14日の夜。 ソファに並んで二人でテレビを見ていると、突然の方から口づけられた。 ムードもへったくれもないあまりにも唐突な口づけに驚きつつも、両手で彼女の体を抱きしめた。 「どうしたの?突然」 「だって・・・」 ちらっとが視線をあらぬ方向へ向けた。 カチリ、と長針が時を刻んだ。 「あ・・・」 「お誕生日おめでとう、カカシ」 朝の気配に目を覚ませば、目の前に幸せそうにすやすや眠る愛しい。 柔らかそうな頬に思わず手が伸びて、宝物に触れるように優しく包み込んだ。 「ん・・・」 ぼんやりと目を開けたは、カカシを見つめて微笑んだ。 「おはよ」 「おはよう」 はカカシの体に身を寄せると、ん〜、と眠たそうな声をもらして再び目を閉じた。 「、悪いんだけど任務だからもう行かないと」 「だめー・・・」 「日が暮れるまでには帰ってくるから」 「お誕生日なのに?」 「はは、関係ないでしょーよ」 ね?と優しく頭を撫でてやると、ようやくが顔を上げてカカシの方を向いた。 「御馳走、準備して待ってるね」 「うん、期待してる」 柔らかな頬に口づけて、幸せの詰まったベッドから抜け出した。 それからカカシは足早に火影室へと向かった。 今日の任務はどうしてか、直々に火影様から言い渡されるらしい。 重々しい火影室のドアをノックし、中へと入室した。 「あっーカカシ先生、今日は遅刻しねーの?!」 「バカね、カカシ先生だってちゃんとすることもできるのよ!」 「ふん、充分遅刻だ」 入った途端に子どもたちのけたたましい声が飛んできて、その向こうに優しく微笑んでいる火影様が座っていた。 「来たか、カカシよ」 キセルをぷかぷかふかしながら火影様は立ち上がった。 「んで、じいちゃん!今日はどんな任務でありますかー!」 威勢よくナルトが火影様へと近寄った。 その様子をハラハラしながら見守るカカシだが、火影様は朗らかにナルトに微笑んだ。 「うむ、ここで焦らしても仕方がないのう。ほれ、受け取れい」 「ん?」 「ほれ、サクラとサスケも」 名前を呼ばれた二人もタタタッと近寄り、なにやら大きな箱と巻物をそれぞれ受け取っていた。 「今日はわしが依頼主じゃ。任務内容は、その荷物の運搬作業」 「え〜〜!!」 「まあ、そう言うでない。これも立派な任務ぞ」 明らかに不服そうなナルトたちに、火影様はほっほっと笑った。 「目的地への地図は下におるエビスから受け取るがよい。わしはカカシとちょいと話がある。お前たちは先に行って参れ」 じゃあなー先生!と子どもたちが部屋から出ていく中、カカシ一人が部屋に残った。 「なんでしょう」 「のう、カカシよ。おぬし、今日誕生日であろう」 「え?」 「お誕生日、おめでとう」 火影様は、まるで愛しい我が子へ向けるような優しい微笑みをカカシに向けた。 「あ・・・ありがとうございます」 ハッとして慌てて頭を下げると、ころころと火影様は笑った。 「いやなに、あやつらを残したままでもよかったんじゃが、なにせ気恥ずかしくてのう」 「はは、あいつらの前で言われたら俺も恥ずかしいですよ」 「ほっほっ」 顔に刻まれた経験を語る深い皺をくしゃっと寄せて火影様は笑った。 「何はともあれ、おぬしがこれからもたくさんの幸せを受け取ることを、わしは心から願っておるぞ」 「・・・・」 火影様のあたたかな微笑みに、遠い記憶の片隅に残る亡き父親の面影を見たカカシは、思わず顔がほころんだ。 「さ、ナルトたちが待っておる。おぬしもはよう行くがよい」 「はい」 一礼をしてから火影室のドアノブへ手をかけたが、少し思いとどまり火影様を振り返った。 「あの、火影様」 「む?」 「ありがとうございます」 それだけ告げて、火影室をあとにした。 窓から差し込む太陽の光で、火影様の顔は見えなかった。 けれどきっと、相変わらずの微笑みを浮かべていたのだろう。 「カカシ先生おせーってば!さっさと行くってばよ!」 大きな箱を両手でしっかりと抱えているナルト。 エビスから受け取ったであろう地図をじっくり読み込みながら、大きな巻物を抱きかかえたサクラ。 同じように大きな巻物をジロリと観察しているサスケ。 「おれはお前たちの後ろをついていくから、さっさと出発だ」 「よーし!出発だってばよー!」 「反対よバカ!」 