二人の任務がお休みの、そんなある日の夜。 ソファで料理を作るを盗み見ながら、いつものように本を読んでいた。 今日の夕飯は何だろう、なんて子供じみたことを思っていると、 「カカシさーん、ごはんですよー」 と、台所からが呼んだ。 ぱたん、とたいして読み進めてもいない本を閉じ、ソファから立ち上がる。 そういえば油でなにかを揚げる音が聞こえていた。 なに揚げてたんだろうと、食卓についてみれば、テーブルの上にはご飯とみそ汁、サラダ。 「あれ?なにか揚げてなかった?」 「ふっふっふー」 カカシの質問には答えず、不敵な笑みを浮かべたがなにか台所で準備している。 「えー、なに、おれゲテモノ食う趣味はないよ」 「そんなものじゃないですよ!ちゃんと食べられるもので、わたしが食べたかったものを作ったんです!」 が食べたかったもの・・・・ 思いつく食べ物はハンバーグやらカレーやらお子様ライスが浮かぶ。 揚げ物なんだから・・・えーっと・・・ 「あ、からあげ?エビフライ?」 「そんなおこさまなチョイスしません!」 なかなか正解を言わないに不安を覚えつつも、ようやく準備を終えたらしいが大きな皿を持ってやってきた。 「ではでは、今日のメイン」 やけに焦らすおかげで、の持ってくるお皿を凝視してしまう。 なにが出てくるのか見当がつかない。 そしてのあの怪しい笑い方。 「やだーカカシさん、そんな怖い顔しなくても平気ですよー」 あはは、と朗らかに笑う。 そうだよな、大丈夫だよな。 自分が作りたいものを作ったらしいし、曲がりなりにも恋仲である相手にゲテモノは食べさせないだろう。 そう思って、緊張の糸を緩めた。 「じゃーん、天ぷらでーす!」 がそう言ったとたん、がくん、と肩の力が抜けた。 緊張していたからではなく、天ぷらという最大の天敵に戦意を喪失したからだった。 「〜・・・俺、天ぷら」 「嫌いなんですよね?もちろん知ってます!」 「じゃあなんで」 「ほら、嫌いなものは克服しなきゃ、ですよ」 「ですよ、って・・・」 は家で一番大きな皿の上に天ぷらが乗ったものを机の真ん中に置いた。 「わあ、おいしそう!」 だけが目を輝かせて席に着く。 「ほら、カカシさん、箸もって」 「・・・」 「はい、いただきまーす」 「・・・いただき、ます・・・」 いただきますと言った割に、箸を持ったまま動かないカカシを置いてパクパクと天ぷらに箸をつける。 サクッ、と音をたててサツマイモの天ぷらを食べている。 『でもせっかくが作ってくれたんだからね・・・』 と、思うのだが箸は天ぷらへと向かない。 そんなカカシに気が付いたは、む、とカカシのことを睨んだ。 「私の愛情たっぷりの天ぷらは食べられないんです?」 「いや、そういう訳じゃなくて・・・なんかサラダおいしいなー、て」 「もうサラダのお皿、空じゃないですか」 「白米もおいしいなー、て。はは・・・」 「ふ〜ん・・・」 じとっとカカシを見つめる目が、ザクザクとカカシの心に刺さる。 なにか小さい天ぷらはないのかと見てみるが、どれも立派で大ぶり。 大皿に伸ばした箸は、再び白米へと戻ってきた。 「・・・そっか」 その世数を見たは、はぁ、と哀しげにため息をついた。 「やっぱり・・・迷惑でしたよね。せっかくの夕飯なのに、私が食べたいからと言ってカカシさんの嫌いな食べ物をつくるなんて」 さっきまでの元気はどこへやら、しゅんとしたは箸をおいた。 「無理強いさせて気分悪くなっちゃっても困りますもんね。これ下げて、なにか作り直しますね」 泣きそうな笑顔を浮かべて、は立ち上がった。 が食べた分しか減っていない大皿を持って、急いで台所へ行こうとする。 