朝が訪れて目を覚ますと昨夜一緒にベッドに入ったはずのカカシがいなくなっていた。
今日任務が入ってるとは言ってなかったはずで、不思議に思いながら目をこすっては体を起こした。

「ん・・・・あれ?」

遠くのほうでトントンと包丁がまな板を叩く音やカチャカチャとお皿が重なる音が聞こえた。
まだ頭がボーっとする中ベッドから立ち、のそのそとリビングへ向かった。

「おはよお」
「おはよ。早起きだね」

リビングの扉を開けた途端にふわりといい香りがして、ダイニングキッチンにはいつの間に起きていたのかカカシが立っていた。

「どうしたの〜?」

ほあ、とあくびをしながらそう問うとカカシはクスクス笑った。

「えー?今日お誕生日でしょ。おめでとう」
「・・・え?あ、そっか。そうだ、ありがとう」
「昨日、日付変わった瞬間にもお祝いしたのに」
「あ、あー、そうだったね、アハハ」

まだ寝ぼけてるのか、ほわほわした感じのままのにカカシは言葉をつづけた。

「だから今日はをとことん甘やかす日にするの」
「・・・ん?」
「おれからの誕生日プレゼント」
「え?ど、どういうこと?」

ようやく頭がはっきりしてきたのか、ぱちぱちと瞬きを繰り返すにカカシは洗面所の方へ手を向けた。

「いま朝食をご用意してますから、どうぞごゆっくり洗顔でも」
「ハ、ハイ」

指されるがままはフラフラと洗面所へと向かった。
ご丁寧に洗い立てのタオルも用意されていて、蛇口をひねればちょうどいい温度のお湯が出た。
おお・・・、と感動しながら顔を洗っていると、鏡に映った自分の首筋に赤い印がつけられているのに気が付いた。

「き、きのうの・・・!」

日付が変わった瞬間にカカシにたっぷりと愛されたことを思い出し、一気に頬が熱くなりバシャバシャと顔を洗った。


首筋が隠せる服に着替えたのちリビングに戻ると、食卓には豪勢な朝食が並んでいた。

「ちょうど魚が焼けたよ。はい、座って」
「えっ!これ、カカシが全部?!」

机の上には、焼きたての焼き鮭にだし巻き卵、小鉢にはきんぴらごぼうもあり、そしていい香りがする炊き込みご飯。
そして湯気たつ味噌汁と共にカカシが向かいの席に座った。

「すごい、旅館みたい!」
「気合入れてみました。さ、食べよう」
「うん、いただきます」
「いただきます」

さっそくわかめの入った味噌汁に手を伸ばし、ふーっと冷ましてから一口含んだ。

「わ、美味しい・・・」
「そう?よかった」

きんぴらごぼうもだし巻き卵も、なにもかもが美味しくて、一口食べるたびに驚きと感動に震えていた。

「どれもこれも美味しい〜」
のために心を込めて作ったからね。愛情たっぷりってやつ?」
「ま〜たそうやって・・・」

恥ずかしがるそぶりも見せずにくすぐったい話をするカカシに、よくもまあそんなスラスラと言えるものだ、との方が照れてしまう。
すっかり料理も食べ終え、他愛もない話をしながらこれまたカカシが淹れてくれたほうじ茶を満喫していた。

「さてと、片付けてもいい?」
「あっ、洗い物はわたしやるよ!」
「だーめ。言ったでしょ、今日はを甘やかす日だから」

そういって皿を持つの手からひょいひょいと奪っていき、の制止を聞かずにお皿を洗い出した。

「お皿洗っておくからさ、なんかわがまま考えておいてよ」
「わがまま?」
「甘えていいのヨ」

カカシの言い方に思わずお茶を吹き出しそうになりながら、なにかあるかとぼんやりと考えた。

「んー案外思い浮かばないなあ」

と言いながら台所でお皿を洗ってくれているカカシを振り向き「あっ」と声を上げた。



*    *    *    *    *



「それで・・・・なんで俺が膝枕されてるのよ」
「えーだって一回やってみたかったんだもん!」

ソファに座っているのはで、その膝にはソファで横になったカカシの頭が載っていた。

「普通、逆じゃないの?膝枕してあげるよ?」
「カカシの膝、硬そうだもん」
「ま・・・そうね・・・」

クスクスと楽しそうにしているを目の前にしたら、喜んでいるなら別にいいか、とこの状況を受け入れるしかない。

「なんか猫が膝にのってるみたい」

そう言ってはカカシの頭を撫で「あっ」と再び声を上げた。

「ね、変化の術して!ドロンて!」
「いいけど・・・何に?」
「猫耳!」
「え゛」

キラキラとした目を向けてくるを無下にはできないし、そもそも何でも言うこと聞くと言ったからには断る訳にもいかないと分かっていながらも、想定外のお願いに思わず頬が引きつる。

