舎に行くんですけど、カカシさんはここで待ってもらっててもいいですか?」
「あぁ、いいよ。いってらっしゃい」

なんとなく、気を引き締めたような顔をしたを見送り、昼下がりのざわざわとせわしない待機所の中でただぼんやりと幸せを噛みしめつつ、本のページを1枚めくった。



「こんにちは」

が特上舎の、いつにもまして重たい扉を開け、いつもやっている仕事を緊張しながら進めた。
その場にハヤテがいないことが、唯一の救いであった。

コーヒーカップを詰め替えながらも、昨日のハヤテの真面目な顔とセリフを思い出していた。

にとってハヤテは、まるで弟のような、そんな感じでいた。
境界線を破ってハヤテが急激に近づいてきて、戸惑いと焦りでハヤテと正面から向き合えない。
心のどこかで、あれは冗談ですよ、なんて言葉を待っていたり。
向こうから言ってくれないなら、こちらから冗談なんでしょ?なんて言いたくなる衝動も。

でも、ハヤテも同じようなことを思っていたはずだ。

今までの関係を壊してまでも、が好きな人がいると知っていてでも、想いを伝えるために大きな決意とともに、一歩を踏み出した。
それを冗談でしょ?なんていえるわけもなく、真摯に受け止めるべきことである。


いつもより何倍も遅く、仕事を終えた。
それでもハヤテは姿を見せなかった。

「ハヤテ・・・」

がこの時間にここにくるということは知っているはずだ。
きょろきょろと周りを見渡してもハヤテの姿は見えない。

ー!!どうしたの?そんなしょげた顔しちゃって〜!!」
「ア、アンコちゃん!」

いつもの明るいテンションでアンコが肩を組んできた。
アンコの方を見ると、テンションとは裏腹に真面目な顔をして必死に窓の外を指差していた。

「もしかして・・・外に・・・」

アンコは呆れたような、それでもどこか心配したような顔をして似合わないため息をついた。

「頼んだよ」

そういってアンコはいつものようにどこかへフラリと行ってしまった。



それからは急いで特上舎の外へと出て、アンコが指差していた場所へと向かった。
建物の角を曲がると、そこには大きな木があり、その木の上にハヤテはいた。

「ハヤテ」

下から声をかけると、にこ、とハヤテはいつものように笑ってくれた。

「アンコがばらしましたね?私がここにいるっていうこと」
「うん。アンコちゃん、心配してたよ」
「ごほ・・・まったくあの人は・・・」

すたっとハヤテは木から降りてきて、いつもと変わらぬ笑顔でと話した。

「あの・・さ、ハヤテ・・・?」
「どうして貴女がそんなに傷ついた顔をしているんです?」
「ハヤテ、わたしね・・・わたし・・・」

頭の中がぐるぐるとまわって、いつものハヤテを目の前にして訳が分からなくなってきた。
どうして、そんなにもいつもと同じ笑顔を見せてくるのか。

さんを避けていたって訳ではないのですよ?ただ・・・」
「ハヤテ」
「なんでしょう?心の準備はできているのですよ?」

ハヤテはただニコニコとが言葉を紡いでいくのを待っている。

「あのね、昨日のお返事なんだけど・・・」
「えぇ」
「わたし、やっぱり、カカシさんのことが好きなの」
「えぇ」

ハヤテの顔が見れなかったけど、声色からして変わらずニコニコとしているのだろう。

「ハヤテのことも好きだよ?でも、でもわたしにとってハヤテは・・・ハヤテは・・・」

言葉が詰まって、その代わりに目からぽろぽろと涙があふれ出た。

「ハヤテのこと、恋人として考えたことなんてなかった・・・急に関係が変わるだなんて、考えられなくて・・・でも、それでハヤテが・・・」
「私は貴女を困らせて、泣かせて傷つかせるために想いを伝えたわけではないのです。
貴女がそんなに私のことを思って泣いてくれていて、私はそれだけで嬉しいのです。
貴女と彼が結ばれたことを心から祝福します。
私と貴女は、ずっと前からも、これからも、お友達、です」
「ハヤテ・・・」

ふわっと風がふき、さわさわと木の葉が音をたてた。

「さ、早く帰らないとカカシ上忍が心配するんじゃないんですか?」
「あっ・・・そういえば置いてけぼりにしてたんだ・・・」
「ふふ、上忍相手にそんなことできるなんて、さすがさんだけですね」
「も〜やめてよ〜」

くすくす、と笑っていると、ハヤテもつられて笑った。

「ようやく笑ってくれましたね。さ、行ってください」
「うん。ハヤテ、ありがとう。また、あとでね」
「えぇ。あ、そうだ・・・」

す、とハヤテが手を差し伸べた。

「握手、しましょう」
「うん」

ぎゅ、と強く握手を交わし、木の葉の音とともにはその場から去った。


「はあ・・・・これで、いい・・・」

へなへなとハヤテはしゃがみこみ、深くため息をついた。

「盗み聞きとは、いい趣味ですね、アンコ」

ハヤテの後ろから、真面目な顔をしたアンコが歩いてきて、ぽんとハヤテの肩をたたいた。

「あんたにしては、上出来だったわよ」
「そう・・なんですかね。ごほっ」
「そうなのよ」
「そうですね・・・」
「・・・・」

もう一度、ぽんっと肩をたたいてからアンコは大きく背伸びした。

「んーーーーっ!いい天気ね、このまま散歩にでも行こうかしら」
「まだまだたくさん未処理資料がたまっているんです。さ、戻りましょう」
「えーーー!なによそれーー」

アンコの腕をずりずりと引っ張りながら、ハヤテは吹っ切れたような顔をしていた。

「アンコ、ありがとう」
「・・・・そう思うならその腕はなしなさいよね〜」
「ダメです」
「んもーーー」


そういうアンコの顔も、なんだか安心したような表情だった。




「カカシさん」

特上舎から帰ってきたは、少し目を赤くして、だけどどこかすっきりしたような表情でカカシの元へと帰ってきた。

「ん、おかえり」

カカシは何も質問することなく、だけど何があったのか理解したような、そんな表情でを迎えた。

「お買いもの、行きましょ?」
「うん、いこっか」

パタン、と本を閉じて、代わりにの手を優しく握った。

部屋から出て、なんとなく無言で歩いていた。
カカシは何もなかったかのように、は少し思いつめたように。
のその様子をカカシは気付いていたし、どうしてそのようになっているのかもわかっている。
特上舎に行って、ハヤテとけりをつけてきたのだろう。
ただ、それを言うべきなのか、そしてどう言おうかは悩んでいる。
でもそれをカカシがとやかく言うつもりはない。
すべてに任せている。

「カカシさん、あのね」

沈黙を破ったのはだった。

「うん」
「さっき、ハヤテにすべてを言ってきました」
「うん」
「ちゃんと話して、ちゃんと握手して、これからもお友達としてよろしく、て」
「うん、そっか」

すべてを言い終えたは、ようやくすっきりとした顔で、カカシの手をぎゅ、と握った。
カカシもその手をしっかり握り返し、先ほどより軽くなった足取りで歩みを進めた。


「わたし、カカシさんにとって大事な人になれますかね?」
「もちろん。もう十分に俺の大事な人になってるよ」
「ふふ、よかったあ」
ちゃん、ありがとね」

俺を選んでくれて。
いま、一緒にいてくれて。
なんて恥ずかしくて言えないけれど、は感じ取ってくれたようだ。


大事な人へ愛を誓おう。

どうか神様、全てが終わった後も、もう一度言わせてくれよ
あなたが大好きだと





END


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