本日カカシは昼過ぎまで任務。
一方はオフ。

いつものようにソファに座ってぼんやり本を読んでいると、突然コツコツと窓を叩く音が聞こえた。
なにごとかと窓を見てみると、そこには伝令の鳥が。

「うげー、任務かあ」

せっかくのオフなのに、と渋々窓を開け、早くしろと言わんばかりの鳥の足から手紙を受け取った。


【今から帰るけど家にいる?】


小さな紙に、見慣れた文字。

「これって・・・」

ハッとして端っこに書いてあるへのへのもへじを見て確信した。

「カカシさんからだー!」

一気にテンションが上がり、無意味に紙のにおいをかいでみたりした。
嗅覚にチャクラを集めればカカシの残り香が・・・・

「・・・はっ!」

視線を感じて窓の外を見てみると、奇妙な行動をしているをじーっと見ている伝令鳥がまだその場にいた。
コホン、といまさら取り繕い、ペンを手にした。

「えーっと、・・・家で待ってます、ハートっと!」

うへへ、とニヤニヤしながら伝令鳥の筒に入れようと思ったが、ふと思い立ってある一言を追加した。


【アイス買ってきてください】


とりあえずカカシが家に来るまでに家の中を片付けて、冷たいお茶を淹れておくことにした。
それからしばらくして、外から見知った気配が近づいてきたので玄関のドアをガチャッと開けた。

「おかえりなさい!」
「びっくりした。ただいま」

突然飛び出してきたの頭をぽん、と撫でてカカシは家の中に入っていった。
カカシはとりあえず装備を降ろし、ベストと額あて、手甲も外してラフな格好となり、ふーっとソファに腰かけた。
その間には用意していた冷えたお茶を渡し、カカシの隣にちょこんと座った。

「・・・・・・」

氷をカラカラ鳴らしながら何も言わずにお茶を飲むカカシに、なんだかも黙ってしまう。
そういえばどうして突然、伝令鳥を飛ばしてきたのか。
いつも家に来るときは伝令鳥なんて飛ばさず、二人とも自由気ままにお互いの家に行っていた。
それに今日の任務はそんなに忙しいものじゃないはずなのに、どうして疲れたような思いつめたような表情を浮かべているのか。
聞きたくとも、なんだか聞くに聞けない雰囲気に吸った息をそのまま吐いてしまう。

「今日さ」

沈黙を先に破ったのはカカシの方だった。

「暑かったね」
「あ、そう、ですね。うん。暑かった」

そして再び沈黙。

「あー・・・今日の任務、大変だったの?」
「ん、いや、そうでもなかったよ」
「そうでしたか。お疲れ様です」

カカシはありがと、と返事した後にまた黙ってしまった。

『あ、あれー、なんだろうこの感じ?』

笑顔の裏で冷や汗をかいてしまう。
なにかしたっけ、なんだっけ。

「あっ!」
「な、なに」
「あ、いや、なんでもないです」

そうだ、わかった。
アイスだ・・・。
任務で疲れてるのにアイスなんか頼んでしまった。
そういえばカカシはアイスを買ってきていない。
ああー、どうしよう。
手紙の返事に余計な一言を加えてしまったばっかりに・・・。

途端に冷や汗どころか、どっと脂汗が出てくる。

さ」

そうだ、カカシさんは甘いもの苦手だし、そんな人にアイスを買ってきてほしいなんて言うべきじゃなかったんだ。
なんだったら、自分で買いに行ってカカシさんの分のなにか甘さ控えめの美味しいものを買ってくるべきだったんだ。
あー・・・なんて気が利かないんだろう。

?聞いてる?」

せっかくの休みだったのに、あっ、そのためのお休みだったのか。
それをダラダラ本を読んで、挙句の果てに任務で疲れているカカシさんにアイスなんか頼んで、あー、もう、本当になんてことをしてしまったんだろう。

