お昼の暖かい日がさす中、窓際の席に座ってゴリゴリとコーヒー豆を挽く。
ポカポカとした穏やかな気候と、コーヒー豆のいい香りがほどよい眠気を誘う。

すると、心地よいベルの音をたててドアが開いた。

「いらっしゃいませ。あ、カカシさんとヤマトさん!」
「や、ちゃん」
「どうも」

カカシとヤマトがにこやかにに挨拶をした。
ひっそりと街の片隅で経営してるこの喫茶店の、大事な常連様。

「ここどうぞ。いつものです?」
「あぁ、よろしく。ありがとね」
「はい。お願いします」

急いでコーヒーミルを片付け、二人を席に案内してから店の奥へ戻った。


「・・・ヤーマートー。なんでお前もいるのよ」
「こっちのセリフですよカカシせんぱ〜い」

がいなくなった途端、表情が一変して互いを睨み合った。

「あのねぇ、俺はちゃんと話すために来てるの。お前と仲良くお茶するためじゃなーいの」
「あらあら奇遇ですね。僕もですよ」

ヤマトが厭味ったらしく言うからカカシも反論してやろうと口を開くと、がコーヒーを持ってやって来た。
慌ててに微笑む二人。

「お待たせしました〜。カカシさんはすこし濃いめのアメリカン、ヤマトさんにはミルクたっぷりのカフェオレ」

ことん、と二人の前にコーヒーを置いた。
二人はいただきます、と言ってさっそく一口飲んだ。

「んー、やっぱここのコーヒーはおいしいねぇ」
「ふふ、ありがとうございます。そういえば、この前もお二人でいらっしゃってましたね。仲好しさんですね」

屈託のない疑いなくは二人に笑いかけた。

「ま、腐れ縁ってやつ?でも今日はちゃんと二人っきりが良かったんだけどね?」

カカシが色っぽくにそう言うと、は照れたように笑った。
カカシの先手攻撃を見たヤマトは、どう反撃しようかと悩んだ。

さんも一緒にお話しませんか?」

ヤマトは得意の木遁忍術を用いて、装飾にこだわった椅子を作った。

「え!ヤマトさんすごい!」
「木遁忍術です。カカシ先輩にはできなくて、僕と初代火影様しかできないんですよ」
「へぇー便利ですねぇー」

は出来上がったばっかりの椅子に座り、ヤマトに微笑んだ。
少しずれたの回答に力が抜けたが、その微笑みにでれっと頬が緩んだ。
ヤマトは挑戦的な目線でカカシを見ると、カカシはばかばかしい、と鼻で笑った。

「そういえばちゃん。これあげる」
「?なんですか?」

カカシが手を差し出すと、も手を差し出した。
小さなの手に、ころん、と小さいカメラのフィギュア。

「ああ!!これ!」
「これ、集めてるでしょ」
「はい!でも・・・なんでカカシさんご存じなんですか?」
「そりゃあちゃんのことならなんでも知ってるよ?」

これが何なのかというと、今子供に人気のチョコについているおまけなのだ。
ありとあらゆる雑貨を3センチほどの大きさのフィギュアにしたものだ。
カメラのほかに、アヒルの人形、サングラス、煙草などなど。
本来は子供をターゲットにしたおまけのはずが、いまや大人に人気が出て収集家が増えている。
はその収集家の一人でもある。

がそれを集めているのは以前から知っていた。
窓際の小さな戸棚に、こまごまとした雑貨フィギュアが並んでいるのを見て気が付いたのだ。
そのおもちゃにどこかで見覚えがあった。
運がいいことに、ナルトはそのチョコが好きだ。
チョコは好きだが、別におまけに興味はない。
サクラにあげてたり、適当にポーチに詰め込んでいるのを横目で見ていた。
がフィギュアを集めてると知り、カカシはナルトからおまけを貰ったのだ。

