お昼過ぎ、太陽が照りつくなか買い物から帰ってくると、玄関前に大きな荷物があった。 見覚えがある。 カカシの荷物だ。 長期任務から今日帰ってくるはずだが、なんでまたこんなところに荷物だけ。 荷物を置いてまたどこかへ出かけたのだろうか。 とりあえずこのままここに置いておくわけにもいかず、買い物袋を左手に、右手でリュックを拾い上げた。 「う・・・重い・・・」 あんな軽々背負ってるから油断していたが、ズッシリと重いリュックはそう簡単に持ちあがらなかった。 とりあえず玄関のカギを開けておこう、と鍵を差し入れるもどうやら様子がおかしい。 「あれ?」 試しにドアを引いてみると、鍵が開いていたのかドアが開いた。 「カギ掛けたはずなんだけどなあ」 おかしいな、と首をかしげながら家の中へ入ると、玄関のたたきに乱雑に脱ぎ捨てられたカカシのサンダルが。 「あれ?カカシー、帰ってきてるのー?」 部屋の奥に呼びかけるも返事がない。 「んん〜?いないのか」 とりあえずあっちこっち向いてるサンダルを整え、買い物袋を置く。 そして玄関の外に置きっぱなしのカカシの荷物を引っ張り上げた。 「ふう・・・」 なんとか中に入れて一息つくと、玄関ホールの先に脚絆の布が落ちていた。 「ん?」 布の先を目で追うと、リビングに向かって手甲も落ちていれば額宛もパラパラと落ちている。 「カカシ?」 なんだか不安になり、それぞれを拾い集めながらリビングへ向かった。 その間にもベストが脱ぎ捨てられていたり、腰につけているポーチが転がっていたり。 「あっ!」 ポーチから放り出たイチャパラを拾い上げた瞬間、リビングのソファの手前で仰向けに倒れているカカシをついに見つけた。 「カカシ!ちょっと、大丈夫?!」 慌てて抱き起すと、スー、スー、と規則正しい寝息が聞こえてきた。 「あ・・・力尽きたわけね」 よかった、と思わず胸をなでおろした。 「それにしても・・・」 が帰ってきて名前を呼んでも、どんなに音を立てても、無理やり抱き起しても眠り続けている。 それほど疲れていたのか、家に着いて安心したのだろうか。 「おかえり、おつかれさま」 膝を枕代わりにそっと頭を乗せてやり、まるで子供を寝かしつけるように優しく頭を撫でてやった。 いつもマスクも口布もしてほとんど顔を見せていないのに、今や人の膝の上に頭を乗せて無防備に寝顔を晒している。 こんなカカシを見られるのなんてこの世で誰もいないんじゃないか、なんて思うとついつい顔がにやけてしまう。 とはいえ、いつ起きるかも分からないカカシとずっとこのままでいる訳にもいかず、膝に乗せた頭をゆっくり床におろした。 そこから静かに移動し、寝室から枕とタオルケットを持ってきてカカシにかけてやった。 本当はベッドに移動して寝てもらいたかったが、ここで無理やり起こすのも酷な気がするため、ひとまずこのままの体勢で。 「さてと」 玄関に置きっぱなしの買い物袋を回収して、そこから必要なものを取り出した。 ボウルや調理器具を取り出し、あるものを作り始めた。 カツカツと卵を割り、粉を振り、オーブンを温める。 卵白をかき混ぜてメレンゲを作り、ボウルに材料を混ぜ合わせ、とろりと型に注ぎ込んだ。 「んん、よし。あとは待つだけ」 その隙に洗い物を進めていると、ふわりとオーブンからいい香りが漂ってきた。 鼻歌交じりに食器を洗い終え、オーブンの前にしゃがみこんで中の様子を窺った。 「おお〜」 ふっくらと生地が膨らみ始めているのが見えて少し感動。 ワクワクとしながらそのままボンヤリとオーブンの中を見つめていた。 「〜・・・、おはよう」 「わっ、カカシ!」 いつの間に起きたのか、後ろから眠たそうな声とともに背中を覆われるように抱きしめられた。 「おはよう、起きたの?」 「ん〜、いいにおいしたから」 と言いつつもおっとりとした声に、ぐりぐりと背中に頭を摺り寄せられてまだまだ眠たそうな様子。 「なに作ってるの?」 「ホットケーキ」 「ん〜、そりゃいい匂いするはずだ」 くああ、と大きなあくびをしたカカシはに後ろから抱き着いたままぼんやりとオーブンを眺めた。 「任務、大変だったの?」 「うん、久々にね。雨のなか三日三晩、寝ずの番って感じかな」 「それはお疲れ様。あぁ、そうだ。寝てる時に言ったけど、おかえりなさい」 そう言うとクツクツとカカシが笑い、それに合わせて背中が揺れた。 「え?なあに?」 「それ、聞こえてたんだけどね、夢の中だったのかなって思ってたけど現実だったんだ」 「まあ、あれだけ無理やり動かしたからね」 もつられて笑っていると、チーンとオーブンが焼きあがる音がした。 「あっ」 「おっ」 さてさて、とキッチンミトンをはめてオーブンを開けると、ふわっと甘いいい香りがその場を包みこんだ。 「わあ、いいにおい!」 「上手に焼けたね」 よいしょ、と先にカカシは立ち上がり、コーヒーを淹れる準備を始めた。 「ああ、いいよ。私やるからカカシは座ってて!」 「これくらい出来るよ」 なめないでちょうだい、と言わんばかりに微笑んだカカシにコーヒーは任せ、はふんわり焼きあがったホットケーキにバターを載せ、とろりとメープルシロップをかけた。 「わああ・・・美味しそう〜!」 我ながら興奮する出来栄え。 どうやらコーヒーも淹れ終えたらしく、先にダイニングテーブルに向かっているカカシの後を追った。 「みてみて、美味しそうでしょ!」 「うん、美味しそう」 テンションの上がっているをニコニコと眺めているカカシに、一口サイズに切ったホットケーキを差し出した。 「はい、あーん」 「え?」 「疲労には糖分補給ですよ」 シロップがたっぷりかかったホットケーキを差し出され若干顔を引きつらせるカカシだが、そんなことも構わずその口が開くのを待った。 「じゃあ、いただきます」 ようやく小さく口を開けたカカシに、一口ホットケーキを食べさせた。 「どう?」 「ん〜・・・、ん、美味いよ」 「やったあ!」 さっそくも一口食べ、ん〜!とほっぺを抑えた。 「なんだろう、すごい美味しいね、このホットケーキ」 「ふふ、じゃあもう一口どうぞ」 「うん」 今度は素直に食べてくれるカカシに、思わずも微笑んだ。 「うん、美味い」 そう言って笑顔を見せるカカシは心底美味しそうな表情を浮かべ、その笑顔を見ながらカカシが淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、ブラックのはずのコーヒーがどこか甘く感じた。 「甘いもの苦手だけど、これはいくらでも食べられそう。不思議だね」 「ふふ、そうだね、不思議」 「なーによ、そんな嬉しそうな顔しちゃって」 コーヒーを飲みながらニコニコ笑ってるに、カカシも優しい笑みを浮かべながらホットケーキをもう一口分、切り分けた。 「甘くておいしいなあ〜、って」 「それ、ブラックだよ?」 「ふふふ」 笑ってるだけのにカカシは不思議そうな顔をしながら、パクッとホットケーキを食べ進めた。 Novel TOP |