「どうした?なんかあったの?」
「えっ!あっ、え?なんですか?!」

床を見つめて考え事をしていたを覗き込むように声をかけてきたカカシに思わずビクッと驚いてしまった。

「どうしたの、なんかすごい汗かいてるけど」
「いや、なんでもない・・・いや、なんでもなくないです!」
「え?なに、どうしたの?」

突然声を張り上げるにカカシも戸惑い始める。

「カカシさん、本当にごめんなさい。カカシさんが怒るのも当然です・・・」
「え?」

カカシが怪訝そうに眉をひそめた。
その表情に、あー、やっぱり怒ってたんだ、と確信したはますます落ち込んでいく。

「うう・・・カカシさん疲れてるのに、アイス買ってきてとか、考え足らずでした・・・ごめんなさい・・・」
「ちょっと待って、なに、アイス?」
「はい・・・ごめんなさい・・・」
「なに、アイスって」
「え・・・?」

キョトンとしてるカカシに、もキョトンとしてしまう。
そんなタイミングでコンコンと窓を鳴らす音が聞こえた。

「あ・・・鳥・・・」
「そういえば俺が送ったの届いた?」
「・・・ん?」

途端に思考の回路がプツリと切れた。
その間もしつこいくらいコツコツと窓が鳴る。
染み付いた習慣で、思考は停止したまま窓に近づき伝令鳥を招き入れた。

「いま着いたのか」

そうつぶやいたカカシの声色はなんだか安堵したようだったが、そんなことに気づけるじゃなかった。

「あっ、あれ?」

窓を開けて入り込んだ伝令鳥は、の元ではなく一直線にカカシの元へ。

「ん?おれ?」
「まさか・・・」

文を受け取ったカカシのもとに慌てて駆け寄る。

「ま、まってカカシさん!それは・・・!」
「アイスってこれか」

が止める前に文を読んだカカシはフフッと笑いをこぼした。

「ごめんごめん、アイス買えなかったね」
「う〜・・・」

今となってはいろいろと恥ずかしい。

「と、ところで!なんでカカシさん、急に伝令鳥を?」
「あー・・・いや、うん・・・」

途端に歯切れの悪くなるカカシ。
気まずそうにクルクルと文を弄び、言うか言うまいか悩んでいる様子。

「いい家を見つけてさ」
「家・・・ですか」
「それで、うん、もういいか。、はい」
「わっ」

ソファに座るカカシの元から窓辺に立つへなにかが放られた。
パシッとそれを両手で受け取った
ゆっくりと手を広げるとそこには

「カギ・・・?」
「一緒に住もうか、
「!」

カギを握りしめ、ソファに座るカカシのもとに駆け寄りドサッと勢いよく抱き着いた。

「カカシさーん!」
「暑いよ、
「カカシさーん!!」

ぎゅうっと抱き着いて心の底からカカシの名前を呼ぶ。
それでもこの喜びが表しきれない。

「カカシさん!どうしよう、うれしい!」
「ま、今とあんまり変わらないかもしれないけどね」
「へへへ、カカシさんと一緒のおうち・・・」

はいはい、とあやすようにの頭を撫でるカカシも無意識のうちにニコニコと微笑んでいた。

「カカシさん、家、見に行きたい!」
「うん、行こうか。帰りにアイス買って帰ろう」
「はい!」

ワクワクと立ち上がったはふと考えた。

「そういえば、カカシさんもしかして緊張してた・・・?」
「・・・・・え?なにが?」

途端に目を泳がせるカカシに思わずクスクスと笑いが漏れてしまった。

「わかりやすーい」
「いやいや、そりゃ誰だって緊張するもんでしょうよ」

逃げるようにカカシもソファから立ち上がり、一足先に玄関に向かった。

「えー?カカシさんが?」
「まあ・・・そりゃね」
「アハハ!かーわいいー!」
「うるさいよ、おちびは」

珍しく顔を赤くして照れていたカカシはバタンとドアから出て行ってしまった。

「あ!あっ、ちょ、まってくださいー!」

なにも学習しないは先に出てしまったカカシを追って着替えもそこそこに、大慌てで後を追って出ていった。









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