時計の針が12を過ぎて、そこから幾分か経つ。 月でさえそろそろ寝床に入ろうと地平線へと沈みかけている。 キィキィと聞いたことのない虫の声や、夜風になびく木の葉の音が耳に心地いい。 「カカシ上忍、残り92.5分です」 「はいはーい」 その0.5分てのは何なんだ、だったら92分でいいんじゃないの、と突っ込む気力もない。 遠方での任務を終え、木々の間を飛んで帰る。 任務終了予定時刻まで、92.5分とのこと。 それまでに報告書を提出しなければならない。 「疲れたな〜」 「カカシ上忍は明日オフだからいいじゃないですか。僕は明日も遠方なんですから」 「そりゃご愁傷様」 そんな他愛もない話をしながらヒョイヒョイ飛んでいくと、ようやく里の明かりが見えてきた。 自然と我が家の方へ目が行くが、さすがにすぐに見つけられることもなく。 まあどうせ見つけられたところでも寝ていることだし、部屋の明かりは点いていないのだろうけど。 木の葉の里の大きな門の前で一度足を止め、無言のまま向かい合った。 「・・・・・時間は?」 「終了時刻より70分前です」 「よし・・・じゃん、けん!」 「ぽおおん!!」 グッと握りこぶしと大きく開かれた掌が差し出された。 「はい、じゃああとはよろしく〜」 「カカシ上忍の鬼!!」 「じゃんけんの結果でしょうよ」 じゃあね、とじゃんけんで負けて報告書を提出に行く仲間にひらひらと手を振り、カカシはそのまま帰路へとついた。 「あれ・・・」 どの家も明かりは消えているのに、ポツリと我が家だけ明かりが灯っていた。 「また電気つけっぱなしで寝てるのかな」 というのも前科あり。 とは言え、我が家に誰かがいる安心感に思わず足が早まる。 早まる気持ちを押さえつけ静かにカギを開け、そっと玄関のドアを開けた。 「ただいまー・・・」 人の気配はするけども、やはり返ってくる言葉は無し。 やれやれと靴を脱ぎ忍具を降ろす。 いくら深夜とは言えやはりまだ暑いもので、マスクも額あても手甲も脱ぎ、すっかり油断した格好で明かりのついたリビングへ向かった。 「あ〜らら・・・」 リビングに入ってすぐに目についたのは、ダイニングテーブルに突っ伏して眠りこけている。 「おーい、ベッドで寝なさーい」 「んん・・・」 ゆさゆさと肩を揺らすと、ようやく眠たそうな声を漏らして片目を開けた。 「あ・・・・おかえりなさあい」 「はい、ただいま。ほら、早くベッド行こう」 「ん〜・・・あ、そうだ、待って待って」 「なによ」 起こそうとするカカシの腕を振り切り、突っ伏してた体の下に敷いていた黒い大きな紙を取り出した。 「これ!見て!」 「ん・・・?星座表?」 「ふふ、ちょっと来て!」 「ええ〜・・・おれ眠いんだけど」 「まあまあ!」 星座表を持ったまま、今度はがカカシの腕を引っ張り、さっき帰ってきたばかり玄関から再び外に飛び出した。 「えーっと、北はこっちだから・・・」 は星座表をクルクル回したあと、ビシッと天空を指さした。 「ほら、あった!」 「え?」 が指さした先、星空が広がる夜空にひときわ輝く三つの光。 「夏の大三角形!」 ね!と嬉しそうにはカカシに振り向き、ぱあっと明るい笑顔を見せた。 「すごいでしょ!どうしてもカカシに見せたくて!」 「・・・・ハハッ」 「え!なんで?!笑うところあった?!」 突然笑い出したカカシに目を丸くして恥ずかしそうに顔をパッと隠す。 「なんか可愛いなーって」 「えええ・・・」 それより私は星を見て欲しかったんだけど・・・、と暗闇でもわかるくらい頬を赤くしながらもごもご言うの手をとり、はいはいと再び夜空を仰ぎ見た。 「うん、綺麗だね。それにしてもどうして急に?星なんて興味なかったじゃない」 「んー、なんかいつも目立ってる星があるなーって思ってて、そしたらその3つが三角形に並んでるからすごいなーって思って調べたの」 「いいねー、単純な疑問が研究の一歩を踏み出すきっかけになった訳だ」 「あれ?バカにしてない?」 「アハハ、してないよ」 ブーっと不満そうなをなんとか宥め、手をつないでいないほうの手である星を指さした。 「じゃあ、その三角形の一つ、あれはなんの星?」 「・・・・ん?」 「そことそことそこの、そこ」 三角形の頂点部分を指さすも、は笑顔で首を傾げた。 「残念!そこはまだ解明されてません!」 「ベガです。左がデネブ、右がアルタイルです」 「デブ・・・?」 アホなことを言ってるを無視して、手に持っている星座表を受け取った。 「元を言えばはくちょう座とわし座とこと座の一部をつないだアステリズムなんだよ。ベガとアルタイルは七夕の織姫と彦星とも言われてるんだ」 「へえ〜!そうなんだ!」 カカシの説明にキラキラとした目で空を見上げたの目には満天の星空が映りこみ、思わずその目に見とれてしまう。 「」 「ん?」 夜空を見上げたまま声だけで返事を返す。 そのあふれ出しそうな星空をそのままに、そっと顔を引き寄せて唇へ口づけた。 「!」 驚いたように目を見開いたの目はキラキラと輝いて、その輝きを独り占めできる優越感に心が満たされて。 深夜3時、夏の大三角形に見守られて交わす口づけはどこか特別な気持ちにさせた。 「綺麗だよ」 そうして照れたように笑うキミは、どの星よりも輝いていた。 Novel TOP |