「ん〜・・・・♪」

上機嫌のカカシが手にしているのは、今日発売のイチャイチャシ ーズの新刊。
本当は家でゆっくりじっくりと読みたいところだが、あいにく今日は待機所に缶詰め。

待機所の隅のソファに座り、自分の世界に浸りながら大切にページをめくる。

「・・シ、・・・カシ!」
「ん?」
「ようやく気付いた・・・」

本から顔を上げれば、そこにはあきれ顔の

「あ、新刊?」
「そ」

短い言葉だけを交わして、は静かにカカシの隣に座っていた。
別に何かを話すわけでもなく、カカシは読書に没頭し、はぼんやり窓の外を見ていた。

ぺらっと大事そうにページをめくるのを横目に、もちらっと本の中身を覗いてみる。

「・・・・」

相変わらずの内容だが、なんとなく文字を追ってしまう。

「カッカシィ〜!」

突然、キンキンした声が遠くからかけられた。 さすがにその声には反応したカカシ。
本から顔をあげ、声がした方を向いた。

「あっ、やっぱりその本よんでる〜」

げっと顔を歪めるその女性は、とは面識がない。
挨拶をするべきか様子を見てみるが、一向にこちらを向かないので小さくぺこりと会釈した。
カカシと親しげに話しかけているということは、どうやら二人に交友はあるようだ。

「・・・・」

しかしカカシは何も言わずに、再び顔を本へ向けてしまった。

「その本、やけに本屋に並んでるよね。発禁本のくせに!」

気にせず話し続ける女性に対し、が返事をすべきなのかおろおろ。

「立ち読みでちょっと読んでみたけど、なーんかだめ。内容がないっていうか・・・さすが発禁本って感じ?」
「あのさぁ・・・」

ようやくカカシが言葉を発した。

「じゃあ聞くけど、あんたが面白いって思うのは、突然そのドアが開いてこの世の終わりを告げられたり・・・」

そうカカシが言うと、バンッと待機所のドアが派手に開いた。


「大変だ!!!太陽が落下してきてる!このままじゃ滅亡だ!!!」


「・・・とか。あいつが飲んでいるコーヒーに毒が入って毒殺されたり・・・」

カカシが視線を向けた先には、コーヒーを一口飲んだ忍がいた。


「うっ!!ぐはぁっ!!」


飲むや否や、どす黒い血を盛大に吐き出した。

「・・・とか。外で修業してるやつらが互いに高め合った末に大恋愛を繰り広げるとか・・・」

窓の外から、若い男女の怒号が聞こえてきた。


「好きだー!!!」
「わたしも好きー!!!」


「・・・とか。地面から手が這い出てきて、あんたを追い回すとか・・・」

パタン、と本を閉じたカカシ。

すると、地面からボコッとおぞましい腕がズルズルと伸び、ゾンビが地面から這い出てきた。


「ひっ・・・!」


ゾンビはそのまま、脇目も振らずに女性に向かって這っていく。

「本屋なんだから新刊が並ぶのは当たり前。読む読まないは自分の勝手。
 好みじゃないなら、読まなければいいじゃない。別に自来也先生・・・作者はあんたのためだけに書いてるわけじゃないんだから、好みって言葉を知ってから物を語りなさい」

そうカカシが話している最中にも、
ゾンビは女性の足元に這っていき、
ドアの近くには滅亡だ、と騒ぐ者が、
そして向こうではコーヒーを片手に血反吐を吐く者、
窓の外からは相変わらずの青春言葉がやかましいくらいに聞こえてくる。

「き、きゃあ〜〜!!!」

女性は半狂乱になって、ドアを塞ぐ者を強引にどかして待機所から出て行ってしまった。


「解」
「!」

カカシがとん、との額に触れると、今まで見えていた非日常のものが一気に消え去り、いつもの静かな待機所へと戻った。

「幻術・・・?!」
「あの人の、解き損ねちゃったけどね」
「・・・・」

そこまでやるか、という視線を向けると、少しばつが悪そうな顔でほおをかくカカシ。

「好きなもの悪く言われるの、気分悪いじゃない」
「まあ・・・そうだね、わたしもカカシのこと悪く言われたらやだもんなあ」
「・・・・」

はた、とそこでなにを自分は言ってしまったのか気がついた。

・・・それって・・・?」
「や、や、なんでもない!!!じゃね!」





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