早速威勢よく歩き出したナルトの首根っこを掴んだサクラが、班の先頭を切って出発した。 「さてと」 いつもの愛読書を取り出し、あれやこれやと騒ぐ子供たちの監視もそこそこに本を広げた。 「・・・・」 いつもなら、本を広げた瞬間にその世界に入りこめるものだが、どうしてか今だけは考え事をしてしまった。 今まで自分の誕生日なんて、たいして気にしたことなんてなかった。 そりゃあ父親が生きていたころは盛大に祝ってくれたものだが、多忙を極めていたもので誕生日と休暇が合わさることなんて滅多にない。 母もおらず、一人さびしく家で誕生日を迎えたこともあった。 それどころか、戦場で血まみれになりながら、ましてや生死の境をさまよいながら9月15日を迎えることもあった。 誕生日がめでたいものだなんて、誰が決めたのだろうか。 この考えこそが年を取った証のようで、はあ〜、とため息をついた。 「・・・・ん?」 本から顔を上げると、なんだか見たことがあるドアの前。 「お、おいお前た・・ち・・・」 止めようとした寸前、ナルトが箱を抱えながら一生懸命に背を伸ばしてインターホンを押した。 状況がつかめないまま、ドアの向こうからパタパタと聞き覚えのある足音が近寄ってくるのが聞こえた。 「いらっしゃい、7班のみんな!そしておかえり、カカシ」 ドアを開けて迎えたのは、笑顔満開の。 「へへっ!おっじゃましまーす!」 「邪魔するぜ」 「お邪魔しまーす!わあ、先生たちの家はじめてきた!」 ニヤッと笑いながら三人は躊躇なく家へと上がって行き、はドアを開けて笑顔で迎え入れていた。 「えっ?いやいや、お前ら・・・ちょ、?」 どういうことなのかわからず子どもたちとを交互に見るも、は笑っているだけでなにも説明してくれない。 「ほら、カカシも!」 「あ・・・うん」 が開けてくれているドアをくぐり、訳も分からないまま家の中へと入って行った。 「ねーちゃん、これここに置いていいのかー?」 「あ、まってー!」 奥の部屋にいるナルトの元には行ってしまい、ぽつんと一人置いてけぼりのカカシ。 とりあえず履いていた靴を脱ぎ、ナルトの脱ぎ散らかした靴を整えカカシもその場へ向かった。 「よーし、任務完了だってばよ!!」 「おつかれさま」 カカシが部屋の中に入ると、ちょうどナルトが大きな箱を机の真ん中に置くところだった。 机の上には、が工夫をこなしたたくさんの手料理が並んでいた。 決して二人では食べられないような量、そして並べられた取り皿と箸はぴったり5人分。 「ね、カカシ!箱あけてみて!」 「え?おれ?」 全員の期待の目がカカシに向けられ、サクラにもほらほら、と促された。 机に近寄り、箱に手を添えてゆっくりと開けた。 「!」 箱を開けると、そこには赤いイチゴが眩しく輝く丸いショートケーキが。 わざわざプレートも置かれていて、 そこには『カカシ お誕生日おめでとう』と書かれていた。 「「「「お誕生日、おめでとう!」」」」 も、ナルトもサスケもサクラも、誰もが全員カカシの誕生を祝った。 その表情は、なぜか祝われている人物より楽しげで、嬉しそうで。 「どうもありがとう」 気付けばカカシも、自然と笑みがこぼれていた。 それから全員での手料理に舌鼓を打ち、賑やかなカカシの誕生日パーティーが始まった。 サスケとサクラが持っていた大きな巻物は、中を開いてチャクラを込めると、なかなか手が出せないような立派なシャンパンが口寄せされた。 「それにしても、さんと火影様ったら粋なことしましたねぇ〜」 「ちょ、ちょっとサクラちゃん!」 人一倍大きなショートケーキを頬張るサクラの言葉に、は恥ずかしそうに慌てていた。 「だってこーんな素敵なサプライズ、嬉しいに決まってるじゃないですか!ね、カカシせんせ!」 「んー?そうねぇ、嬉しすぎておれ泣いちゃいそうよ」 「あっはは!」 「カカシまで・・・」 かあ、と赤くなるに、高らかに笑うサクラ。 傍らではモリモリとの手料理を食べ続けているナルトとサスケ。 「でもほんと、嬉しいよ」 この場の雰囲気にのまれた頭が、子どもたちの前なのにするすると思った言葉を零してしまう。 こんな笑顔に囲まれて誕生日を祝われたのなんて、いつぶりだろうか。 いや、もしかしたら初めてなのかもしてない。 