神社が近づくにつれ、ますます人が増えてきた。
途中に露店の主人たちから声がかけられ、店の繁盛っぷりを目の当たりにした。
どこもかしこも賑わいをみせ、大人も子どももニコニコと楽しそうに祭りを楽しんでいる。

「さ、神様に挨拶しなきゃね!」

ようやく間近に迫ってきた神社。
祭りのときに見るとなんだか雰囲気も壮大で。
ぽよんぽよんと水風船をはじいているも、少し背筋を伸ばしていた。
そんな可愛らしい行動にカカシはつい笑ってしまいそうになるが、たしかにそれも一理ある。
いつもの猫背を少しだけしゃんとしてみたり。

大きな朱色の鳥居をくぐると、本殿までの参道にも出店はぎっしり並んでいた。

「あついねー!」

パタパタと手で顔を仰ぐ
暑い夜は人々の熱気でなおさら暑さを増していて、祭りの裸電球は容赦なく温度を上げていく。

「だったらこれでしょ」
「ん?」

暑いと言う割には手を離さないの手をひっぱり『氷』と旗をあげている出店へと向かった。

「らっしゃい!おっ、カカシさんとちゃんか!」
「どうも。おじさん、氷二つね」
「あいよ!」

氷が溶けそうなくらい眩しい笑顔を見せる主人は、ガリガリと涼しげな氷を器の中に削り始めた。

「お味はどうするかい?」
「わたしイチゴ!」
「じゃあレモンで」

主人はシロップを手に取り、削った氷の上に手際よくかけていった。
シロップがかかった途端にやわらかな氷はさっそくとけだしていく。

「特別に・・・はい、おまたせ!大盛り二つ!」
「ありがとうございます、いただきます」
「まいど!楽しんでってねー!」

二人分の代金と引き換えに山盛りの器を受け取り、ピンク色のかき氷をに渡した。

「はい、さっきの綿菓子のおかえし」
「えっ!あ、いいのに!しかもわたしたくさん食べちゃったし・・・」

ごそごそと財布を取り出すの手に無理やりかき氷を持たせ、さらにもう片方の手はさっきまでのように繋ぎとめた。
の喜ぶ笑顔が見られたならば、それ以上のものはなにもいらない。

「さ、氷がとける前にどこかで食べながら休憩しよ」
「あ・・・うん、ありがと」

の手を引いて、本殿へと歩みを進めた。

「あ!そうだ、本殿の横の道から河原に行けたはず!」
「そういえば・・・行ってみようか」
「うん!」

カラコロと、氷が解けないよう少し足早に。
神様にはまたあとで来ます、と挨拶をして、が教えてくれた道を通って河原へとたどり着いた。


さっきまでの賑やかなお祭りとはうってかわって、遠くにその賑わいが聞こえる静かな河原。
その中で、河に向かっているベンチを見つけ、そこへ並んで座った。

「ちょっととけちゃったかな」

鮮やかなピンク色のかき氷をストローでできたスプーンで一口すくい、すぐさまパクッと口へ運んだ。

「んー!つめたーい!」

美味しそうに微笑むの隣で、カカシも黄色のかき氷を一口。
ヒヤリとした感覚が口の中に広がる。

「カカシさん、カカシさん!」
「ん?」

の方を振り向けば、小さなスプーンに乗ったイチゴのかき氷。

「はい、イチゴ味!」

笑顔でスプーンを差し出す

それっていわゆる・・・、と考えた途端ドキッと心臓が跳ね上がり、手に持ったかき氷の器を思わず落としそうになってしまった。
慌てて器を持ち直し、ポーカーフェイスを取り繕う。

「あー」
「・・・・」

の声につられて口を開け、のかき氷を一口いただいた。

ヒヤッとしたそれはもちろん甘いけど、そんな甘さも感じられないくらい頭は舞い上がっていた。
冷たさだけが、オーバーヒートしそうな頭を少しだけ冷やしてくれる。

「カカシさんっ」

ちょいちょい、と浴衣のすそを小さく引っ張られた。
はっとしてを振り返ると、ちらっと上目づかいでカカシを見つめていた。

キラキラ輝く瞳がカカシをうつし、つやつやとした唇がほんのりとピンク色に染まっていて、頬も暑さで赤みをさしている。
夜風に揺れて髪の毛が魅力的に揺れて、サラサラと髪飾りが華やかさを増していた。

