「俺は断然、脚!」 「いやいや首元、うなじでしょ!」 「お前わかってないな〜!」 任務が無事に終わり報告書を書いていると、やいのやいのと騒がしい声が聞こえた。 「なんの話?とどめをさすのがどこがいいかって話?」 「お、カカシ!そんな血なまぐさい話じゃないよ」 「フェチだよフェチ」 「フェチ?」 フェチ。フェティシズム。 異性の身体の特定部位・衣類などの事物に対し、異常に執着・愛好する態度。 さっき聞こえてきた話だと、どうやら脚や首元を愛好しているということだろう。 「例えばさ〜・・・、あの受付の子だったら?」 こそっと顔を寄せあって、受付に座るくノ一を指さした。 「どう考えてもあの脚絆から覗く脚」 「マニアックにもほどがあるだろ・・・」 「フェチだからね」 ワハハと自慢気に言う姿にその場にいた誰しもが冷たい目を送った。 「カカシは?」 「ん〜俺は・・・」 「なになに、なんの話?」 「うお!」 顔を寄せ合い一人のくノ一を見ている集団ははたから見たらさぞ怪しく映っただろう。 そんな中、一人の忍がドサッと勢いよくその集団に加わった。 「お前、なにフェチ?」 「なんだ猥談かよ〜!」 「おい!シー!静かにしろって!」 バカみたいに声のでかい新参者に対して、ガッと頭を掴んで輪の中に沈ませた。 「ムグ・・・俺はなあ、完璧におっぱいだぞ」 なんとか起き上がった新参者はくノ一に熱い視線を送りながら、その”フェチ”をじっくりと説明し始めた。 「まずあのくノ一はベストの前を閉めてるだろ?で、そのストッパーに注目してみてくれ」 「・・・・・」 その場にいた全員がゴクリとある一点を見つめた。 「・・・はい!いまの!見た?!」 「は?」 「だからほら、報告書を手渡すときに背筋を伸ばすだろ?その時にほら、また!」 どうやら背筋を伸ばしたことでストッパーが胸のふくらみによって引っ張られ、形がゆがむことに喜びを覚えているようだった。 「どう?」 「お前・・・」 「最高に気持ち悪いな・・・」 「・・・・」 思わずカカシも閉口したまま。 するとそのくノ一に報告書を提出し終えた忍がまた新たにやってきた。 「さっきから何の集まりだよ」 「フェチ話」 「なんだそれ」 ハハ、と笑ってクールに立ち去ろうとする忍を胸フェチの忍が引っ張り込んだ。 「待て待て待て待て、お前は?」 「はぁ?俺は別にないって」 「またまた〜」 と、言いつつも全員が興味深そうにそいつのことを見ていた。 「んー・・・・まあ、強いて言うなら手・・・かな?」 「手ね〜」 「わかるわ・・・」 なぜか手と答えたやつはすこし恥ずかしげに頬を染めて、じゃあな、とこの軍団から去っていった。 「手は盲点だったわ」 「たしかにスッとした指先は堪らないかもな」 「まあおっぱいには勝てないだろ」 「「お前さあ・・・」」 「なんだよ!じゃあカカシは?お前はなにフェチ?」 「え?おれ?」 突然話をふられ、思わずハッとする。 聞くだけ聞いてて自分は何も考えていなかった。 「まあお前は彼女がいるから・・・。その子のどこが好きよ?」 「どこって言われても・・・」 いざそう言われてもすぐには出てこない。 というより、どこが好きというより、もうすべてが好きというかなんというか。 さっき挙げられた脚やら胸やら手やらうなじやら、そんなものもちろん好きに決まっている。 もっと言えばあの瞳や表情、細い首筋に色白の肌、手首や指や爪の形だって、言い出せばキリがない。 「ま、おれは色々かな」 「つまんねー!」 無難な答えは受け入れられなかったのか、さっさと帰れと集団から追い出されてしまった。 それでもぼんやりと頭の中でフェチについて考えていると、どこからともなく夕飯のいいかおり。 魚を焼く匂いしたり、煮物の匂いが辺りを包んでいる中、一段と強くカレーの匂いが嗅覚を刺激した。 あー、カレーいいなあ。 頭の中のフェチはどこへやら、いっきにカレーがすべてを占めてしまった。 そういえば久しくカレーを食べていない気がする。 ガイがこの前おしえてくれた美味いカレー屋さん、今度行ってみようかな。 場所はどこだったかな。 「ただいまー」 「あ、おかえり!」 玄関のドアを開けると、愛しい人の声とまた一段といい匂いが。 食べたいと思った時に食べるカレーはさぞ美味しいだろう。 着替えているうちにご飯ができるから、と言われ鼻歌まじりに部屋着へと着替えてリビングへと戻った。 「はー、お腹すいた。なにか手伝おうか?」 「ううん、大丈夫。座って待ってて」 なぜかニコニコと嬉しそうにカレーをかき混ぜている姿に、ドキリと胸が高鳴った。 そんなタイミングでさっきのフェチの話を思い出していた。 髪の毛を結んでエプロンをしている姿はまさにフェチの塊なのではないだろうか? 髪を結んでいることによって露わになった首筋。 肩と背中にかけて滑らかな線を描く首筋にうっすらと汗をかき、その艶やかさを際立てているようだった。 「・・・ん?」 さすがにこの熱い視線に気が付いたのか、しゃもじを持ったまま振り返ってきたので慌てて読書のふりをした。 「・・・・・あっ」 カラン、と乾いた音がしてしゃもじが床へと転がった。 まさか変なことを考えていたのがバレてしまったのかと一瞬ドキッとしたが、大丈夫、と言ってかがんでしゃもじを拾う姿にまたしても釘付けになってしまった。 屈んだことによって強調される丸い尻。 そしてそこから伸びるすらっとした脚。 体勢を変えたことによって髪の毛がさらりと形を変えた。 思わずごくりと生唾を飲んでいる自分がいた。 『フェチ・・・・』 その後、カレーをおいしそうに頬張る様子や、にこやかに話す姿に幾度となく目を奪われた。 普段だったら気にならなかったことも、フェチという言葉が頭にある限りあらゆることに胸が高鳴ってしまう。 隣に座って一緒にぼーっとテレビを見ているだけで幸せな時間だと再確認し、ぽてっと置かれた柔らかな手を握ればそのあたたかさに癒される。 どこがフェチだという前に、存在そのものがもうフェチの塊なんじゃないかな、と分かっていないながらぼんやりと考えていた。 「お風呂どうぞ」 「あ、あ、ああ、ありがと」 突然声を掛けられて慌てて立ち上がった。 そういえばこうして一番風呂に入らせてもらえるのだって有り難いことだ。 その優しさもフェチに入るのだろうか? いや、そもそもフェチって何なんだ・・・? 「どうしたの?」 「え?いや、なんでもない」 不思議そうな声を上げるから、変な風に思われたんじゃないかと慌てて振り返った。 『・・・俺はなあ、完璧におっぱいだぞ』 ふいに受付での話を思い出して、はっと目の前のフェチの塊が目に入った。 たしかにこれは・・・・ ゴクリと生唾を飲み込む直前に、再び不思議そうな、むしろ不審そうな声を掛けられてしまった。 「カカシ?」 「あっ、ごめん、ほんとなんでもないから!」 さすがに何を考えていただなんて教えられないから、これ以上詮索されないように風呂場へと逃げ込んだ。 結局フェチへの理解は100分の1くらいしかできなかったけど、その1は確かな1である。 今度またあいつらに会ったら、もう少しは猥談の種になれるだろうか。 それはそれは、楽しみだ。 モドル |