「わああ、かわいい・・・!カメラなかなか出なかったんです!あ、じゃあお礼にこれ、あげます」

はおもむろにポケットを探りだし、何かをとりだした。

「はい。お礼といっても、その・・・あまりものなんですが」

なにかと思えば、その雑貨シリーズのアヒルだった。

「それ、何個もあって。アヒルに好かれてるんですかね?」

可愛いから捨てられないんですけどね、とは笑った。
なんでもいい。
からなにかを貰ったということが嬉しい。
カカシにとって宝石以上の価値があるアヒルを、大事にポーチの中へしまった。

「ありがとう、ちゃん。喜んでもらって俺もうれしいよ」

さきほどのヤマトの視線を思い出し、負けずとカカシもヤマトを見た。
ヤマトは悔しそうにそっぽを向いた。

「ヤマトさんは黒猫」
「え?」
「で、カカシさんは、犬」
「犬?」

は唐突に言いだした。

「ふふ、なんだか似てる。雰囲気が」

カカシとヤマトは顔を見合って、ふ、と笑った。

「ヤマトの怠惰な態度とか本当そっくり。よく見てるね、俺らのこと」
「そうですね。カカシ先輩の女性に対しての人懐っこさとかね」
「おいヤマト?」
「はいなんですか先輩」

ばちばちと二人の間に火花がはしる。

「やっぱ猫と犬ですね」

ふむふむ、と間にはさまれたは納得していた。



その後、二人は任務の時間となり、店を出た。

「それじゃあまた来てくださいね!カカシさんヤマトさん!」
「ああ。またね、ちゃん」
「はい。では、また」


が見えなくなった頃。

「もーお前本当に邪魔!なんなの?」
「なんなのってなんですか。そっくりそのままお言葉を返しますよ」
「お前それ先輩に対する言葉?」
「先輩だったらもっと後輩に気遣ってくださいよ」
「お前が言える言葉か?」

カカシは呆れたように頭をかき、ヤマトを見つめた。

「・・・そうだ」
「なんですか?」
「俺とお前が勝負して勝った方が、に告白できる。どう?」
「ガイさんじゃあるまいし。まあ・・・受けて立ちましょう」
「お前、今日の任務のランクは?」
「Aランクです」
「俺も。何時から?」
「16時ジャストに里を出ます。場所は西に3里先です」
「俺は東に3里。しかも16時ジャスト」
「ということは」

カカシはヤマトを見た。
同時にヤマトもカカシを見た。

「「先に帰って(さん)のコーヒーを飲んだものが勝者」」

にやり、と二人は笑った。


「それじゃあ其の時まで」
「ええ、カカシ先輩」

そしてばらばらに解散した。

カカシは一度家に帰り、忍具を磨き始めた。
前日から磨いているが、念には念を。

ヤマトは任務の詳細が書いてある巻物を読みなおし、再び作戦を練り直した。
隊長はヤマトではないが、念には念を。

なぜならカカシに、ヤマトに勝ってに告白するために・・・!



