こちらの歌詞を先に読んでみると、なんとなく雰囲気がつかめるかと思います。
.香さん『三日.月』
ご提供してくださったyokoさんへ。







「もう行くの?」
「ああごめん、起こしちゃった?今夜からまた里外行き」

暗部に所属しているカカシは、真夜中に任務に出かけることは珍しくない。
元暗部だったも、そのことはわかっている。

怪我をしてから暗部として動ける体ではなくなってしまったは、なくなく暗部から退役した。
暗部時代に二人は出会い、時がたつにつれ共に過ごす時間が増えた。
が暗部から身を引くとき、気を落としたを支えたのもカカシであった。
自然と互いに心は惹かれ、いまや愛の言葉をささやきながら体を交える関係へとなった。

しかし、からカカシを訪れることはなかった。
任務に追われ、疲弊しているであろうカカシに会いに行ける資格は、暗部を去ったにはない。
いつもカカシが来るのを待ち続ける。
決して、『会いたい』『寂しい』とは言ってはいけない。
それはきっと、カカシを苦しめる足枷になるから。


カカシが任務へ行くためにベッドから抜け出したのも、すぐには気が付いた。
ベッドの中でまどろみながら、身支度をするカカシを見つめた。

「また長いの?」
「ん、まあね。長期・・・になるかな」
「そう」

ただ短く、返事をする。
寂しいとか、行かないで、なんて言ってはいけない。
それはルール。

一緒に寝たはずなのに、朝起きたらいつの間にかいなくなっていることもよくある。
肌に触れる冷たいシーツが、寂しさを倍増させる。

「ねえ」
「なに?」

窓から差し込む月夜に照らされて、カカシの銀髪がきらきらと輝く。
その美しさに惹きつけられる。

「・・・ううん。なんでもない。任務、頑張ってね」

いつも我慢していた『行かないで』の言葉。
いつものように必死に押しとどめて、嘘の笑顔を張り付ける。

「あぁ。じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」

玄関のドアが音を立てて閉まるまで、カカシがそこから屋根を伝って遠ざかっていくまで、気配が感じ取れる範囲まで、カカシの姿を追う。

だんだん冷たくなっていくベッドと、遠くなっていく気配に、寂しさで胸が張り裂けそうになる。


「・・・行かないで、さみしいよ、カカシ」


ぽつりと漏らした独り言は、夜明けの静かな空間に吸い込まれて消えていった。



孤独な夜を朝が連れ去り、いつものように冷えたベッドから逃げ出した。

窓を開けて、カカシの残り香を部屋から追い出す。
いつまでも存在を感じていては、カカシを思い出して辛いだけ。

肌を刺すようなひんやりとした空気が、開け放った窓から流れ込む。

「いい天気」

早朝の、深い青い空が広がっている。

「あ、月・・・」

夜に置いてけぼりにされた三日月は、まるでわたしのよう。
輝きを失った月はあまりにもさみしげに見える。

はやく夜が迎えに来てくれれば、また美しく輝ける。
だけど今は見るも痛々しげな月。
これ以上見てられない、とすぐに目をそらした。



それから数週間、カカシがいない夜を過ごした。
もう慣れたと思っているのに、毎晩冷えたシーツを一人で温め、孤独を噛みしめた。

窓から覗く月は、カカシを見送った時とは反対側が欠けはじめた。

「カカシも見てるかな」

広い空、月はたった1つ。
たとえ里の外にいようと、いま見ている月はカカシも見ているはず。
涙で潤む星空は、いつもよりきらめいていた。

ふいに窓から差し込む月の光が遮られた。



待ち焦がれた愛する人が、窓の傍に立っていた。

「カカシ!」

窓を開けようと慌てて駆け寄るが、心が舞いあがって足がもつれそうになる。
すぐに窓のカギを解き、大きく開けた。
カカシが窓から部屋へ入ってくると同時に、その体を抱きしめた。

「おかえり、おかえりなさいカカシ」
「ただいま、

カカシも、愛おしそうにの頭を撫でた。

「怪我は?なんだか少しやつれたみたい」
「大丈夫。こそ・・・泣いてたの?」
「あ・・・ちがうの。これは・・・」

の頬に手を伸ばし、涙が頬を伝った跡を撫でる。
涙なんてカカシに見せてはならないと、慌てて手から逃げる。

なにか言い訳しようとするが、言葉が出てこない。

『寂しかったから』
『カカシに会いたかったから』

隠せない本心が、再び頬を濡らした。

「ご、ごめん。気にしないで」

溢れてくる涙を見せないように、慌てて背を向けた。



ぐい、と無理やりカカシの方を向かされ、今まで見せないようにしてきた涙をついに見せてしまった。

、どうして泣いてるの?」

カカシはまるで子供に言うように、優しく尋ねた。

「・・・・寂しかったの」

もう歯止めが効かなくなってしまい、ついにルールを破ってしまった。

「やっと、言ってくれたね」
「え?」

の言葉にきっと困っているのだろうと思ったのに、思いがけない言葉に目を見張った。

がいつも言わないように我慢してたのも知ってたんだ」

優しく頭を撫でて、抱き寄せた。

「ごめんね」
「カカシ・・・」
「寂しい時は寂しいって言っていい。我慢なんてしなくていいよ」

ね?とカカシは微笑んだ。

「俺ばっかりがを想ってるみたいで、寂しかったよ」

照れたように頬をかくカカシに、ようやくの笑みもこぼれた。
そして止まらない涙をそのままに、口づけを交わした。

久しぶりの口づけは、涙の味がした。

「愛してるよ、
「わたしも愛してる」

そのままなだれこむようにベッドへ倒れこんだ。
会えなかった間の心の隙間を埋めるように、お互いを満たし合った。




「・・・カカシ?」
「あぁ、ごめん。また召集かかちゃった」

二人分の体温であたたまったベッドから抜け出すカカシの動きに、ふと目が覚めた。
いつかの時と同じように、身支度をするカカシを見つめる。

「ねえ」
「なあに?」

この前と違うのは、カカシから声をかけたこと。

「寂しい?」
「・・・寂しいよ。でも、もう大丈夫」

もう冷たいシーツに孤独を感じることはない。
涙で頬を濡らすことはない。
一度カカシの前でたまっていた感情を放ち、カカシの『愛してる』の言葉がの全てを包み込んだ。

カカシはそんなの表情を見て、全てを悟ったように小さく微笑んだ。

「じゃあ、いってくるね」
「うん、いってらっしゃい」

笑顔でカカシを見送って、任務へと向かうカカシを窓からずっと見守った。

「?」

いつもは立ち止まらないのに、振り向かないのに。
今日だけカカシは、窓を開けて見守っているを振り向いて、にっこりとに微笑んで空を指差した。

その指に導かれて空を仰ぎ見れば、そこには威風堂々と白んだ三日月が、深い青空にニンマリと笑顔を浮かべていた。

再び目をカカシの方へ戻せば、もうそこにはいなかった。

青空に輝く三日月に手を伸ばし、息を吸う。


「どうか、無事に・・・」


愛しい人に祈りを込めて、想いを込めて。





NOVEL TOP

→→→→Daily