「猫耳と、あとしっぽもいいなぁ」
「ちょ、待・・・」
「ひげも可愛いかなぁ」
「変化!」

これ以上要望が増えても困る、との言葉を遮って慌てて印を組んだ。

「とりあえず、耳と、しっぽ・・・」
「か、かわいい!!」

これほどまでに自分の能力の高さを呪ったことはない。
完璧に表現された、髪の毛の間からぴょこんとのぞく猫耳と、ズボンの隙間からすらりと伸びた細長いしっぽ。

「触っても平気?大丈夫?」
「いいけど・・・」

きゃあ、と嬉しそうな声を上げて、さっそくはワシワシと頭を撫でた。
そこは耳じゃないんかい、と心の中で突っ込みながらされるがままにジッといているカカシ。

「すごいね、本当に生えてるみたい」

猫耳の根元をカリカリと撫でられて、なんだかくすぐったいような、なんともクセになりそうな感覚。
思わず身体が動き出してしまいそうになるのを理性で抑え込むが、なんとも言えない感覚がむずがゆい。

「アハハ、カカシも楽しいの?」
「え?」

が指さすほうへ目線をやると、無意識のうちにゆらゆらとしっぽが揺れていて、自らがそう動かしているわけでもないのに感情が丸出しになることに一気に羞恥心がこみ上げる。

「かわいい・・・」
「〜〜〜〜ッ!」

へにゃっと笑うについに我慢できなくなったカカシはそうそうに変化の術を解いた。

「あっ!」
「おしまい」

の膝枕からも起き上がって、に背中を向けて熱くなった頬を冷やすように手で顔を覆った。

「えー、可愛かったのに」
「ダメ、おしまい」

カカシにゃん・・・と不吉なことを言っているの発言を聞こえないふりして、ふぅーと息をついてからの隣に座り直した。

「じゃあ、膝枕してもらおーっと」

今度はがころんとソファの上に横になり、カカシの膝の上に頭を乗せた。

「あ。案外硬くない」
「そ?」

やはり膝枕をするとなると、ちょうどいい位置に頭が来ることもあり自然と頭を撫でてしまうのか、例に漏れることなくカカシも同じようにの頭をやさしくなでた。
確かに膝の上にある頭を撫でる感覚は猫や犬を撫でている感覚と似ていて。

「髪の毛、のびたね」
「短いほうが好き?」
「んー、どうだろう。どの長さも好きだけど」

くるくると指に髪の毛を絡ませて手遊びするカカシを下から眺める
普段見られない位置から見るカカシの顔に思わず目が離せなくなってしまった。
筋のラインが美しい首筋や男らしい武骨な顎、色白な肌に小さなほくろがチラリと見え隠れする。

「すごい視線を感じるなぁ」
「特等席なもんで」
「なるほど」

ニヤッと笑ったカカシはぐぐっと身体をまげて、ニコニコしているにむちゅーと口づけた。

「んむっ!」
「ほんとだ、特等席」
「そ、そういう意味じゃなかったんだけど」
「えー?だっての顔がこーんな近くにあるんだよ?」
「わっわっ!」

そう言ってもう一度キスしようと顔を近づけるカカシの顔を両手で抑え、逃げる様には起き上がってようやく二人並んでソファにきちんと座った。

「もー、おしまい!」
「あら残念」

クスクス笑うカカシにも笑い返し、ふと思い立ったことを口にした。

「そうだ。写真、撮ろうよ」
「写真?」
「うん!あ、でもカメラないけど・・・」
「ハハ、無いのによく言ったね」

先に立ち上がったカカシは「ちょっと待っててね」と言い残し、ドロンと姿を消してしまった。
あ、という前に再び煙と共にカカシが現れて、その手には大ぶりなポーチを抱えていた。

「お待たせ。カメラ借りてきたよ」
「わー!仕事が早い!」

カメラや映像機器は、木の葉の里には幅広く流通しておらず、専門店が展開しておりそれこそ中忍試験や忍者登録の時など火影管轄の案件に使われる程度だった。

「わたしカメラ使ったことないな」
「じゃあ撮ってあげる」
「え?いま?」
「はい、撮るよー」
「ままままって!」

慌てて髪の毛と衣服を整えて、背筋を伸ばしてカメラの方を向いた。
するとパシャっと派手な音がして、どうやら写真が撮れたようだった。

「どう?うまく撮れた?」
「んーフィルムを現像しないと」

なーんだ、と肩を落とした瞬間、再びシャッターが着られる音がして、驚いて顔を上げた時にもパシャリと写真を撮られた。

「ちょっとー!ダメ、いまのダメー!」
「アハハ、ごめんごめん、でももう消せないんだよねぇ」
「なんでも言うこと聞くって言ったじゃーん!」
「違うよ、甘やかす日って言ったの」

