「ねえねえ!金魚すくいしよーよ!!」
その声と共に、後ろからどかどかっと子供たちが群がってきた。
「あは、いこっか」
途端に増えた小さなお客さんたちに場所を譲るよう、二人はゆっくりとその場をあとにした。
相変わらず繋いだ手をそのままに、カラコロと下駄から小気味いい音を立てて歩いていく。
その間にも、あちらこちらと子どもたちが楽しそうに笑い合って走り回っている。
夜遅くまで遊べる楽しさ、辺りはすっかり暗いのに祭りの華やかな雰囲気、それが彼らのテンションを高めているのだろう。
忍術使用許可、と書かれた輪投げ屋では、アカデミー生と思われる子供たちが必死にチャクラを練って輪投げに集中していたり、
チョコバナナや焼きそば、フランクフルトを両手いっぱいに抱えている子供たちもいる。
「子どもたちがたくさんいると、お祭りのにぎわいも増すね!」
くすくすと楽しそうに子供たちの様子を見ている。
「ま、こんだけいると迷子の一人や二人・・・・」
とカカシが言った途端、後ろで大きな泣き声が聞こえた。
二人して声のする方を振り返ると、小さな男の子が顔を涙でぐちゃぐちゃにして声をあげていた。
「ぼく、大丈夫?!」
ぱっとはカカシから手を離し、急いで少年の元へと駆けて行った。
カカシもそのあとを追い、しゃがんで少年の頭を優しく撫でるの元へと向かった。
「カカシさん、この子、迷子みたい・・・」
ひっくひっくと哀しい目をする少年に、も困ったようにカカシを見つめた。
少年と言っても、まだアカデミーにも入れないような年端もいかぬ幼い子ども。
不安そうに二人を見たのち、再び顔を歪める。
「お母さんとお父さんと来たの?どこでいなくなっちゃったのかな?」
優しい声でが問いかけるものの、思い出したかのように大きな声で泣き叫ぶ少年にも困ってしまった。
「ほら、泣くなよ、男だろ」
見かねたカカシが男の子を抱き上げた。
最初はカカシの胸元に顔を埋めて大泣きしていたが、ぽんぽん、とカカシが背中を優しく撫でてやるとようやく落ち着いてきたようだ。
「どうした、お母さんたち見失っちゃったのか?」
頃合いを見てカカシが話しかけると、まだ顔を埋めたままだが小さく頷いたのがわかった。
「名前、言えるか?」
「・・・・」
「ん、なに?」
顔を埋めたままもごもごと話す子どもを優しく離し、涙で真っ赤になった目を見ながら優しく問うた。
「・・・・タケ」
「よし、タケ。男がそんな泣くんじゃない」
「だ、だって・・・」
「ほら、この美人なお姉ちゃんに笑われちゃうぞ」
「ちょ、ちょっとカカシさん!」
かあ、と頬を赤くしてカカシの言葉を止めようとするだが、タケがの方を見てうん、と力強く頷いたもんだから、なんだか止めるに止められなくなってしまった。
「よし、いい子だ。どこではぐれたか覚えてるか?」
「あっち・・・」
「お母さんたちも探してるかもしれないから、行ってみようか」
カカシの言葉に小さくタケは頷いて、カカシに抱っこされたまま指差した方へと向かった。
「お父さんとお母さんの名前は?」
「マツと、ウメ」
知ってる?と後ろを歩くを振り返るも、カカシと同様知らないようだ。
はぐれたと思われる場所にたどり着くも、それらしき人物は見つからない。
「んー・・・あっちも探してるんだろうな・・・」
「わたしたちがここにいたほうが見つけやすいかなぁ」
「そうだねぇ」
やはり見つからないことに気付いたタケは、またしても鼻をすんすん言わせ始めた。
「こーら、タケ。泣くんじゃないよ」
「ひぅ・・・う・・・」
必死に涙をこらえるタケに、カカシは眉を下げて微笑んだ。
「ちょっと、交代」
「え?あ、ちょっと!」
はい、とタケをに預け、カカシはふらっといなくなってしまった。
「いっちゃった・・・」
ぽかん、としていると腕の中のタケが今度こそ涙を流さんばかりに唸りだした。
「だ、だいじょうぶだよ!みんなすぐ帰ってくるから!」
一生懸命あやしてみるも、頼もしいカカシもいなくなってしまった不安が大きいのかなかなか機嫌が直らない。
はやく帰ってきて、とカカシが消えた先を見ていると、思いのほかすぐに帰ってきた。
「はい、おまたせ。タケ、よく泣かなかったな」
ぎりぎり涙を流さなかったタケに、はい、とカカシはあるものを渡した。
「わたあめ・・・」
タケは素直に手を差し出し、カカシがくれた大きな綿あめを受け取った。
「わあ、よかったね!タケは強い子だもんねー!」
の言葉に小さく頷いて、ぱくっと綿あめを一口食べた。
「おいしい」
ぽそっとタケが言葉をもらし、もそっと綿あめをもぎ取った。
なにをするんだろう、とが見ていると、タケは小さな手に持ちきれんばかりの綿あめをの口へと差し出した。
「くれるの?」
「うん、おいしいから」
「ありがと」
あーん、と口を開け、タケの手から綿あめをぱくっと食べた。
「んー、あまくておいしいね!」
「うん」
にこっとが笑うと、タケは満足そうにうなずいた。