「!」 哀しげな表情を見せるに、つい呼び止めてしまった。 その声に立ち止まっただが、カカシに背を向けたまま。 「た、食べるよ。の作ってくれた、天ぷら」 「え・・・?」 がゆっくりと振り返った。 「ほんと〜?」 落ち込んでいるのかと思いきや、にんまりと満面の笑みを浮かべていた。 「な・・・お、お前!」 「え〜、そこまで言うなら、はい、どうぞ!」 つかつかと戻ってきて、唖然とするカカシの目の前に大皿を置いた。 「この・・・騙したな・・・?!」 「え?なんのことですかぁ?さぁ、冷めないうちにどうぞ!」 レンコンを箸で掴んだは、楽しそうにカカシの口元へ運んだ。 「ほら、おいしいおいしいレンコンちゃんですよ!」 にこにこと天使のような笑みを浮かべると、禍々しいオーラを放つ天ぷらを交互に見つめ、この笑顔には勝てない、とあきらめて口を開けた。 「はい、あーん」 一口では食べきれないレンコンが、口の端に引っかかる。 衣が口の端についたことにゾゾゾと背筋が震える。 あとは口に入っている部分を噛み切ればいい。 でもその一口がなかなか動けない。 「ほら、ぱくっといってください」 見かねたがカカシの下あごをグイ、と押した。 その衝撃で、サク、と一口だけ口の中へと入った。 できるだけ鼻で呼吸しないよう、風味を感じないように咀嚼して、無理やり飲み込む。 「・・・はい、食べたよ」 たったの一口なのに、ぐったりと疲れてしまった。 けれど、はなんだか嬉しそう。 「カカシさんえらーい!よくできました!」 キャッキャとはしゃぐに、頭を撫でられる。 まるで子供が嫌いな食べ物を頑張って食べた時の親のように。 「・・・もしかしてさ」 「なんです?」 嬉しそうに頭を撫で続ける。 「日ごろの子ども扱いの仕返しだったり?」 「いやー、はは、どうでしょうね?わたしは天ぷらを食べてほしかっただけなんですけどねー」 さっきまでのニコニコ笑顔はどこへやら、図星を突かれたかのようなの表情に確信した。 「さ、食べよ〜っと!」 話題を変えるように頭を撫でていた手を即座に箸を持つ手にかえ、カカシが食べきれなかったレンコンを食べ始めた。 「おいしー!ね、カカシさんおいしいですね!」 「はいはい、おいしいね」 慌てて取り繕ってるがおもしろくて、つい笑ってしまった。 「あ!いまおいしいって!」 「あ・・・あー。まあね、が作ったものはなんでもおいしいよ」 「きゃー、なに言っちゃってるんですかぁ!」 褒めればすぐに喜んで、おいしそうに天ぷらをぱくぱく食べる姿はまるでお子様。 「まったく」 天ぷらで逆襲したに、そしてそんなに惚れ込んでいる自分に向けて呟いた言葉は、サクサクと音をたてる天ぷらにかき消された。 口いっぱいに詰め込んでいるの頬に、ちゅ、と口づければ、驚いたようには振り返った。 「あ、さっきの油がついちゃった」 手の甲で油を拭ってやり、カカシも再び箸を持った。 また食べてくれるの?!と瞳を輝かせているを尻目に、味噌汁を飲み干す。 「あー、うまかった」 「あれれ、おわり?」 大皿に盛られた天ぷらをが食べきれるか不安だったが、順調に食べ進める様子を見てカカシは箸を置いた。 「でもまあ、まさか本当に食べてくれるとは思わなかったですし、よしとしますか!」 「はは、ごちそうさま」 よし、と合格を貰ったカカシは、おいしそうに食べるの隣でゆっくりとお茶をすすった。 * * * * 夜が更け、さあもう寝るかとと一緒にベッドに入った時、ふと感じた。 「おなかすいた」 「・・・でしょうね!」 Drama TOP Novel TOP |