ふと目が覚めた。
カーテンの裾から朝日が待ちきれんばかりに溢れ出ている。

少し身動きをしただけで衣服がこすれる音や骨がきしむ音が静かな空間によく響いた。
ふわっと自然にあくびが出て、ついでにググッと体を伸ばす。
ずっとこのままでいるわけにもいかず、ようやくベッドから抜け出した。

「ふああ・・・・」

今日はあれしてこれして、そしたら空いた時間にあれをして・・・。
あくびをしながらも案外、頭は冴えている。
なんて自分で言うようなことじゃないけど。
頭の中で今日の予定を組み立てながら洗面所へ向かう。
鏡を前にふあっと再びあくびを一つ。
勢いよく出した水で顔を大雑把に洗い、歯ブラシを手に取り適量の歯磨き粉をとる。
シャコシャコと歯ブラシを握った右手を動かしながら、左手はいつものようにぽっけの中。
鏡の前に立つぼんやりとした顔を見てなにか思うわけでもなく右足で左ふくらはぎをかく。
とんでもなくみっともない恰好だってのは分かってるけど、誰かが見てるわけでもないし。
口をゆすいだ後、鏡に顔を寄せて髭の伸び具合を確認した。
もともと別に髭が濃いわけでもない上に結局マスクで隠してしまうが、さすがにそのまま放置というわけにもいかない。
今日もなんとなくカミソリで頬をなぞる。
髭が濃い人はさぞ大変だろうなあ、と髭の濃いやつと全体的に濃いやつが頭の中に思い浮かんだ。
とりあえず剃り終えて、頬をむにむにと押してなんとなく剃り残しがないか確認し、洗面所を後にした。

洗面所から出たところでようやく目覚まし時計が盛大に鳴った。
目覚ましかけてたんだっけ。忘れてた。
耳障りな音を慌てて止め、ついでに時間を確認した。

「あれ?」

昨日の夜に適当な時間で設定していたようで思ったよりゆっくりしていられる時間がなかった。
少し急いで身支度を整え、いつものように慰霊碑の前へ訪れた。

「おはよう」

さわやかな風が通り抜ける。
心地がいい。

「今日も木の葉は平和だよ」

今のところはね、と付け足してそっと慰霊碑に触れてからその場を去った。
あの頃のバカみたいな自分はさよならと言う前にいなくなった。
時間も忘れて、目の前の無機質な慰霊碑にひたすら後悔と懺悔を繰り返しぶつけていた日々。
戦争で失ったものは大きいが、その代わりに得たものは両手に抱えきれないほどだった。
笑顔でさよならした友人たちに、もう後悔も懺悔も必要ないだろう。


「カカシ先生!」
「あれ?!もう来たのかよ!」
「おはようございます」

任務の待ち合わせ場所にさっそく向かうと、七班の一員として見送ったサスケ以外の、ナルトやサクラ、そしてサイがすでに集合していた。

「や、おはよう。今日はいい天気だねぇ」

にこやかに話しかけるも、サクラとナルトは顔を見合わせてムム、と表情をゆがませていた。

「カカシ先生さあ・・・」
「なによ」
「最近、遅刻しなくねぇ?」

頭の上にクエッションマークが見えそうなほど不思議そうな顔をしているナルトたちに、思わずカカシは顔をほころばせた。
そっか。
慰霊碑の前に立っている時間が少なくなったから、か。

「おれは最初から遅刻してないでしょ」
「「はいウソ!!」」

いつものようにビシッと突っ込むナルトとサクラの後ろから慌てて走ってくるヤマトの姿が見えてきた。

「なんでカカシ先輩遅刻してないんですかー!」
「遅いぞー、ヤマトー」

その様子を見て笑う部下たちに、あたたかな日差しがまぶしく降り注ぐ。

「いやあ・・・・平和だねぇ」

思わず微笑みが零れてしまう。

まぶしさに目を背けていたあの日から、どれだけ時間が経っただろう。
逃げるように暗闇へ、影へと向かっているうちに出口が分からなくなって出られなくなっていた。
暗闇は何も見えなくてすべてを切り捨てられたけど、その代わりに自分自身しか見えない苦しさに常に苛まれていた。

「カカシ先生!ほら、行くってばよ!」
「ちょっとカカシ先生、おいていきますよ?」
「ヤマト隊長が泣きそうな顔して呼んでますよ」

一筋の明るい光がパッとさして、そして次々と光が降り注ぎ、気づけば暗闇は消え去っていた。

「・・・・・ありがとな」
「ん?先生、いま何か言ったか?」
「なんでもないよ」

消化不良な答えに少し不満げな表情を浮かべるナルトの背中をポン、と叩いた。

「さ、行こうか」

大きく一歩踏み出して、その先を歩く子たちの後を追った。
どうやらこの先、明るい未来が待っていそうだ。





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