誕生日おめでとう、この言葉がこんなにも耳に心地よく響く日がくるなんて。 「・・・・」 サクラがカカシの顔を見つめたのち、のことを見つめた。 「ナルト、サスケくん!そろそろ私たちは帰りましょ!」 「えー、もう帰るのかー?」 「バカナルト!いいからほら!」 サクラは最後にショートケーキのイチゴを1つ頬張ってから、ナルトとサスケの腕を掴んですっと立ち上がった。 「え?みんなもう帰っちゃうの?」 「ええ!だってもう十分お祝いさせてもらいましたし、それに・・・」 つー、と意味ありげにカカシのことを見つめてニヤリと笑った。 「お邪魔しちゃ悪いかなーって!」 「こいつ・・・」 変に察しのいいサクラ。 ありがたいのやら恥ずかしいのやら、ぽりぽりと頬をかいた。 バタバタと帰り支度を始め、引き留める隙もなくあっという間に玄関の外へと出てしまった。 「じゃあさん、カカシ先生、お邪魔しましたー!」 「邪魔したな」 「のねーちゃんの料理、すっげーおいしかったってばよ!」 元気に手を振るサクラとナルト、そしてクールに構えているサスケ。 そんな三人にはニコニコと手を振った。 「今日は協力してくれて、どうもありがとう」 「あっ、そうだった!カカシ先生お誕生日おめでとだってばよ!」 「はいはい、ありがとね」 カカシも笑って手を振ると、三人もそれぞれ挨拶を返して帰って行った。 パタン、とドアが閉まった途端、急に静かになった我が家。 「なーんか、嵐みたいだったね」 「はは、そうねぇ。あ、せっかくだしさっき貰ったシャンパン開けようか」 「わぁ、やったー!」 カカシが冷蔵庫から冷えたシャンパンを取り出している間、は机の上を整理し、二人分のグラスを取り出した。 あれだけあった料理の数々もすっかり食べつくされ、すっきりした机にいつものように向かい合って座った。 グラスにシャンパンをゆっくり注ぐと、ふつふつと小さな気泡が浮かび上がった。 「改めて、お誕生日おめでとう、カカシ」 静かにグラスをぶつけると、カチンと小洒落た音が鳴った。 「ん、おいしーい!」 「うまいね」 ついつい二人してグラスが進んでしまって、あっという間にほろ酔い気分。 甘いケーキをちょっとつまんだり、の手料理を摘まんだり。 会話はもっぱら今日のサプライズのことについて。 いつから計画してたの?みんな最初から知ってたの?とカカシが質問しても、はくすくす楽しそうに笑いながら秘密、と可愛らしく答えた。 「でも、こんなに祝ってもらってなんだか悪いね」 「え?なんで?」 「だって、たった1つ歳をとっただけだよ?そんなにめでたいかなあ」 「めでたいよ!」 カンッとグラスを置いた。 「だって、カカシが生まれてこなかったら木の葉はダメだし、七班の子たちの先生にもなれなかったし、それに・・・」 「・・・・」 「なによりわたしと出会えなかったでしょう?」 のアルコールで赤くなった頬が、より一層赤くなる。 「だから本当に、めでたいことなの!わかった?」 照れたように笑うの直球な言葉に、カカシはかあ、と体温が上がった。 日付が変わった瞬間、愛する人におめでとう、と祝ってもらうこと。 尊敬してやまない存在に、幸せを願ってもらえたこと。 大切な教え子たちと共に誕生日を祝ってもらうこと。 誰もがみんな笑顔でいたのは、それは全部お誕生日がめでたいことだから。 「わかりましたか?カカシくん!」 照れ隠しのように少しふざけて言うに、カカシは小さく頷いた。 「・・・おれ、いますごい幸せかも」 「かも、じゃないでしょ?」 ふふっと笑うに図星をさされ、ついに観念した。 誕生日を迎えられたこと、そしてそれを祝ってもらうこと。 「幸せだよ」 カカシの言葉に満足したは、よく言えました、と言わんばかりにふわふわとカカシの頭を撫でた。 「わたしもカカシの誕生日をお祝いできて、幸せだよ。生まれてきてくれて、ありがとう」 「・・・」 カカシは腰を上げ、たまらずへ口づけた。 「幸せのおすそわけ」 「あはは、ありがと!」 お互いの幸せそうな微笑みが、なおさら幸せな気持ちにさせる。 「来年も、再来年も、その先もずーっとお祝いするよ。 だって今日は、カカシが生まれた日だから」 Novel TOP あなたの生まれた日 寄稿作品 (2015.09.15) |