「・・・な、なに?」

痛いくらいに胸がときめいて、一気に体温が上がる。
どうしようもできない暴れる気持ちが、ベクトルも定かじゃなく、ただ器を掴む手に力が入る。

「カカシさんのも、一口ほしいなあ・・・なんて」
「あ、あぁ・・・いいよ」

力加減もできず、シャクっと乱雑にスプーンですくうと、ぱらぱらと器から氷が溢れ出た。

「わ、あらら、浴衣ぬれてない?大丈夫?」

見かねたがすぐさまポーチからハンカチを取り出した。
ぽん、と優しくカカシの濡れた手を拭き、べたつきを確認するように手で触れた。

「シロップでべたべたしちゃうかな」

の手が触れた場所が、熱を持ったようにあつくなる。

「ありがと。だいじょーぶ」

ますます体温が上がり、器の氷が容赦なくとけだしていく。

「はい、おれの」

もうどうにかなってしまいそうで、そんな顔を見られないようとにかくの視線を反らせようと、氷を盛ったスプーンをに手渡そうとした。

「わーい、ありがと!」
「!」

スプーンを受け取るのかと思いきや、そのままぱくっとかき氷を食べた

「んー、レモンさっぱりしてるー!」

心臓が破裂してしまいそうなカカシの一方、は無邪気にかき氷を楽しんでいる。

「でもやっぱイチゴ味かな!」
「はあ〜・・・・」

シャクシャクと自分のかき氷を食べるの横で、カカシは静かに深いため息をついた。

参った、かわいすぎる。

隣で無邪気にかき氷を食べるその姿も、もうなにもかもがカカシを翻弄させる。
頭がかっかして、熱暴走を起こしそう。

のより一段とはやくとけている自分のかき氷を、火照った顔を冷やすように食べ進めることにした。
スプーンを氷へさし、口へと運ぶ。

「・・・・」

このスプーン、さっきが口をつけていて・・・

ゴクリと喉が鳴る。

ゆっくりと口へ近づける。
ここで変に躊躇しても怪しまれる。

もうなにも考えないようにして、味も何もわからないままぱくっと一口。


「・・・・・・・」


あぁ、もう。
なんでこんな振り回されてるんだろう。


「ね、カカシさん」

相変わらず能天気にかき氷を食べているが、唐突にカカシの名前を呼んだ。


「お祭り、楽しかったね!」


無邪気な笑顔でそう言うものだから、堪えきれないほどの愛おしさが溢れだしてくる。

・・・」

氷の器をベンチの片隅に置いて、笑顔を見せるの両肩へ腕を伸ばした。

「カカシさん?」
、おれ・・・」

の体を引き寄せてゆっくりと顔を近づかせると、最初は戸惑いの色を浮かべていたの瞳が、静かに閉じられた。

唇が触れようとしたまさにその瞬間。














「あ・・・」

ふい、とが顔をそらし、夜空に輝く大輪へと瞳を輝かせた。

「わあ・・・」

ぽつりと言葉をもらすの顔は、次々に上がる花火の輝きに照らされていて、カカシはそのあまりにも艶美な姿に目を離すことができなかった。

その間にも夜空は花火で着飾っていき、赤や黄色の鮮やかな光が辺りを照らす。
気付けば静かな河原に、見事な花火を拝めようとぞろぞろと人が集まってきた。

花火が上がるたびに声が上がり、さっきまでの静かな空間は喧騒に包まれた。

「花火、きれいだね」

カカシに向けられた笑顔は、花火でぱあっと明るく照らされて、キラキラと輝いていた。


の   、    。」


耳障りなくらい、大きな音と共に一段と美しい花火が打ちあがった。

カカシの言葉はかき消されて、おお、と歓声が辺りに響いた。

「え?なあに?」

聞き返すの肩と顔に手を添え、ぐいっと引き寄せた。


「カ、カシさ・・・んっ!」


の言葉を遮って、花火と辺りの喧騒に紛れて口づけを交わした。

閉じていた瞳を開けると、驚きで見開かれたの瞳に夜空の花火が花咲いていた。

輝いていて、きれいで、華やかで。

ようやく口を離すと、はカカシに引き寄せられた体勢のまま固まっていた。
キスを交わせばおさまると思っていた熱い思いは、むしろその温度を上げていて。
もう一度味わいたいと身体がうずく。

呆然としているの頬を愛おしく撫でる。


のことが好きだ」


今度はゆっくりと、顔を寄せて優しく口づけて。
相変わらずの目は開けられたままで、いくつもの花火がその瞳の中で輝いていた。


「カカシさんの目、すごくきれい」


唇を離すやいなや、はうっとりと言葉をもらした。

「え?」
「花火が映って、キラキラしてて、とってもきれい」

頬を赤くしながらも優しく微笑む


の方が、きれいだよ」


幾度となく伝えたかった想いをようやく口にすると、思った通りは顔を真っ赤にした。

「そ、んな・・・こと、ない」

かああ、と頬を染めるその顔が、何度見てもカカシを魅了させる。

「あーもう、その顔、反則」
「ええ?!んむっ・・・!」

もう我慢なんてきかなくて、たまらずへ口づけた。


身体に響くドン、という花火の音。

わあ、と自然と巻き起こる感嘆の歓声。



夏まつりのクライマックス



喧騒に紛れてキスをした。