そうだけどー!と声を上げるはなんとかカメラを奪おうと手を伸ばすが、ひょいっと遠ざけられてカカシはクスクス笑うばかり。

「もう・・・わたしのことは写さなくていいのに」
「なに撮るの?」
「ちょっと貸して」

はい、と渡されたカメラの取り扱い方を聞いて、満足げに微笑んだはさっそくカカシに向かってカメラを構えた。

「え?おれ?おれは写りたくないなぁ」

カメラを向けた先のカカシは苦笑いしながらカメラから逃げる様にすいっと身体を動かした。

「1回だけ。試しに撮ってみたいの」
「えー、ウッキー君とか撮ったらいいじゃない」
「ダメ。はい、こっち向いて」
「えー・・・」

まいったなぁ、と頭をかきながら伏し目がちにゆっくりとこちらを向いたカカシ。
説明を聞いた通りにゆっくりとシャッターを押せば、パシャっとシャッターが切れる音が響いた。

「これで撮れてるのかな?」
「たぶんね。はい、交代」
「えー!もうちょっとだけ!」
「えー・・・あっ!」

カメラを受け取ろうとこちらに手を伸ばしているカカシに、カメラを渡すどころか隙を見てシャッターを押した。

「えへへ、撮っちゃった」
「ちょっとー。撮るならさ・・・、こういう顔で撮ってくれない?」

そう言ったカカシはうっすらと笑みを浮かべたキメ顔で、さらに流し目でカメラのほうを向いた。

「アハハ!ちょ、ちょっと待って、笑って手が震えちゃう」
「ほら、早く」

さらに煽ってくるカカシにも笑いながら負けじとシャッターを切り、笑いすぎて苦しくなったがようやくストップをかけた。

「も、お腹いたい・・・ほんと最高、カカシ」

はあはあと涙をぬぐいながらお腹を抱えているからようやくカメラを受け取りながらカカシも満足そうに笑った。

「はぁー、ちょっと休憩」
「これあと何枚残ってるんだろ」

ストン、とソファに座ったの隣にカカシも座り、手に持ったカメラをまじまじと見つめた。

「楽しい誕生日だなあ」
「ほんとに?それはよかった」

とん、とカカシの肩にもたれたに微笑みを返し、再び手元のカメラに目を戻した。

「んー・・・」
「いい天気」

カカシに寄りかかりながら、窓のほうを向いてぼんやり青空を眺めていると、カメラの細かいところを調べ始めるカカシ。
これが絞りか、これが露出かといじれるところをいじりながらファインダーを覗いてみる。

外からはチチチと鳥のさえずる声と穏やかな昼間の日常の音をBGMに、それぞれのまったりとした時間が過ぎていく。

ふと気が付けば、カカシに寄りかかったはすーすーと静かに寝息を立てていた。

「あらら」

今朝の朝ごはんの支度の音で朝早く起こしてしまったのもあり、しばらくそのまま寝かせておくことにした。
が、変に動いて起こしてしまうのも申し訳ないので、ゆっくりとソファの背もたれに寄りかからせるようにそっと身体を動かした。

「・・・・・」

柔らかな日差しの中、スヤスヤと眠るに向けてそっとカメラを構えた。




*    *    *    *    *



「ん・・・・あれ、寝ちゃってた」
「暖かいからね」

おはよう、と寝起きのの頭を撫でニコリとほほ笑んだ。

「お昼どうする?お腹すいた?」
「あ、もうそんな時間なんだ!うん、食べたい!」

はたと時計を見てみるとすでに正午は過ぎていて、二人はソファから立ち上がった。

「朝の残りがあるけど、軽くでいいでしょ?」
「うん。あ、炊き込みご飯あるの?」
「そう。分量間違えてたくさん炊いちゃったからまだまだ残ってるんだよね」
「アハハ、やったあ」

手伝おうとカカシの後を追って台所に向かうも、くるっと振り返ったカカシのお腹にボスンと顔をぶつけた。

「おわっ」
「はい、座って待っててね」
「えーいいのにー!」

と言いつつ結局お昼の準備も片付けも手伝うことなく、なんとなくソワソワしながらもカカシの言葉に甘えてぼんやりお皿を洗ってくれるカカシを眺めていた。

「なーんか今日だけですごく太っちゃいそう」
「アハハ、たまにはいいじゃない」
「まさか甘やかすってそういうこと?」
「いやいや、そんなことないよ」

タオルで手を拭きながら「じゃあさ」と言葉をつづけた。

「美味しい紅茶のみたいって思わない?」
「え?うん、飲みたいな」
「あと美味しいケーキ食べたいって思わない?」
「うん!食べたい!」

若干の誘導尋問だが聞かれるがまま素直に返事を返しているとカカシはニヤリと笑みを向けてから冷蔵庫の扉を開いた。

「はい、どうぞ」
「あっ、えっ、これって!」

机の上にトンと置かれたのは、シックな紺色に金色で箔押しの装飾デザインがされている小さな箱。
赤いリボンがかけられていて、箱に刻まれている金色の文字には見覚えがあった。

