街はすっかり夏模様。

いつも賑やかな商店街に、セミの鳴き声も加わってますます活気づいているように見える。


「という訳で、明日の木の葉祭りに向けてカカシ上忍と上忍は設営をお願いします」

「「了解」」

日が暮れ始めているとはいえ、まだ日の長い世の中は熱気にあふれている。
それに加え、明日の木の葉祭りに向けて住人達の熱気も満ち満ちていた。

今回その設営を任されたのはカカシと
設営と言っても、それぞれの出店の準備は住民が各々行う。
その中で危険行為や手助けを求められたとき、迅速に向かえるようカカシとが配属された。

神社へ続く商店街の長い通りをぎっしり埋める出店の数々は、木の葉祭りの賑わいをおおいに見せる。

「今年はカカシさんも一緒で助かるな」

隣にいたがカカシに微笑んだ。

「去年はわたし一人であっちこっちに呼ばれて大変だったんだから」
「え、ここってそんなきつかったっけ?」

去年カカシは祭りの警備にあたっていたために設営へ回されたのは初めて。

ちゃーん、ちょっと頼むよー!」

すぐ近くで、テントを立ち上げようとする者が声をかけた。

「はーい!」

ね?と言わんばかりにカカシに笑みを残して、は文句ひとつ言わずにテントの立ち上げに向かった。
なるほど、と辺りを見渡してみると、見るからに重たそうな鉄板を大汗かいて運んでいる人や、冷や汗を垂らしながら高い位置に電飾をまわしている者があちらこちらに。

ちゃん、つぎこっち頼むよ!」
「あ、はーい!」

まだテントにてこずっているに新たに声がかかる。
声がする方を見てみれば、なんだか重たそうな台車を赤い顔をして引っ張る男がいた。
このままじゃ危ない、と早速カカシはその男の元へと向かった。

「よければ俺が手伝いますよ」
「あぁ、カカシさん!悪いね、頼むよ〜」

ニカッと眩しい笑顔を見せる男から台車を預かり、指定された場所へと運ぶ。
ついでに台車から荷物を下ろしてやると、痛いくらいに背中を叩かれながらお礼を言われた。

「これ、お礼!あとで二人で食べてくれ!」
「えっ、あっ」

断る暇もないままあっという間に、きっと祭りの景品であろうお菓子を持たされてしまった。

「カ、カカシさん〜!」

どうやら思った以上にテントが手こずっているようで、困った顔をしたがカカシを呼んでいた。

「どうしたの」

とりあえず貰ったお菓子を持ったまま声をかけられた場所へ向かうと、立派なテント相手に奮闘して顔を赤くしているが。

「これ、重すぎて、持ち上がらなくて・・・」
「はいはい、じゃあこれ持ってて」

はあはあと息を切らせるに先ほど貰ったお菓子を預け、重たそうなテントの鉄骨を握る。

「よっ・・・」

ぐ、と力を込めると、ようやく鉄骨が持ち上がりやけに立派なテントが立ち上がったと共に、周りからおおお、と歓声があがった。

「やあ、やっぱり男手があると助かるな〜!」
「さすがカカシさん!力持ち〜!」

住人と一緒に喜ぶの顔を見ると、なんだかくすぐったいような、嬉しいような。
変な顔になっていそうで、それを見られないように慌てて顔を反らした。

「カカシさん、こっちも頼むよぉ」
「あ、はい!」

新入りのカカシにも容赦がなく、矢継ぎ早にあちらこちらから声がかけられる。
間抜けな顔を見られてしまう前に、にじゃあね、と声をかけてその場を去った。


それからというもの、カカシももあちらこちらへと奔走した。
木の葉祭りが誇る出店数は伊達じゃなく、ようやくかかる声が減ってきたと思えば、辺りはすっかり暗くなっていた。

「はーつかれたー!」

設営係の休憩用のテントにへとへとに戻ってきた
どさっとパイプ椅子に座ってようやく一息ついた。

「よ、おつかれさん」
「おつかれさま〜」

遅れてカカシもテントへと戻り、の隣の椅子によいしょ、と腰かけた。
ふぅー、と全身の緊張した筋肉をほぐす。
この数時間で、だいぶ筋肉を酷使した気がする。
男のカカシでこの調子なら、なんてもっと大変だっただろう。

「これを一人でやってたの?」
「ん、まあね。すごいでしょ?」
「尊敬します」

素直にそういえば、照れたようには笑った。

「そういえば、なんだか色々もらっちゃったね」

机のほうに目をやれば、最初にカカシが貰ったお菓子を含めて頂き物がずらっと並んでいた。

「素敵な報酬でしょ?あの楽しそうな笑顔を見られるだけで満足なのにね」

その様子を思い出しているのか、も楽しそうに微笑んでいた。

「・・・そうだね」

つられてカカシも笑みをこぼすが、その目はの微笑みに釘付けになっていた。
テントの裸電球に優しく当てられたは、なんだかいつもと違うように見えた。

ドキン、と跳ねた心臓はこの夏の暑さのせいなのか。

それでもまるで栓を開けたラムネのように、シュワシュワとなにかがこみあげてくる。

「あ、そうだ。よかったら明日、様子見がてらお祭り一緒にまわらない?」

屈託のない笑みがカカシに向けられて、またしても心臓が跳ね上がった。



*    *    *    *



「これだけ並ぶと、いよいよって感じするね!」

先ほどテントでの誘いにドギマギしつつも了承すると、せっかくだから出店の様子を見てから帰ろう、と提案してきた。
断る理由もなく、が楽しそうに歩く後ろをカカシはついて歩いた。

きょろきょろと出店の様子を窺いながら歩いていくは、ニコニコと楽しそうで。
だけどカカシは出店の様子どころか、に視線を持ってかれていた。

「やあお二人さん、さっきはありがとね!これ、冷えてるから飲んでって!」

店の前を通れば、着々と祭りの準備を進める住人達が声をかけてきた。
は差し出された冷えたラムネを受け取って、明日楽しみですね、と笑顔で応えていた。

「明日・・・か」

あんなに大汗かいてこんな立派なものを作り上げたのに。
わかってはいたけど、あまりにも一瞬だな、と少し寂しかったり。

ふと頭上を眺めてみれば、冷や汗を垂らしながら高い位置に飾り付けた電飾が明かりを灯していた。

いまだ準備を進める住人達の暑苦しいほど楽しそうな笑顔、額に輝く汗。

色とりどりの提灯が、ふわふわと宙に浮かんで空中を賑わせる。

出店の裸電球がオレンジ色に輝き、布越しの鮮やかな色の明かりが地面をキラキラと照らす。


「カカシさんっ!」


ふわっと振り向いたは、あ・・・と思わず声が出てしまいそうなほど輝いて見えた。

それはまるでお祭りの煌めきをすべて背負っているようで。


「明日、楽しみですね!」


ポン、と音を立てて開けたラムネは、たくさんの泡で包み込みながらふわりとビー玉を落とした。


「そうだね、


名前を呼べば、周りの煌めきに負けないくらい輝いた笑顔を向ける。

そんな彼女に、ラムネのビー玉のように、カカシもふわりと恋に落ちて。