再び綿あめを手に取り、今度はカカシにあげようと手を伸ばしたとき、どこからかタケの名前を呼ぶ声がした。
その声に気が付いた二人は顔を見合わせ、おーい、と声の主を呼んだ。
「タケ!探したぞ!」
マツが声をあげ、ウメがタケを見るやいなやぎゅう、と抱きしめた。
タケは二人を見た瞬間、泣きそうな表情を浮かべたが、ぐっと目に力を入れて耐えていた。
それに気付いたカカシとは、こっそり目配せして微笑んだ。
お役目御免といったところでタケをマツへ帰すと、マツとウメは何度もお礼を口にした。
「本当にありがとうございました、もうなんとお礼を言えばいいのやら・・・」
「いえいえ。見つかってよかったです!タケ、じゃあね〜」
ウメに抱っこされたタケにが手を振ると、タケは綿あめごと手をふった。
カカシも手を挙げてタケに別れを述べ、マツとウメはカカシたちとは反対方向に帰って行った。
「ありがとお!」
ウメの肩越しにタケが顔を覗かせ、ようやく笑顔を見せていた。
三人の姿が見えなくなるまで見送って、ほっと一息。
「あーよかった、見つかって」
「カカシさん、綿あめ食べ損ねちゃったね」
「ん?あぁ、そうねぇ」
まあ甘いもの苦手だから、とに話しかけようと横を向くと、そんなカカシを置いてたたたっと小走りに人ごみの中へ入って行ってしまった。
「あ、・・・?」
突然の出来事にぽかんと消えた先を見つめていると、はすぐに戻ってきた。
「はい、カカシさんにあげる!」
が満面の笑みで差し出してきたのは、タケにあげたのと比べ物にならないくらい大きな綿あめ。
きっと先ほどカカシが買ってきた綿あめ屋と同じところに行ってきたのだろう。
「これ・・・」
「おじさんに無理言って大きいの作ってもらっちゃった」
大きな綿あめを嬉しそうにカカシに差し出す。
「カカシさんが、みごと迷子事件を解決したご褒美!その名も”タケをあやす姿に、ちょっとキュンとしちゃったり〜”の綿あめ!」
「・・・・」
自分で言ってて恥ずかしくなったのか、なんちゃってー、と顔を赤くするに、ついにカカシは吹き出してしまった。
「あっはは、なーによそれ」
「ちょ、笑わないでよ〜!」
そう言いつつもけらけら笑いだし、二人して綿あめそっちのけで笑い合っていた。
はあー、とようやく一呼吸おいて、改めてはカカシに綿あめを差し出した。
「はい、どうぞ」
自然と手はの手に伸び、綿あめの棒ごと手を優しく包み込んだ。
「ありがと」
身体を屈めて、大きく一口。
口に触れるやいなや、ふわっととけていく甘い甘い綿あめ。
久しぶりにこんな甘いものを食べたと思いつつ、唇の端についた綿あめを舐める。
「ん、おいしい。でもこんな大きいの俺一人じゃ食べきれないから、も食べよ」
「いいの?!」
実は綿あめを狙っていたのか、カカシの言葉にきらっと瞳が光ったは、それじゃあ遠慮なく、と大きな綿あめにかぶりついた。
「んー、おいしーい!」
一口食べて幸せそうな笑みを浮かべるに、ついついカカシも笑みがこぼれてしまう。
「ついてるよ」
大きすぎた綿あめはの口に入りきらなかったのか、の頬にちょこんとついてしまっていた。
「わ、はずかしい!」
慌てては頬を触って取ろうとするが、惜しくも綿あめは反対側の頬。
「ざーんねん、こっち」
「!」
の頬に口を寄せ、ペロッと綿あめを舌ですくいとった。
「ん、あまい」
あまりに衝動的な行動に自分でも驚いたが、それ以上には驚いたのか、顔を真っ赤にして目を見開いたまま固まっていた。
「・・・さ、いこっか」
そんなを見ていると自分も恥ずかしくなってくる。
動かないの手をとり、神社に向かって引っ張り歩き出した。
「・・・・」
「・・・・」
カラカラと二人の下駄の音だけが鳴り響く。
二人の顔は暑さのせいか、恥ずかしさのせいなのか、ほんのりと赤みを帯びていた。
しっかりと握られた手はほこほこと暖かく、カカシに引っ張られているはその後ろ姿を見つめていた。
がっしりとした背中、浴衣のすそから覗く白い肌。
どうしてか胸が高鳴って、頬の赤みはなかなかとれない。
もぐっと綿あめを一口食べると、さっきのカカシのことを思い出してますます鼓動が激しくなる。
突然、頬に口づけられたかのように寄せられたカカシの顔は、銀色の髪がふわりと揺れて美しく輝いていた。
昨日の設営中に見せた男らしい姿、そして子どもをあやす姿、そんな一面を見せられて、なにも感じないわけがない。
今日だって、いつもの忍服姿はどこへやら、若草色の浴衣姿に何度も心ときめいてしまった。
もう、なんてずるいんだろう。
口の中に甘さが残っている。
ふわふわ甘い綿あめはすっかりとけて、あまくして。
お願いだから、いま振り向かないでね。
きっとおかしな顔してるから
その瞳に、ふわふわあまい恋に落ちてしまうから。
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