「これって、あの、あのケーキ屋さん?!」
「そう、食べたいって言ってたよね」
「うん!わあ・・・!すごい、開けていい?!」

紅茶を淹れる準備をしているカカシは返事をするようにニコリとほほ笑んで、は高揚する気持ちをなんとか抑えてゆっくりとリボンをほどいた。

「どうしよう、ドキドキする!」
「代わりに開けましょうか?」
「わ〜〜そうして!ひっくり返したら悲しいから!」
「はいはい」

お湯が沸くのを待つ間、ダイニングテーブルへ戻ってきたカカシは震えてるの代わりに箱のふたを開けた。

「わ、わあ!わー!!」

カカシの手によって取り出されたのは、キラキラと輝いて魅力にあふれている真っ赤なイチゴが載っているショートケーキ。
三角形に切られた断面はスポンジとクリームとイチゴのコントラストが美しい。

「これ、どうしたの?カカシが買ってきてくれたの?」
「まあね。一個だけなんだけど」

がこんなに騒ぐのには理由がある。
雑誌やテレビに何度も取り上げられ、そのたびには「いいなあ」と言葉を漏らすものの常に予約はいっぱいで店には行列ができていて、かといって買い求めやすい価格でもなく、ただひたすら羨望の目で眺めていたケーキだった。

「お店に並んだの?買えたの?あ、でもここにあるんだから買えたんだよね!すごい!」
「ちょーっと裏技」
「え?!なにそれ!」
「ヒミツ」

わああ、と騒ぐにカカシは不敵な笑みを浮かべ、お湯が沸けた音を聞いて台所へ姿を消した。

「わわ、どうしよう。あ、そっか!」

突如目の前に現れた宝物にテンションが上がりっぱなしで、どうしようもないがどうにかしたいと、慌ててあるものを取りに走った。

「紅茶入ったよ〜・・・って、あれ?」

いい香りのする紅茶を二人分運んできたカカシだが、ダイニングテーブルにはキラキラかがやいているケーキだけが居心地悪そうにポツリといるだけ。
あれだけ騒いでいたは、ソファに置きっぱなしにしていたカメラを手に持っていて、操作を思い出すように黙ってファインダーを覗いていた。

「写真に残しておきたくて」

カメラを持ってケーキの元へ戻ってきたは、まるでプロカメラマンかのようにしゃがみ込んでケーキに向かってカメラを構え、うんうんと唸りながらようやく一枚写真を撮った。

「ふー・・・緊張したー!」
「現像するの楽しみだね」

えへへと笑ったは机の上にカメラを置き、ワクワクした面持ちで椅子に座った。

「カカシ!食べたいです!」
「はいはい、どうぞ」

あまりにも無邪気な様子にカカシはクスクス笑いながらの向かいの席に座った。
フォークを持って恐る恐るケーキに近づけるの様子が面白く、紅茶を一口飲んでから机の上のカメラにそっと手を伸ばした。

「いただきます」

ケーキの上のイチゴに負けず劣らずキラキラと目を輝かせながらようやくケーキを口に運んだ。

「おいしい〜!」

満面の笑みを浮かべた瞬間を逃さないよう、一瞬にしてにカメラを向けてその笑顔をフィルムに収めた。
しかしそれすらも咎めることもなく頬を抑えて美味しそうに口を動かすに、そのあまりにも幸せそうな表情についついシャッターを切り続けた。

「すーごく美味しい・・・。ね、カカシも食べてみて」
へのプレゼントだし、おれはいいよ」
「ダメ、ちょっとだけでも」

そう言ったはイチゴも一緒にすくったフォークをカカシに食べさせるように差し出した。
がそこまで言うなら無下にはできないと、差し出されたフォークに口を寄せた。

「ん、美味い。そんなに甘すぎないし、イチゴも美味しい」
「でしょ!」

まるで自分が褒められたかのようにニコニコ笑う

「あー幸せ・・・。カカシ、ありがとう」

口の端に生クリームをつけながら今日一番の笑顔を浮かべたに、シャッターを切るのも忘れて見とれてしまい、その幸せそうな笑顔が伝染するようにカカシもほほ笑んだ。

「クリームついてるよ」

ガタっと椅子から立ち上がって身体を伸ばし、の頬に手を宛がって優しく口づけた。

「お誕生日おめでとう、。愛してるよ」

口の中に広がる甘いクリームはまるで幸せな味。











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