そして迎えた16時。

偶然にも二つの班は同じ門に集まった。
カカシが隊長の班と、そしてヤマトは補佐として配属された班。

お互い見ないようにしているが、バチバチと火花を散らしている。


「カカシ上忍が遅刻してないって、どうしたんすか」

カカシの組の一人が不思議に思ってカカシに尋ねる。

「今日は急ぎの用があってね。だからさっさと片付けるよ」
「了解!」

そしてさっさとカカシ班は出発した。


『・・・僕の班はまだ出発しないのか?』

その様子を見たヤマトが隊長を見ると、ようやく隊長が重い腰を上げて

「ま、ゆっくりと気長に行きましょうかねぇ」

とゆっくり歩き出した。

『なんてことだ・・・よりによってこんなおっとりした人が隊長だなんて・・・』

焦燥感に駆られたヤマトは隊長を追い越す勢いで前進した。
何度もゆっくりいこうね、と注意されながら。


*   *   *   *   *


午後6時。

「よし、僕が一番だ」

帰りは隊長を置いて行き、さきに木の葉の里へ帰って来た。
予定より何倍もはやく任務は終わった。

どう考えても僕の方が先だ。
こんな早く任務が終わって帰ってきたなんて、新記録なんじゃないか?
さんに報告して、褒めてもらおうかな・・・なんて。


余裕をみせようとゆっくり店に向かって歩くが、どこか不安が勝り、早足になる。

「いやいや・・・なにを焦ってるんだ」

ふぅ、と一呼吸。

店は目の前だ。


念のため、先に気配を探っておく。

カカシ先輩はいない。


「よし!」


目をつぶる。
店の扉の前に立つ。
ドアのノブに手をかける。
回す。
ドアを押す。

そんな簡単な動作の一つ一つに願掛けをする。
どうかカカシ先輩がいませんように。
さんがこちらを見て名前を呼んでくれますように。


カランカラーン

ほっとするコーヒーの香り。
そしてさんが僕を迎える声が聞こえ・・・

聞こえ・・・ない?


目をそろりと開ける。


「なっ!!!」


そこには、コーヒーを持ちながら誰かにキスをされているさんがいた。


まさか・・・まさか!!


「あぁ、ヤマトーおつかれー」

キスを終えた誰かが僕に向かって手をふる。
その人はさんが持っているコーヒーを受け取り、それを一口すすった。

「あーおいしい。ヤマトも入れば?」

お店に入れず、僕はただ茫然と立つことしかできなかった。

「ヤ、ヤマトさん!あ、あのこれは・・・!」

こちらに気づいて真っ赤になって慌ててるさん。
それをニコニコと見ているカカシ先輩。
そして茫然と立っているだけの僕。

ああ、そうか・・・・。
「ヤマト、約束したろ?」
「うっ・・・」
「実はこれ、二杯目なんだよね」

余裕綽々といった表情でコーヒーを飲むカカシ。


「カカシ先輩の・・・カカシ先輩のバカアアア!!!」


僕は忍だから泣かない。

僕は大人だから先輩に八つ当たりしない。

僕は・・・、

僕は・・・さんを諦める。



ヤマトは走って店から出てしまった。

「あ、ヤマトさん!」

が後を追おうとする。
パシッ、との腕を掴んでを止めたカカシ。

ちゃん、いーの」
「え、でも」
「約束したことだから」
「約束・・・」

が不安そうにカカシを見る。

「それに、ほら、帰って来た」
「え?」


カランカラン


しょんぼり、とヤマトが店へと入って来た。

「ヤマトさん・・・」

よろよろとカカシの前の席に座る。
そしてため息一つ。

さん、僕にいつもの」

弱った笑顔をに見せた。

「・・・はい!」

も笑顔で答えた。


「カカシ先輩」
「よく戻って来たねぇ」
「やっぱり僕は・・・」
「諦めませんよ、って言っても無駄だからね」
「え」

図星をつかれたのか、ヤマトが引き攣った顔をうかべる。

「まあ諦めなくてもいいけどね?けどこの俺からを奪うのは絶対むりだから」
「・・・・」



「お待たせしましたヤマトさん、挽きたてのコーヒーですよ・・・ってあれ?」

がカカシ達の所へ来た頃には、すでにヤマトはいなくなっていた。
カカシが優雅にコーヒーを飲んでいるだけ。

「あの、ヤマトさんは?」
「もうあいつは放っておいていいよ。それよりちゃん」
「はい?」
「ここ、座って?」

先ほどまでヤマトが座っていた場所。
が素直に座る。

ちゃん、さっきの続きだけど」
「・・・はい・・・」
「俺はちゃんのことが好きだよ。ちゃんは?」

ヤマトが来る前にに想いを伝え、返事を待つ前に唇を奪ってしまった。
一方的に想いを伝えたきり、返事は聞いていない。

「わたしも・・・好き・・・ですよ」

恥ずかしいのかカカシと目を合わせない。
そんなが愛おしい。

「本当?」
「・・・はい」


ようやく顔をあげてカカシを見た。

「好きです、カカシさん」

「うん、俺も」


にっこりとほほ笑みあい、ほんのりコーヒーの薫るキス。

甘くて、ほろ苦い。




後日、またカカシとヤマトがいがみ合いながらの店へとやって来たのだった。


「いらっしゃいませ!いつものですね?」





Novel Top