ふわりとスカートのすそを翻しながら、せわしなく出かける準備をするを、カカシはぼーっと見つめていた。

「また行くの〜?」
「ごめんなさい、すぐ帰ってきますから。帰りになにか買ってきますか?」
「ねえ・・・この行ったり帰ったりって、疲れない?」
「え?」

の家でまったりと休暇を楽しんでいたカカシが、ふとぼやいた。

「待機所、別にすごく近いって訳でもないし、夜は一人で行かせるの不安だし」
「んー・・・」
「俺だって毎回送りたいけど、任務がある日はさすがに無理だし」
「・・・」


の仕事はコーヒー係。
世間の人にしてみれば、なんだそりゃ、と言われても仕方がない仕事。
けれど、せっかく綱手が特別に仕事を提供してくれ、またもらえる給与も人様には言えないほど甘く見てもらっている。

そりゃあ、すぐに終わることを何回も時間を分けて行うことは、時間の無駄と思うかもしれない。

「でも・・・綱手様がせっかく」
「それ。今からいこう」

ソファに座っていたカカシが、綱手の名前が出た途端、急に立ち上がりの手を掴んで玄関へと向かった。

「え?え??いまからですか?」
「善は急げって言うでしょ?」

手を握られたまま慌ただしく靴を履き、バタバタと家を出た。

「あの、でも私この仕事、好きなんですよ?」
「それは・・・わかるけど」

の言葉を聞いて、カカシの歩みが遅くなった。

「確かに、カカシさんがお休みの時、毎回夜に送り迎えしてもらってるのは申し訳ないと思ってますけど・・・」
「いや、それは全然かまわないし、俺がやりたいって思ってるからそれはいいの」

なおもを引っ張るように歩くカカシは、後ろを振り向かずに前へと歩いていく。
カカシの手を離すこともできないは、ただカカシの背中に言葉をぶつける。

「それに、最初に行ってからずっと待機所にいることもあるんですよ?別に毎回帰ってきてる訳でもないですし」
「昼から夜までずっと拘束されてる訳でしょ?」
「拘束されてるだなんて!そんなこと思ったことないです!」

なかなか意見が合わず、しかも顔も見て話すことができない。
つい、言葉をぶつけ合ってしまう。

どうすれば説得できるのかと考えているうちに、いつの間にか火影室前の廊下まで引っ張られてきてしまった。

「ま、まってください、カカシさん!わたし、この仕事・・・」
ちゃん」

扉を前にして、ようやくカカシが振り返った。

「あのね、すごくわがままな理由を言っていい?」

振り返ったカカシは真面目な顔をしていて、その様子にも息をのむ。
ぎゅう、と握りしめてる手が、より一層しっかりと握りしめられた。

「俺はね、今日みたいな休みの日はずっとちゃんといたい」

握ってないほうの手で、恥ずかしそうにぽりぽりと頬をかくカカシ。
で、ド直球なカカシの気持ちを聞いてなんだか照れてしまう。

「だからすごくわがままだってことは分かってるんだけど、何度も俺から離れない仕事に変えてほしい」
「・・・・」

まっすぐ目を見て言われてしまい、さっきまでは反論できたはずなのに、言葉が出てこない。

「・・・ごめん」

黙ってしまったを前に、先に声を発したのはカカシ。

「カカシさん、わたしこの仕事好きなんです」
「それはわかってる・・・つもり」
「いいえ、わかってないですよ」

戸惑っているカカシのもう一方の手も取り、両手を包み込む。

「ガイさんやハヤテ、アンコちゃん、それに・・・カカシさんと出会えたこの仕事が好きなんです」
ちゃん・・・」
「そこまでは考えてなかったですよね?」

ニヤリと意地悪く笑えば、照れたようにカカシも微笑んだ。

「だから・・・カカシさんが望むなら」



「・・・私に何か用があるんじゃないのか?」

突如、扉の奥から綱手の怒り気味な声が聞こえた。

「あ・・・」

カカシが恐る恐る扉を開けると、そこには笑顔で青筋を浮かべた綱手がこちらを見ていた。
その横では、顔を赤らめてトントンを抱きかかえているシズネがいた。

「いいから入ってこい」

呆れたようにため息をついた綱手に手招きをされて、観念して二人とも火影室へと入った。

「まあ、だいたい話は聞こえた訳だが・・・」

あの会話を聞かれたのか、とは頬が赤くなるのがわかった。

、お前に新しい仕事を頼みたい」
「え?!」

あまりにもタイミングのいい話につい声が出てしまった。

「私もお前を遅い時間に家に帰らせるのは不安だ。それに、新しくこの仕事に就く者もいる。もちろん時間については再検討するがな」
「だったら・・・!」

問題となっている時間が見直されるなら、まだ続けていてもいいのでは?と言いたかったが、綱手の眼力に言葉が続かなかった。

「ま、いわゆる世代交代だと思ってくれ」
「世代交代・・・」

そんな大げさな、と思ってしまったが、綱手がそう言うのだから仕方がない。
カカシは黙って聞いている。

「それで、新しい仕事についてなんだが」

綱手が書類で乱れた机の上をガサガサと探る。
山積みになった書類がその動きに合わせてゆらゆら揺れる。
それを見たシズネが慌てて押さえた。

「あー、あった。これだ。事務仕事。書類や報告書の整理、管理、受け取り、処理」
「書類整理の必要は、大いにありそうですね・・・」

一連の流れを見ていたは、差し出された書類を受け取った。

「報告書の扱いについては、すこし訓練が必要になる。今より少し大変かもしれないが、どうだ?やってみるか?」
「もちろん!喜んで!」
「そうか、なら詳しいことはまた後日追って連絡する」

ぐい、と湯呑を傾けてお茶を飲み干す綱手に、はあることを思い出した。

「あ、コーヒー!そうだ、行かなきゃいけないんだった!」

時刻は14時をだいぶ過ぎたころ。

「ああ、カカシさんは先に帰っててください!じゃあ、綱手様、失礼します」

綱手に一礼し、慌てて火影室から飛び出した。




「どうだ、これで満足か?」

がいなくなったあと、さっきまで一言も発しなかったカカシに綱手が話しかけた。

「いやー、無理言ってすみませんねぇ」

ははは、と頭をかくカカシ。

実はすでにカカシから綱手に、事前に仕事について話を通してあったのだ。
実際に新しい仕事が事務作業だということは、カカシも今日初めて聞いたことだが。

「じゃあ俺もこれで。ありがとうございました」
「待て待て待て。これ、忘れ物だ」

さっさと火影室を出ようとするカカシに、一枚の紙を渡した。

「あ〜・・・Sですか」
「これが交換条件だったろ。あと、これとこれと、これだな」

先ほどとは異なりすんなり出てくる上級任務依頼表を渡される。
綱手に無理を言った代わりに、どんな任務でもこなすと言ってしまったからには断れない。

まあいい、のためなら頑張れる。
全ての依頼表を受け取り、火影室から退室し、少し寄り道をしてからに言われた通り家へと帰った。



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