「ふー、あっついあっつい」

この時期にコトコトとお鍋に火をかけていると汗が止まらなくなる。
さすがに髪の毛を一つに結わえているも、エプロンが余計に暑さを増している。
嗅覚を刺激するスパイスの香り。
きっと家の周りにもこの香りは漂っているだろう。

今日の夕飯のメニューは夏バテ防止のカレーライス。
まあ、忍者相手に夏バテもなにもないだろうけど、カレーのスパイスは疲労回復に良いと誰かが言っていた。


「ただいまー」
「あ、おかえり!」

あとはお米が炊けるのを待つだけ、というグッドタイミングでカカシが帰ってきた。
エプロンで手をぬぐいながら玄関に迎えに行くと、カカシはマスクを下ろしてすんすんとにおいをかいでいた。

「いいにおい。カレー?」
「うん!お米ももう炊けるからすぐにご飯にするね」
「やった」

もぞもぞと靴を脱ぐカカシはニコニコしていてどこか嬉しそう。

「どうしたの?なにかいいことあった?」
「んー、なんかねー」

クスクスと笑いながら部屋の奥へ向かうカカシの後ろについて行くと、カカシはそのまま台所へ向かった。

「帰ってくるときどっかからカレーの匂いするなーって。だから今日カレーだったらいいなーって思ったらカレーだったから、やったーって思ったの」

鍋の蓋を開けて改めてスーッと匂いをかいで、カカシはうんうんと頷いた。
なんだかぼんやりしたカカシの言い方に、思わずアハハと笑ってしまった。

「あはは!よかった、そんなに喜んでもらえて。もう少しでご飯になるから、はやく着替えてきてね」
「りょーかい」

ポン、と優しく頭を撫でたのちにカカシは着替えに部屋へと向かっていった。

「へへ」

こうも嬉しいことを言われると、自然と笑みがこぼれてしまう。
せめてもっともっと美味しくなれー、とクルリと鍋の中身をかき混ぜた。


「はー、お腹すいた。なにか手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。座って待ってて」

着替え終えたカカシは素直にソファに座っていつものように本を広げた。

するとちょうど炊飯器がお米が炊けたことを知らせた。

二人分のお皿を用意し、炊飯器の蓋をパカッと開ける。
するとホカホカと真っ白な湯気の後ろに真っ白なお米が姿を現した。

「・・・ん?」

なにか視線を感じる、と振り返るも、カカシはいつも通り本を読んでいる。
気のせいか、としゃもじを手にして炊飯器の方へ向くも、またしても視線を感じる。

「・・・・・あっ」

なんだろうと気にしていると、注意散漫になってしまってしゃもじを落としてしまった。

「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」

よいしょ、とかがんでしゃもじを拾うも、その姿をじっと見られている視線をビシビシ感じる。
もしかして急かしている?!と急いで残りの準備を終えた。


「おまたせ!ご飯出来たよ」
「はーい」

声をかけるとカカシは本を閉じて嬉しそうに立ち上がった。

「これ持って行っていい?」
「うん、ありがとう」

あらかじめ用意しておいた冷蔵庫のサラダを持ち出し、カカシがテーブルの上に並べてくれたカレーの隣に添えた。

「わーうまそう。いただきます」
「いただきまーす」

言葉通り、おいしそうにカレーを食べるカカシを見ているとそれだけで幸せがこみ上げてくる。
冷めないうちに自分も食べようとスプーンでひとすくいして、パクッと口に入れる。

「んー、おいしいー!」

我ながら上出来、と満足いく出来。
その様子をカカシは相変わらずニコニコしながら見つめていたが、ふと一瞬なにか考えるような表情をしたかと思えば、それを隠すようにガツガツとカレーを食べ進めた。

「?」

なんだろう、と思ったけれど聞くタイミングを逃してしまった。




そんな疑問を抱えつつ夕飯を終え、片づけも済んでまったりとソファで二人の時間を過ごしていた。

カカシの隣に座ってぼんやりテレビを見ていると、手持無沙汰にムニムニとカカシが手を握ってきた。
マッサージされているような感覚で、とりあえずそのまま放置しているとお風呂が沸けた音が鳴った。

「お風呂どうぞ」
「ん、あ、ああ、ありがと」

ぼーっとしてたのかハッとしたカカシは慌てて立ち上がった。

「どうしたの?」
「え?いや、なんでもない」

あまりにも不思議な行動が多いカカシにさすがに疑問がわく。
なんでもないと言いつつも、こちらを振り返ったカカシはぼーっとどこかを見つめていた。
こちらの目を見ているわけでもなく、その視線の先は・・・どこだ?

「カカシ?」
「あっ、ごめん、ほんとなんでもないから!」

ますます訳が分からなくなるが、それを追求しようにもカカシはさっさと風呂場へ消えてしまった。


「なんなんだ・・・?」





【続きます→→

モドル