「ただいまー」

忍具の詰まったリュックを背負ったカカシが帰ってきた。
今日は七班の子供たちの修行監督という少しは上忍師らしいことをしてきたらしい。

「おかえりー、お風呂わいてるよー」
「よかった、もう汗だくだよ」

外はミンミンとセミが騒がしく、夕方を迎えているというのにオレンジ色の太陽がジリジリと地面を焼き付ける。
そんな中、外で子供たち相手に修行をつけてきたのだから相当やられたのだろう。
リビングに立ち寄ることもなくそのまま風呂場に直行したカカシと、エアコンの温度を1度下げて台所に立つ

「えーっと」

冷蔵庫から冷やしておいたキュウリやナスの漬物を取り出して、テンポよくトントンと切っていく。
切り終わった後また冷蔵庫にしまって今度は卵と出汁つゆと。
あとはトマトと、枝豆と、買ってきた焼き鳥と、唐揚げと。
最後におにぎりを何個か握っているうちに、遠くからお風呂場のドアが開く音が聞こえた。

「あっつー」

間もなくして、腰にタオルを巻いただけのカカシがリビングに入ってきた。

「あーーー生き返るー・・・・」
「ちょっと着替えはー?」
「待って・・・もうちょっと・・・」

エアコンの風が当たるところで仁王立ちして冷風を浴びるカカシに、は笑いながらダイニングテーブルにさっきまで準備していた料理のお皿を並べていった。

「あれ、どうしたの」
「早く着替えておいで〜」
「りょーかい」

机に並ぶお皿を見て察したのか、急いでその場を離れて着替えに戻ったカカシ。
台所からはオーブンが音を立て、ズッキーニやトマトとトロトロにとけたチーズが美味しそうな匂いをさせているココットを机に置き、最後に冷蔵庫から缶ビールの箱を取り出した。

「おまたせしました」
「はい!」
「わっ!」

いそいそと椅子に座ったカカシの頬にキンキンに冷えたビールの缶をピタッとあてると、驚いたカカシは目を見開いてビールを受け取った。

「たまにはいいでしょ、居酒屋フルコース」
「うん、最高」

カシュッと泡がはじける音を立てながらプルトップを開けた。

「はい、お疲れ様ー、かんぱーい!」
「おつかれさん」

カツン、と小さく缶を当てたのち、色白い喉元を上下に動かしてグビグビッと飲むカカシを眺めながらもグイっとビールをあおった。

「っはーー!うっまいねー」
「おいしー!」

一気に飲み干したカカシは枝豆に手を伸ばしてさっそく一口。

「今日は汗かいたし風呂上がりだし、格別にビールが旨い」
「ふふ、ちょうどよかった」

目の前で美味しそうにビールを飲む姿が一番のいい肴で、ぼんやり眺めながらついついお酒が進む。
カカシはカカシで、たっぷり汗をかいた後の身体にビールが染み渡るのか、いろんなつまみに箸を伸ばしながらどんどんと缶を開けていった。


「でね、ふふ、一回家に戻ってね」
「ハハ、なにそれ」

すっかり出来上がった二人は顔を赤くしながら他愛もないことでクスクスと笑いあっていた。

「そういえば今日さ、サクラがおれのこと ”お父さん”って呼んでさ」
「アハハ!わかるなーそれ!」

そう笑うカカシだが、その顔がどこか幸せそうでなんだかもほこほこと幸せな気持ちになる。

「それをイルカ先生と飲みに行ったときに話したんだけどイルカ先生も笑ってて」
「うん」
「でね、フフ、イルカ先生もそのあとサクラに呼び間違いされたらしくって」

クスクス笑うカカシにつられても思わず笑いがこみ上げてくる。

「でもね、イルカ先生は ”お母さん”って呼ばれたらしくって」
「アッハハ!」
「なんとも言えない気持ちになったって」
「アハハ、なにそれ、ハハハ!」

涙を浮かべながらお腹を抱えて笑うにカカシも共にアハハと笑い声を上げた。

「でもなんか、わかるな、イルカ先生って、お母さんみたいだもん」
「ハハ、そうだよね。サクラからもそう言われて納得してたもん」
「アハハ!もーお腹痛い!」

アルコールの影響もあって、もうなにもかもが面白く感じて仕方がない。
そんな気分のまま、最後の二つになったうちの一つをカカシにも渡して自分もプルトップを開けた。

「ね、最後にもう一回、乾杯しよ」
「ん?いいよ。でもなにに乾杯?」
「んーーお祝い」
「お祝い?」

最後の最後に疑問がたくさん浮かぶが、もはや深く考えることを諦めたカカシはカシュっとプルトップを開けた。

「じゃあ、乾杯!」
「乾杯」

カツンとぶつけあったあと、カカシのことを見つめながらゴクリとビールを一口。

実は今日は記念日。
が初めてカカシのことを見かけた一方的な記念日。
それはもう5年前にもなるはずなのに、その時の記憶がつい最近のことのように新鮮に感じる。

「なんのお祝い?」
「それは秘密!」
「えー」

きっとカカシは知らないだろう。
あの時はじめてカカシを見かけてから、そしてこれからもずっと彼に夢中だろう。

でもそんなこと恥ずかしくて言えないから、ひっそりと今日はお祝い。

「わかった、虫歯が完治したんでしょ」
「ちがーう!虫歯なんてないし!」
「じゃあなんだろう・・・あ、わかった、あれでしょ」
「アハハ、さーなんでしょー」







Novel TOP