カチカチと、時間が一定のリズムで進んでいく。

ずっと見ていたって、そのリズムが遅くなったり、ましてや早くはならない。
けれど、時計の前から離れられない。

今日は9月の15日。
時刻は、23時をとうに過ぎたところ。

「カカシさんのお誕生日、おわっちゃいますよぉ〜・・・」

無情に時を刻む時計に文句を飛ばしても、姿が見えない相手に文句を飛ばしても、無常感が増すだけ。

「お誕生日、顔見てお祝いしたかったけど無理そうかなあ」


* * * *


数日前から任務で里外に出かけてしまったカカシ。
本当は、15日の0時ぴったりにお誕生日おめでとう、と言いたかった。

若干の希望を持って、14日の日付が変わる前からそわそわカカシの帰宅を待っていたが、そんなうまい話じゃないわけで。
その時も、時計をじっと見つめて0時になった瞬間を見届けていた。


「お誕生日おめでとう」


きっと、どの誰よりも早く、お誕生日をお祝いできた!と満足して眠りについた。


迎えた15日の誕生日当日。
気晴らしをかねて買い物に街に出てみれば、いつもの日常の風景が広がっていた。

あぁそっか。
他の人たちからしてみれば、今日という日はいつもの日の延長。
街の中で自分一人だけが舞いあがってて少し恥ずかしかったが、それがなんだか特別なことにも感じた。
誰だか知らないけれど、近くにいる人に教えたくなる。


今日は、カカシさんのお誕生日なんだよ


そんなことをする勇気はさすがにないから、心の中でいろんな人に宣伝しておく。
カカシさんにこのこと言ったら、またバカなことして〜、なんて言われちゃうかな
でも今日は特別な日だから。


おいしい秋刀魚が入ったよ、といい知らせを聞いて秋刀魚を買って、ナスも買う。
やっぱり、好物な食べ物を作ってあげたい。
ほんとはとびっきり甘〜いケーキを食べたいけれど、甘いものは好きじゃないから、今日は我慢。

いつものように作るご飯も、なぜだか今日はやけに力が入っちゃって、なんだか派手な盛り付けに。
秋刀魚を焼いたおかげで部屋中が秋刀魚のにおいになってしまった。

換気をするために窓を開ける。
ひゅう、と入り込んできた風は、つい最近まで熱風だったのに、いつのまにか秋風の涼しさを持っていた。

部屋の中の秋刀魚は部屋中を縦横無尽に泳ぐ。
はやく、どこかに泳ぎに出て行ってほしい。
焼き魚のにおいは、けっこう染み付く。

見えない秋刀魚たちは、さんざん部屋中を荒らしたあとに、ようやくどこかへ消え去った。
窓を閉めると、秋刀魚のかわりに冷気がそこら中に広がっていた。
軽く身震いをして、一足先に秋を味わってしまった、と微笑んだ。


夕飯を一緒に食べられる時間に帰ってこられそうにないということは聞いていた。
けれど、やっぱり期待してる自分がいて、玄関の扉があく音を待ち望んでいた。

とりあえず、お風呂に入って、それからどうするか考えよう。




そして時間は過ぎて、うんともすんとも言わない玄関を睨みつけてから時計がよく見える場所に座り込んだ。

時刻は23時。
さっきまで空いてたお腹も、時間がたってなにも感じなくなってしまった。
秋刀魚は一足先に冷蔵庫で眠っている。

カチッ

長針がまた一歩、先へと進んだ。


「お誕生日、顔見てお祝いしたかったけど無理そうかなあ」

はあ、とため息をついて最後の悪あがきで玄関の外に出てみることにした。


「わあ、月あかるい」

特別寒いという訳ではないが、やはり昼間よりは肌寒い。
いつも報告書を提出してカカシが帰ってくる方向をじっくり見てみる。
月夜に照らされた道には、カカシどころか人っ子一人いない。

たぶん、まだ0時にはならないはず。
少しだけ、ここで待ってみよう。
さっきよりはモヤモヤした気持ちが晴れる。


「〜〜〜♪」

夜空にきらめく星を見ていたら、なんとなく気分がよくなって、はなうたが自然とでてくる。

「♪happy birthday dear・・・・」

もし任務が入ってなかったらなぁ・・・
はやく帰ってきてよ、カカシさん
そしたら、ちゃんと名前を言ってあげる。
ちゃんと歌ってあげる。




「はなうたなんか歌っちゃって。ご機嫌だね」

「・・・カカシさん、お誕生日おめでとう!」





生まれてきてくれてありがとう



大好きなあなたへ

お誕生日、おめでとう







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