「おーい、そろそろ出発するよー」 「あ、はーい!」 玄関のドアを開けて準備するカカシの声に、姿は見えねどが慌てたように返事を返した。 「そうだ、あれ持っていかなきゃ・・・」 声が近づいてきたと思えば、再び部屋の奥に引っ込む。 それを何度か繰り返しているうちに、ようやくがカカシの元へと走ってきた。 「おまたせしました!」 「ん、じゃあ行こうか」 カカシが手を差し出せば、はぎゅっとその手を握った。 が木の葉の里へ来てから何年か過ぎた。 木の葉の里へ来てほしいと告げた時、は涙を流し愛する二人を選べないと苦しんでいたが、 イッテツからの叱咤にカカシとの丸まった背が伸び、順風満帆で木の葉の里へと来ることとなった。 改めてカカシが木の葉の里へ誘ったとき、はらりと流したの涙は、どの宝石よりも美しく輝いていた。 カカシが里を去る日、を連れて行くという噂は瞬く間に広がり、カカシとがいなくなることを惜しむ声より、愛嬌のある囃し声が沸きあがった。 「たまには顔を見せておくれよ!」 「まったく、いい花土産を持っていくねぇ!」 そんな声に顔を赤くするとカカシだったが、見送る人の波がなくなった先に立っていたイッテツを見つけた途端、は一番の笑みを見せた。 「父さん!」 「なんだよお前ェ、泣きながら笑うなんて器用なことしやがって」 「それは父さんもじゃない」 イッテツもも、晴れやかな笑顔を浮かべながらもその瞳には涙が浮かんでいた。 カカシはぽりぽりと頭をかきながら、二人の邪魔をしないように一歩後ろへと下がった。 「父さん、一人で大丈夫?お店も、家のことも」 「ふん、バカにすんじゃねぇ。お前ェこそ、あいつに迷惑ばっか掛けんじゃねェぞ」 「うん。うん、大丈夫」 イッテツの言葉に何度も頷きながら涙を拭っているに、イッテツもゴシゴシと荒々しく涙をぬぐってカカシの方を振り返った。 「カカシ。のこと、頼んだぞ」 「えぇ。任せてください」 すっかり頼もしくなったカカシの表情に、イッテツは深く頷いた。 「ほら、さっさと行って来い」 バシィッと後ろに下がったカカシまで聞こえるほど強く背中を叩かれたは、その勢いで一歩進み出た。 「父さん、行ってきます」 「お世話になりました」 「おう!」 イッテツの眩しい笑顔に見送られ、カカシとは里をあとにした。 が木の葉の里に迎えられて、木の葉の里でも瞬く間に周りに受け入れられた。 というのも、カカシが里外遠征から帰ってきたと思えばを連れ帰ってきたことに一同は沸き、の性格もあってかすぐに打ち解けられた。 またカカシの力添えもあり、木の葉の里との里へとつながる道が整備され、お互いの里の行き来が柔軟に行なわれるようになった。 それは両里にとって利点が多く、両里への貢献は甚だしいものとなった。 よって、が里へ戻ることも容易となり、同じようにイッテツが木の葉の里へ訪れることもできるようになった。 そして迎える今日。 手を繋いでのんびりと散歩気分でイッテツが待つ里へと向かった。 慣れた道のりを歩み、懐かしい光景と香りが二人を包む。 里の人たちへの挨拶もそこそこに、当時何度も訪れた居酒屋へ足を向けると相変わらずの懐かしい雰囲気にイッテツが店の前で酒瓶を搬入していた。 「父さん、ただいま!」 「どうもイッテツさん」 二人が声をかけると、イッテツは朗らかな笑みを向けて二人を出迎えた。 「よぉ、今度は久々にこっちから行こうと思ってたんだけどな」 いつものようにイッテツがカウンターに入り、カカシとはお決まりの向かいの席へ座った。 「それで、新婚生活はどうだ?」 並んで座る二人に熱いお茶を出しながらイッテツは問うた。 お茶を受け取るカカシの左手、そして少し恥ずかしそうに髪を耳にかけるの左手には、揃いの結婚指輪が輝いていた。 「・・・うん、とっても幸せ」 の言葉に今度はカカシが照れてしまい、ずずっとお茶を慌てて啜った。 イッテツの定位置であるカウンターの中に、とカカシの結婚式に撮った写真が高々と飾ってあるのが見えた。 結婚を決めたときもそれはもういろいろとあったが、そのことについてはまた今度。 「でね、父さん。今日は話があってきたの」 「・・・木の葉には引っ越さねぇぞ」 「わかってるよ」 何度かイッテツも木の葉に来ることを勧めたが、店に来てくれる客を裏切れないと言ってイッテツは頑固にそれを断ってきた。 は相変わらずの頑ななイッテツの言葉に笑いながら、バッグの中から一枚の紙を取り出した。 「カカシさんにも見てほしいの。はい、これ」 なんだろう、と何も聞かされていないカカシも静かにそれを見つめる。 は裏返しにしたままその紙をイッテツに渡し、イッテツがそれを裏返すのをニコニコとしながら見ていた。 「んー、カカシさん・・・じゃなくてお父さん、かな?ね、おじいちゃん」 「「!!??!」」 4<<< Novel TOP |